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コラム

更新日:2024/11/27 公開日:2024/09/19

テーマ: 02.M&A

ホテル・旅館業界における課題や近年の動向、メリットを解説

ホテル・旅館業界におけるM&A事例〇選!課題や近年の動向、メリットを解説

ホテル・旅館業界はM&Aが活発な業界の一つです。
特に近年ではインバウンド需要の増加や規制緩和、人手不足が要因となり、大手企業やファンドによるM&Aが多くなっています。
本記事ではホテル・旅館業界特有の業界動向や、売り手・買い手それぞれから見たM&Aのメリット、M&Aの実際の流れなどを紹介します。

目次

ホテル・旅館業界の動向と課題

ホテル・旅館業界はコロナ禍の影響を大きく受けた業界の一つです。
コロナ禍以降の業界の動向と課題を紹介します。

事業の特性やコロナ禍以前の業界動向についてはこちらの記事でまとめています。

インバウンド観光

新型コロナウイルスの影響で一時的に停滞していたインバウンド観光が、規制緩和により回復しつつあります。
海外からの観光客の増加はホテルや旅館業界に活気をもたらしますが、その一方で対応力が問われる面も多々あります。多言語対応や文化的ニーズの多様化に迅速に対応するための人材育成とインフラ整備が必要です。

人手不足と働き方改革

ホテル・旅館業界では慢性的な人手不足が続いています。特に地方の宿泊施設では深刻な問題となっており、従業員の採用や定着率の向上が急務です。また、働き方改革が進む中での労働環境の改善や効率化が求められており、シフト制の見直しやIT化による業務効率化が進められています。

サステナビリティ

環境意識の高まりと共に、ホテル・旅館業界もサステナビリティへの対応が求められています。プラスチック使用の削減やエネルギー効率の向上、地域社会との共生などが重要な課題です。また、エコフレンドリーな施設の導入がブランディング効果となり、国内外の環境意識の高い旅行者からの支持も得られる可能性があります。

デジタル化と顧客体験の向上

デジタル化の進展により、オンライン予約システムの整備やデジタルマーケティングの強化が不可欠となっています。顧客の滞在データを活用したパーソナライズドサービスや、AIを利用したカスタマーサポートの導入が進んでいます。これにより、顧客体験の向上とリピーターの増加が期待されます。

安全・衛生管理

コロナ禍以降、宿泊施設の安全・衛生管理への意識が高まっています。感染症対策を徹底することで、顧客に安心して利用してもらう環境を提供することが求められています。具体的には、抗菌・抗ウイルス対応の設備導入や、非接触型のチェックイン・アウトシステムの導入、空気清浄機の設置などが進められています。

ホテル・旅館業界におけるM&Aの動向

ホテル・旅館業界はコロナ禍以前からM&Aで活発な業界でした。
大手企業や投資ファンドは訪日外国人観光客の需要獲得、地方旅館・ホテルの再生を目的として、また異業種は事業ポートフォリオ再編を目的としてM&Aが行われてきました。同様の傾向が続いていますが、改めて直近のM&A動向を紹介します。

インバウンド需要の増加とM&A活動の活発化

上述した通り、政府の観光振興政策やビザ緩和により、外国人観光客の増加が見られました。特に、東京オリンピックを控えた時期はホテル需要が急増し、それに伴い資本力のある企業が中小規模のホテルや旅館を次々と買収・統合する動きが見られました。

地方での老舗旅館の買収・再生

過疎化や後継者問題に悩む地方の老舗旅館が、観光需要の高まりにともない大手企業などによる買収対象となっています。これらの施設は、買収後にリブランドされ、モダンな施設や設備を導入することで新たな客層を呼び込む取り組みが進められています。特に、伝統と現代性を融合させた高級旅館の需要が増加しています。

テクノロジー企業の参入と買収

ホテル業界においてもデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せています。特にWebマーケティングは避けられない領域となっており、OTA(オンライン・トラベル・エージェンシー)や宿泊施設の予約管理システムを開発するテクノロジー企業が、ホテル業界と連携すべく、既存のホテルや旅館を買収する動きも見られます。

ブランドの多様化と高級志向

国内外の大手ホテルチェーンは、自社ブランドの多様化を目指し、独自のコンセプトを持つホテルや旅館を買収し、それを新ブランドとして展開する動きを進めています。これにより、高級志向の消費者をターゲットとした新しい宿泊体験を提供することが可能となり、特にインバウンド観光客を狙った高級ブティックホテルやバンガロー形式の宿泊施設の買収が進んでいます。

