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コラム

更新日:2024/12/13 公開日:2024/10/24

テーマ: 10.持続的成長 11.事業再生

中堅中小企業の経営論点  鉄鋼・非鉄業界 第3回:ファミリービジネスの潮流

本コラムは日刊工業新聞の連載「中堅・中小 鉄鋼非鉄経営の最前線」に掲載された③ファミリー企業の強さ弱さ(2023年6月1日)及び、㉓オーナー企業とガバナンス(2023年12月21日)を元に加筆したものです。

目次

今回は、ファミリービジネスを掘り下げる。前半はファミリー企業における成長の共通点、後半はオーナー企業とガバナンスの問題を考えていく。

ファミリービジネスとは

 創業家が株式の集中保有や経営面で強く関与する企業を一般的に「同族企業」や「オーナー企業」と呼ぶ。事業承継を契機とした大手資本への再編も増加しつつあるが、例えば特殊鋼や線材二次加工など中堅中小企業が多い分野のほか、問屋流通や二次三次製品など地域性のある事業では有力なオーナー企業はいまだ多い。
 創業家は時にカリスマとして組織を導き、時にワンマンとして停滞を招く“諸刃の剣”となる。世界では「ファミリービジネス」という名で研究が進んでおり、収益性や安定性に優れるという統計結果もある。持続的な成長を続けるファミリー企業の共通点は何か探る。

Key Point

・メーカー系や、商社系など中堅中小企業の再編も増加しているが、有力なオーナー企業はまだまだ健在

成長持続 3つの共通点

 1点目は実力本位の人事だ。「どうせ当社はオーナー家の会社で我々に権限はない」。停滞する企業では多く耳にするフレーズだ。一方、好業績のファミリー企業では帰属意識が強く、活躍する非同族社員を数多く目にする。同族に限らず評価し抜擢(ばってき)する公平な人事制度とキャリアステップが重要になる。
 同時に実力不足の同族への処遇や育成も問われる。昨今の経営者は同族に対しても冷静な評価をする。承継候補者も実力不足を認識し、外部で研鑽(けんさん)を積む事例も増えている。

 2点目は企業変革だ。家業を次代につなぐ意識の強さ、堅実な経営は時に企業の保守性も強める。一方、長い歴史では企業変革も求められる。
 流通から始まり高い技術力で部品加工を手がけるある企業は祖業を捨て、進出と撤退を繰り返しながら時代を生き抜いてきた。コンサルティングの現場では創業者の思いや沿革、社史を確認する。慣性の法則を超え、企業変革に対する勇気と覚悟をDNAに持つ企業は強い。

 3点目はファミリーとの関係だ。ファミリー企業は、株式会社の基本原則である「所有」と「経営」の概念に、さらにファミリーが加わり一体化した複雑な企業形態でもある。
 ある経営者は先代での関係不和が企業経営に悪影響を及ぼしたことを反面教師としていた。意図しない株式の分散も事業運営や事業承継で足枷(あしかせ)となる。ビジネスに集中するためには、同族関係と資本政策の安定化も重要な要素だ。

Key Point

・実力本位の抜擢人事が、非同族社員のモチベーションを高める、事業承継候補者には冷静な評価と外部研鑽の機会を
・家業を時代に継ぐ意識の強さ、堅実経営は保守性も強める。企業変革に対する勇気と覚悟をDNAに持つべき
・株式会社の基本である「所有」と「経営」の分離に対し、そもそもそれらが一体であることに加え、ファミリーの意向も働く。関係が同族関係と資本政策の安定化も重要な要素。

 以上、成長するファミリー企業の3つの共通点を考察してきた。ファミリー企業に根付く創業の思いや経営理念は、価値観や事業戦略のよりどころになる。改めて社会に存在する理由やパーパスを見つめ直すことも勧めたい。「ファミリー企業は最先端か時代遅れか」。この問いへの答えは今を生きる企業にかかっている。

