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コラム

公開日:2024/11/27

テーマ: 02.M&A

食品製造業界のM&Aのポイントを成功事例から観察

食品製造業界のM&Aのポイントを成功事例から観察

リード文

目次

食品製造業界のM&Aの特徴

食品製造業界のM&Aには、他の業界と比較していくつかの特徴があります。

規模の経済
食品製造業界では、大規模な生産設備や流通ネットワークを持つことが競争力の源泉となります。M&Aによって生産規模を拡大し、コスト削減や効率化を図ることが一般的です。他の業界でも規模の経済は重要ですが、特に食品業界ではその効果が顕著な業界の一つです。

規制対応
食品業界は、健康や安全に関する規制が厳しいため、買手の場合には売手がどの程度の基準で規制に対応しているか、自社と同じ基準にすることは可能か、の検討が必要です。

消費者トレンドの影響
消費者の嗜好やトレンドの変化が直接的に業績に影響を与えるため、M&Aの際には市場の動向を見極めることが重要です。例えば、健康志向や環境意識の高まりに対応するために、オーガニック食品やプラントベース食品のメーカーを買収するケースが増えています。

サプライチェーンの統合
食品製造業界では、原材料の調達から製品の製造、流通までのサプライチェーン全体を効率化することが求められます。M&Aによってサプライチェーンを統合し、安定した供給体制を確立することが重要です。

食品製造業界ならではのメリット

買い手のメリット

規模の経済の実現
生産設備や流通ネットワークの統合により、コスト削減や効率化が図れます。大量生産によるコストダウンや、物流の効率化が可能となります。

製品ラインナップの拡充
M&Aを通じて、既存の製品ラインナップに新しい製品を追加することができます。これにより、消費者の多様なニーズに応えることができ、売上の増加が期待できます。

技術やノウハウの獲得
買収先の技術や製造ノウハウを取り入れることで、自社の技術力を強化することができます。新しい製品開発や品質向上に役立ちます。

売り手のメリット

事業の継続性確保
経営者の高齢化や後継者問題を抱える企業にとって、M&Aは事業の継続できる手段となります。買い手企業に引き継ぐことで、従業員の雇用も守られます。

ブランド価値の向上
買い手企業のリソースを活用することで、自社ブランドの価値をさらに高めることができます。大手企業のマーケティング力や販売網を活用することで、ブランドの認知度が向上します。

資金調達
事業売却により、まとまった資金を得ることができます。この資金を新たな事業展開や投資に活用することが可能です。

食品製造業界ならではのデメリット

買い手のデメリット

統合コスト
売手の取得費用、M&Aアドバイザーに支払う費用、またM&A後の統合プロセスには費用がかかります。統合プロセスではシステムの統合、従業員の再配置、設備の更新など、予想以上のコストが発生することがあります。

ブランド統合のリスク
異なるブランドを統合する際に、消費者の混乱やブランドイメージの低下が生じる可能性があります。ブランド価値を維持しつつ統合することは難易度が高いです。

規制対応の複雑さ
食品業界は規制が厳しいため、買収先企業の規制対応状況を把握し、必要な対応を行うことが求められます。これには多大なコストと時間がかかることがあります。

売り手のデメリット

従業員の不安
M&Aに伴う組織再編やリストラの可能性があるため、従業員に不安が広がります。これにより、士気の低下や優秀な人材の流出が発生する可能性があります。

市場からの評価低下
売却が市場から「経営不振」と見なされる場合、企業の評価が低下するリスクがあります。これにより、残された事業の信用や取引関係に悪影響を及ぼす可能性があります。

食品製造業界の課題とM&A

食品製造業界の近年の主な課題として、”原材料の価格変動””環境問題編お対応””消費者の健康志向の高まり”が挙げられます。
これらの問題をM&Aで解決を図るパターンが多くあります。