【売手側】ホテル・旅館業界でM&Aを行うメリット

ホテル・旅館業界で売手がM&Aをするメリットを紹介します。
特にホテル・旅館業界は人件費や設備投資が大きく経営の柔軟性が低い業界ですので、経営課題を抜本的に解決するためにM&Aを選択することがあります。

競争力の向上

国内外からの観光客誘致のために、多くのホテルや旅館が競争しています。M&Aによって大手企業との連携が進むと、最新のマーケティング戦略や技術、リソースを活用することができます。これにより、競争力が高まり、施設の利用率向上やブランド価値の向上に寄与することができます。
また、大手企業のブランドへとリブランドすることで集客力が向上する場合もあります。

資金調達と再投資の機会

M&Aを通じてホテルや旅館を売却することにより、売り手は資金を手に入れることができます。この資金は他の事業や投資に再投資することができます。例えば、新たなホテルや観光施設の開発、または他の成長中のビジネスに投資することが可能です。

事業承継の解決

特に地方の旅館は家族経営であることが多く、後継者問題が深刻化している場合があります。他の企業に売却することで、新しい経営者を迎え入れ、事業承継にかかる問題を解決することができます。これにより施設が存続し、従業員の雇用も維持されるため、地域経済にも好影響を与えることができます。

人材育成とスキルの継承

M&Aを通じて売却先の大手企業が持つ高度なノウハウやトレーニングプログラムを活用することができ、従業員が最新のスキルや知識を習得できるチャンスが増えます。さらに、労働環境の改善やキャリアパスの提供により、従業員のモチベーション向上や離職率の低下が期待されます。

【買手側】ホテル・旅館業界でM&Aを行うメリット

買い手としてのM&Aのメリットを紹介します。
インバウンドを中心に増加する需要に対して、単純に運営する施設を増やすことで売上増加を期待してM&Aが行われています。

迅速で低リスクな市場参入

通常、ホテルや旅館を新たに建築する場合は長い時間が必要で、新規市場への参入には時間とコストがかかりますが、M&Aを通じて既存の施設を取得することで即座に市場に参入できます。
加えて、取得した施設の地元の認知度や顧客基盤がありますので、初期段階から高い稼働率が期待でき、比較的低リスクであるといえます。

運営効率の向上

規模の経済を活かして運営コストを削減できる点も大きなメリットです。例えば、複数のホテルや旅館の仕入れを一括で行ったり、マーケティング活動を統一化することで、コストの削減が期待できます。

ブランド価値の向上

既存の有名ホテルや老舗旅館を買収することにより、自社のブランド価値を迅速に向上させることができます。特に、顧客から高評価を得ている施設を取得することで、ブランドイメージの向上や信頼性の確保が可能となります。また、買収先のブランドと自社のブランドを融合させることで、新たなシナジー効果を創出する可能性があります。

人材確保

人手不足が恒常化する業界ですが、M&Aにより、地元で長年働く従業員の経験と知識を活用できる点は大きなメリットです。地元の文化や顧客ニーズに精通したスタッフが既にいるため、サービスの質を維持しつつ、迅速なオペレーションの引き継ぎが可能です。

ホテル・旅館業界におけるM&Aの流れ

一般的なM&Aの流れを紹介します。
業界特有のプロセスは特段ありませんが、初期的な調査やデューデリジェンスでは、施設稼働率や集客チャネル、従業員の労働環境などがよく見られる傾向にあります。

M&A戦略策定

買い手は自社の成長のために、売り手は事業と従業員雇用の継続を期待してM&Aを選択することが多いです。
それぞれM&Aによって実現したい事項やM&A後の成長戦略を描き、相手先に求める条件を決定します。

ターゲット選定と意向表明

買い手はM&Aの目的に応じた条件から、ターゲットとなるホテルや旅館を選定し、初期的に市場トレンドや競争環境、経営状況などを調査します。
関心がある場合には意向表明書を提出してM&Aの意向があることを売り手に示します。

デューデリジェンスの実施

買い手は事業、財務、法務、税務、環境など、必要に応じてデューデリジェンスを実施し、リスクの有無や潜在的な問題点を洗い出します。
実際には公認会計士・税理士、弁護士、コンサルタントなどの専門家にデューデリジェンスを依頼し、報告書を受け取ります。
売り手は買い手から要求される資料や質問に対応します。

デューデリジェンスの実務的な内容はこちらの記事で詳しく解説しています。

バリュエーション

買い手は公認会計士・税理士、コンサルタントに価値算定を依頼します。
デューデリジェンスによって検出された事項が定量的に把握できる場合には、その価値に反映させることもあります。
売り手は買い手から要求される財務諸表や事業計画をはじめとした資料を提出します。