オーナー企業とガバナンス課題

 後半は、オーナー企業とガバナンスについてである。
「うちの社長はワンマンだから」―。オーナー企業の現場で頻繁に聞くフレーズだ。何を言っても聞かない経営者の前では従業員の思考は停止する。経営者は全知全能ではない。その勘違いが企業の停滞につながる。
 例えば、建材系や鋼材流通にはオーナー企業が多い。地場の需要にひも付き、サプライチェーン(供給網)を支える鉄鋼非鉄の中小企業は地域分散型であるからだ。
 現実に個人保証を行う多くの経営者にとって、会社は自分のものであるとの認識は強い。その当事者意識や責任感は従業員のそれとは別格だ。しかし企業経営の公正な判断や運営をゆがめては本末転倒である。オーナー企業の持続的成長にガバナンス(企業統治)を本気で取り入れたい。

Key Point

・オーナー社長は全知全能ではない、適切なガバナンスが攻めにも守りにも重要

外部ガバナンスだけでは不十分

 中堅・中小企業の経営には従来から銀行や顧客、同族など外部的な規律が働くことも多い。しかしその構造に変化もある。今後それを担う機能は何か考察していく。
 メーンバンク制。高度成長期、銀行が企業に対する外部統制の筆頭だった。しかし平成以降の自己資本増強の流れで役割は弱りつつある。「銀行対応は経理部長に任せている」と、自身は年1回程度の面談で済ますオーナー経営者も少なくない。
 顧客からの評価。特に系列を重視した自動車系で強い。サプライヤーによる監査や評価表による定点観測。製品品質のみならず製造工程や管理手法、企業統治に至るまで自社同等を求める顧客もある。これも一つのガバナンスだ。
 現在、自動車メーカーの系列を守る余裕は薄れつつある。顧客から学ぶ姿勢は持ちつつ、独立企業として改めて企業統治を構築したい。
 ファミリー、同族による監視。一部の長寿企業では本家や分家間の相互けん制など実質的な家族憲章が現経営者を監視することもある。しかし株の分散が規律を乱す場合、株式集約など資本政策が重要になる。ファミリーガバナンスは簡単ではない。

Key Point

・中堅中小の企業経営では、銀行や顧客、同族など外部的な規律が働くことも多い
・しかし、メーンバンク制や自動車業界の系列弱体化など外部規律も十分に機能していない

企業統治、内的規律強化を

 では何がガバナンスの軸になるか。例えば「番頭」の存在だ。オーナー経営者のストッパーであると同時に挑戦を後押しするエンジンでもある名番頭は、現代でも企業統治に重要な役割を持つ。
 ある中堅企業経営者は、積極的に取締役に非同族の生え抜きを任命し、それがいかに成長と統治に重要であるかを筆者に説いた。育成には何よりポストを用意したい。このサイクルが回れば、冒頭のようなセリフは出てこない。
 さらに外的規律に頼らない内的規律を強めたい。経営理念や行動指針などソフト的な規律もガバナンスには有効だ。突き詰めれば意識なのである。ある非鉄企業では事業承継前に経理フローや内部統制を改善。それらがスムーズに大手上場企業に引き継ぐことにもつながった。ガバナンスとは無縁の非上場オーナー経営者も事業承継に関しては人ごとではない。
 経営者のガバナンス軽視はハラスメントや不正の温床にもなり得る。上場企業にだけ課された遠いものと思うことなかれ。

Key Point

・番頭など非同族の経営幹部もガバナンスには有効である
・経営理念や行動指針などを上位に置く経営もガバナンスには有効、外部規律だけに頼らない内部規律をどう高めるかがポイント

山田コンサルティンググループ株式会社
経営コンサルティング事業本部
部長
横地 綾人(よこち あやと)

大手鉄鋼メーカーにて、製鉄所管理や本社販売計画等に携わる。山田コンサルに参画後は、事業戦略やM&Aを含む事業再編を数多く立案し、その後の実行まで伴走するスタイルを得意とする。
専門領域は鉄鋼・非鉄など素材業界だが、金属加工など中堅中小企業の実績も数多く持ち、日刊工業新聞など業界専門誌での連載も担当している。

中堅中小企業の経営論点  鉄鋼・非鉄業界 第2回:価格の最前線

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