コラム
公開日:2024/10/16
テーマ: 02.M&A
物流業界におけるM&Aの実践ガイド
物流業界は近年M&Aが盛んにおこなわれている業界です。
2024年問題と言われる時間外労働の上限規制により、物流業界の人材不足が進行していることが大きな要因です。
デジタル化を中核とした運送の効率化、サービスの変更や値上げによって対応する企業がある一方で、M&Aにより解決を図る企業もあります。
さらには、オンラインショッピング利用者などは減少する見込みはなく、物流需要は高まっています。
このような状況にある物流業界において、どのようなM&Aが行われているか、M&Aが成功するポイントなどを解説します。
目次
物流業界におけるM&Aトレンド
上述したように、国内では2024年問題を乗り越えるために人材確保や技術革新を目的としたM&Aが多いです。
海外でも同様に運転手が不足する中、需要が増え続けており、M&Aによる効率化の動きが見られます。
具体的な事例を見ながら物流業界のM&Aトレンドを把握しましょう。
国内における物流業界のM&A動向
2024年の日本国内における物流業界のM&Aは、大幅な増加傾向にあります。2024年上半期だけで57件のM&Aが公表され、前年同期の40件と比較して42.5%の増加を見せています。この急増の背景には、物流拠点や車両の拡充を図る「2024年問題」への対応や、需要低迷やコスト上昇による経営環境の悪化が挙げられます。また、大手物流企業間の競争も激化しており、AZ-COM丸和ホールディングスによるC&FロジホールディングスへのTOB(不成立に終わりました)や、SGHDの同社へのTOB決定などが注目されています。これらの動きは、物流業界全体の再編成を促進し、今後もM&Aの活発化が予想されます。
海外における物流業界のM&A動向
一方で海外の物流業界のM&A動向は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やオンラインショッピングの急成長を背景に、活発化しています。特に、アメリカやヨーロッパの大手物流企業は、技術革新を通じて効率化を図るために、積極的にM&Aを進めています。例えば、Amazonは自動運転技術を取り入れることで、ドライバー不足の問題を解決しようとしています。また、Bringgは配送のコミュニケーションを最適化するプラットフォームを提供し、物流プロセスの効率化を図っています。これらの動きは、物流業界全体の競争力を高めるとともに、環境問題への対応も促進しています。さらに、国際物流市場の規模は2029年までに1兆8,044億9千万ドルに達すると予測されており、今後もM&Aの動きが加速することが期待されています。
物流業でのM&Aを実施する目的
一般的にM&A実行前に、M&Aの目的を設定します。
M&Aによって何を解決したいか、どのようなメリットを享受したいか、戦略を立てることがM&Aのスタートラインといえます。
ここでは、物流業界において特に目的とされやすい内容を紹介します。
経営資源の最適化
物流業界におけるM&Aの大きなメリットの一つは、経営資源の最適化です。M&Aを通じて、企業は自社の弱点を補強し、強みをさらに強化することができます。例えば、ある企業が特定の地域での配送ネットワークを持っていない場合、その地域に強い企業を買収することで、即座にその地域でのサービス提供が可能になります。また、技術力やノウハウを持つ企業を買収することで、デジタル化や自動化といった最新技術を迅速に導入することができ、業務効率の向上やコスト削減が期待できます。これにより、競争力を高め、顧客満足度を向上させることが可能となります。
市場シェアの拡大
M&Aは市場シェアの拡大にも大きな効果をもたらします。物流業界では、広範なネットワークと多様なサービスが競争優位性を持つため、他社を買収することで市場シェアを迅速に拡大することができます。特に、地域的な強みを持つ企業を買収することで、新たな市場に迅速に参入し、既存の顧客基盤を活用して効率的に事業を拡大することができます。これにより、競争相手に対する優位性を確保し、収益の増加を図れます。また、規模の経済を活用することで、コスト削減やサービスの質の向上も期待できます。
リスク分散と安定経営
M&Aはリスク分散と安定経営にも寄与します。物流業界は経済状況や季節変動、災害、法規制などの外部要因に影響を受けやすいため、複数の事業を持つことでリスクを分散することが重要です。異なる地域や分野で事業を展開する企業を買収することで、特定の市場や顧客に依存しない経営体制を構築できます。これにより、特定の市場が不調でも他の市場での収益でカバーすることができ、経営の安定性が向上します。さらに、多様な事業ポートフォリオを持つことで、新たなビジネスチャンスを発見しやすくなり、長期的な成長を支える基盤を築くことができます。
物流業ならではのM&Aを実施する際に見ておくべきポイント
M&Aではデューデリジェンス(DD)といわれる、対象会社を調査するプロセスがあり、中堅以上の企業同士のM&Aや上場企業によるM&Aでは一般的に行われます。