バリュエーションについて詳しく知りたい方はこちらの記事でご確認してください。

最終契約に向けた交渉

デューデリジェンスの結果やバリュエーションを基に、買収に関する詳細な交渉を進めます。価格設定、支払方法、条件付き売買条項、表明保証などを決めていきます。
双方の利害を調整し、弁護士の協力のもと最終的な契約条項と契約書を策定します。

クロージング

策定した契約書に従って、株式や資産の移転、その他法的手続きを実施します。

PMI

M&Aの後、実際のビジネス統合を進めます。スタッフの再配置、システム統合、ブランド統一、運営管理方針の一元化などを段階的に実施します。

まとめ

ホテル・旅館業界のM&Aに関して業界特有の動向やM&Aのメリットを紹介しました。

売り手は後継者問題の解消、事業継続や従業員の雇用継続などを目的として、
一方で買い手は事業拡大やブランド価値向上などを目的としてM&Aを実施しています。

これからM&Aを行う場合も、自社の目的に合わせて取引を行う相手を選ぶことが重要です。売り手と買い手は、M&Aで果たしたい目的、M&A戦略を明確にしてから、対象企業との交渉を進めることが必要です。

M&Aの決心ができていない、M&A戦略がない、などのような場合でも、ぜひ相談してください。
M&A以外の選択肢と合わせて検討し、持続的成長に繋がるよう支援いたします。

ホテル・旅館業界同士のM&A事例3選

ロイヤルホテルによる芝パークホテルの子会社化

ロイヤルホテルは2024年、8.4%保有している芝パークホテルの株式を追加取得し、持ち株比率を79.1%に引き上げた。
芝パークホテルは売上高約47億円、営業利益約6億円で、取得価額は31億100万円。
株式取得後も芝パークホテルの運営する「芝パークホテル」と「パークホテル東京」の名称は維持している。
インバウンド(訪日観光客)集客力の強化や、東京圏でのプレゼンス向上などを見込んで、株式追加取得に至った。

相鉄ホールディングスによるサンルートの子会社化

相鉄ホールディングスは、2014年ホテルや旅館を運営するサンルートの全株式を取得し、子会社化した。
サンルートは当時66店舗(1万550室)を運営しており、本子会社化によって相鉄ホールディングスは81店舗(1万3099室)と急激にホテル事業を拡大することとなった。
その背景として相鉄ホールディングスは2020年に開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックに関連して海外旅行者の増加が見込まれるため、ホテル事業の拡大を進めていた。

明治海運によるセコム傘下の「ザ・ウィンザーホテル洞爺」を取得

明治海運は、2014年にセコム傘下のザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナルが運営するザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパの不動産とホテル事業を取得した。
明治海運グループは北海道で、ニセコノーザンリゾート・アンヌプリ(北海道ニセコ町)、稚内全日空ホテル(北海道稚内市)の2つのホテルを保有しており、ブランドイメージの向上や、マーケティング・人材交流などで既存施設との相乗効果を見込んでM&Aに至った。
ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパは、2008年に主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)の会場となっていた。

ホテル・旅館業界と異業種によるM&A事例2選

サンフロンティア不動産による「ホテル吾妻」の取得

サンフロンティア不動産はホテル事業を運営するために設立した子会社のサンフロンティア佐渡が、佐渡市の老舗旅館である「ホテル吾妻」の旅館事業を譲り受けたと2018年に発表した。
サンフロンティア不動産は成長戦略の一環として、オフィス事業で培った事業モデルを、ホテルの開発・運営・再生へ横展開しており、その一環で取得に至った。
2018年に開業した「たびのホテル佐渡」との相乗効果を引き出し、訪日客を含めた宿泊需要に応えるために取得したとのこと。

ベストブライダルによるホスピタリティ・ネットワークの子会社化

ベストブライダルは、2011年にホテルインターコンチネンタル東京ベイを運営するホスピタリティ・ネットワークが実施する第三者割当増資を引き受け、子会社化した。結果として株式保有比率を13.5%から98.7%へ引き上げた。
ベストブライダル傘下のレストランやゲストハウスなどの施設へ料理を提供するベストプラニングが引き受けることとなった。
ベストブライダルは、インターコンチネンタルの高いホスピタリティをグループの婚礼・宴会ビジネスに取り込むと同時に、今後のホテル事業の海外展開を視野に入れたビジネスモデルの構築を目指し、子会社化に至った。

監修者情報

山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室