原材料の価格変動
天候不順や国際情勢の影響で、原材料の価格が不安定になっています。これにより、コスト管理が難しくなり、利益率の低下が懸念されています。M&Aによって、特に売り手は、より大きな企業の傘下に入ることで仕入れ先に対する交渉力が上がり、安定した価格で仕入れやすくなります。

環境問題への対応
環境保護の観点から、持続可能な生産方法やパッケージの使用が求められています。これに対応するための技術や設備の導入が必要です。SDGsを推進するための技術をM&Aによって獲得するケースがあります。

消費者の健康志向の高まり
消費者の健康志向が高まり、オーガニック食品や低カロリー食品、プラントベース食品などの需要が増加しています。従来の製品ラインナップだけでは対応が難しくなっています。上述してきた通り、製品ラインナップの拡充はM&Aのメリットの一つです。

食品製造業界のM&A事例3選

ニップンによる畑中食品の子会社化

コア事業領域の製造能力を強化し、持続的成長を狙うM&Aの事例です。
2024年9月にニップンは冷凍食品製造・販売を営む畑中食品を子会社化することを公表しました。
ニップンの成長事業である冷凍食品事業のさらなる拡大のため供給体制を増強する目的です。

ダイドードリンコによるたらみの子会社化

食品製造を営む企業が新規事業に進出するためにM&Aを実施した事例です。
2012年にダイドードリンコはフルーツ加工食品製造を営むたらみを子会社化しました。
ダイドードリンコは主力の清涼飲料水事業が国内の人口減少により伸び悩んでいたことから、たらみの買収により新規事業への進出を図りました。
また、ダイドードリンコの販路はコンビニエンスストア、自動販売機に依存していたため、たらみの販路を活用する習いもありました。

ブロンコビリーによる松屋栄食品本舗の子会社化

異業種が食品製造業界企業をM&Aにより取得した事例です。
外食事業を営むブロンコビリーは2022年に調味料や総菜を製造する松屋栄食品本舗を子会社化しました。
ブロンコビリーは自社で提供するソースや総菜類を自社開発にすることで、他社との差別化を図るとM&Aの目的を発表しています。

M&A成功の秘訣

上述してきた事例も踏まえて、M&Aの成功のためのポイントを紹介します。

明確なM&Aの目的
事業拡大のためにとにかく業績の良い会社をM&Aで取得する、というM&Aはなく、明確な目的をもってM&Aをすることが重要です。
紹介した事例では”食品製造事業のさらなる強化””隣接事業への進出と販路の確保””食品製造以外の別事業を強化”が目的として発表されています。

現状分析と今後の予測
M&A戦略を立てるには自社の強みや弱みなど現状を理解し、今後の市場予測から将来的に必要になる要素を把握することが必要です。
その上で新規事業として1から事業を始めることが難しい、または時間がかかるものをM&Aにより取得することがM&Aのポイントです。

M&Aのタイミング
M&Aの実施には、タイミングの見極めも重要です。特に売手がM&Aを検討するべきタイミングとしては、”業界再編のタイミング””経営者の健康状態が良好なタイミング”が挙げられます。

信頼できるM&Aアドバイザーに相談する
特にM&A経験の少ない中小企業がM&Aによる売却を検討する場合、M&Aアドバイザーを利用することを推奨します。
なぜなら、M&Aをする上でなにから始めればわからない、また、買手候補とのリレーションがなく、コンタクトが取れない、などの状況になりやすいためです。
M&Aアドバイザーを選ぶ上では、実績を重視するとよいでしょう、

まとめ

食品製造業界は、安全規制への対応や消費者トレンドの影響など、M&Aを検討する上で重要なポイントが多くある業界です。
成功事例を見ると、買手はM&Aの目的を明確にしたものが多く、M&Aの成功には現状分析に裏打ちされたM&A戦略が必須であることが分かりました。
売手としては経営者が健康なタイミングで外部の後継者を検討することが重要です。M&Aで他企業と協力関係を結べば、発展の幅が広がります。成功事例も多く、厳しい食品製造業界でも力強く生き残っていくことが可能です。

監修者情報

山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室