ここでは、物流業においてはどのような点を重点的に調査、確認するべきか紹介します。
財務状況
物流業界でM&Aを行う際、買い手として最初に確認すべきポイントは、対象企業の財務状況です。財務諸表を詳細に分析し、収益性、負債の状況、キャッシュフローの健全性を評価することが重要です。特に、物流業界は車両などへの投資が多く、資金繰りが厳しい場合もあるため、負債比率や流動比率などの指標を慎重にチェックする必要があります。また、過去数年間の業績推移を確認し、安定した収益を上げているかどうかを見極めることも重要です。これにより、買収後の経営リスクを最小限に抑えることができます。
事業運営の効率性とシナジー効果
次に確認すべきポイントは、対象企業の事業運営の効率性と、自社とのシナジー効果です。物流業界では、効率的な運営が競争力の鍵となります。対象企業の物流ネットワーク、倉庫の配置、配送ルートの最適化状況などを評価し、どれだけ効率的に運営されているかを確認します。また、自社との統合後にどのようなシナジー効果が期待できるかも重要です。例えば、配送エリアの拡大や、技術やノウハウの共有による業務効率の向上などが考えられます。これにより、買収後の事業成長を促進することができます。
法規制とコンプライアンスの遵守状況
最後に確認すべきポイントは、対象企業の法規制とコンプライアンスの遵守状況です。物流業界は多くの法規制が存在し、これらを遵守しているかどうかは非常に重要です。例えば、労働基準法や道路交通法、環境規制などの遵守状況を確認し、違反がないかをチェックします。特に労働環境は重大事故につながり、会社の信用と事業継続に大きな影響を与える可能性があるので精査します。また、過去に法規制違反や訴訟問題があった場合、その内容と影響を詳細に調査することが必要です。これにより、買収後に法的リスクを抱えることを避け、安定した経営を維持することができます。
物流業で事業買収を成功させるために必要なこと
次に、成功事例を紹介しつつ、なぜそのM&Aが成功に至ったかを把握することで、物流業でM&Aを成功させるために必要なポイントを確認します。
成功事例に見る物流業 M&Aの鍵
ここでは「シナジー効果の最大化」「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」「経営統合のスムーズな実施(PMI)」の3点を解説します。
シナジー効果の最大化
M&Aの成功には、買収先企業とのシナジー効果を最大化することが不可欠です。例えば、セイノーホールディングスが地区宅便を買収した事例では、セイノーの広範なネットワークと地区宅便の地域密着型サービスが融合し、配送効率の向上とサービス範囲の拡大を実現しました。これにより、両社の強みを活かした新たなビジネスモデルが構築され、競争力が大幅に向上しました。このように、買収先企業の強みを自社の戦略に組み込むことで、相乗効果を生み出すことが成功の鍵となります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
物流業界では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が重要な成功要因となっています。例えば、自動化技術やデジタルプラットフォームを持つ企業を買収することで、業務効率の大幅な向上を実現するなどでえす。これにより、従来のアナログな業務プロセスがデジタル化され、リアルタイムでのデータ管理や最適化が可能となりました。DXの推進により、コスト削減やサービス品質の向上が図られ、顧客満足度の向上にも寄与します。物流業界におけるDXの重要性は年々高まっており、これを実現するためのM&Aは非常に効果的です。
経営統合のスムーズな実施(PMI)
M&Aの成功には、経営統合がスムーズに進むことが重要です。成功事例として、FedExが2016年に買収したオランダの物流企業TNT Expressの事例があります。この買収では、FedExはTNTの強力なヨーロッパネットワークを活用し、グローバルな配送能力を強化しました。統合プロセスでは、両社の企業文化や業務プロセスの違いを理解し、従業員のモチベーションを維持するためのコミュニケーションを重視しました。また、ITシステムや物流ネットワークの統合を迅速に行い、早期にシナジー効果を発揮することができました。これにより、FedExはヨーロッパ市場での競争力を大幅に向上させ、顧客満足度の向上と市場シェアの拡大を実現しました。このように、経営統合の成功は、M&Aの全体的な成功に直結する重要な要素です。
まとめ
物流業界は人材確保や事業エリアの拡大、効率化を目的として、これからもM&Aが盛んにおこなわれると想定されます。
業界ならではの注意点やポイントを理解し、ときには信頼できるアドバイザーに相談しながら自社を持続的成長へ導くM&Aを実現しましょう。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室