コラム
更新日:2024/10/23 公開日:2024/09/05
テーマ: 10.持続的成長 11.事業再生
中堅中小企業の経営論点 鉄鋼・非鉄業界 第1回:業界変革期
本コラムは日刊工業新聞の連載「中堅・中小 鉄鋼非鉄経営の最前線」に掲載された①総論(2023年1月26日)を元に加筆したものです。
目次
業界変革期、問われる底力
鉄鋼・非鉄金属業界は業界構造の変革期にある。本コラムでは中堅・中小企業に焦点を当て、環境の変化にしなやかに対応する企業経営の最前線を届けていく。今回はその総論である。
鉄鋼・非鉄金属業界に属する、中堅中小企業のプロファイル
・鉄鋼・非鉄業界は長いサプライチェーンを持つ。上流は高炉・製錬メーカー等大企業が多いが、自動車メーカーなどの最終需要家に届くまでには多くの中堅中小企業が関わる。
・中堅中小企業は金属加工業や流通業が多い。金属加工は鋳造・鍛造・プレス・冶金・熱処理・切削加工・精密板金など多岐に渡る。継続的な設備投資と技能伝承が必要になる。
・流通は大手メーカーや総合商社系の一次商社の他、全国に二次流通が発達している。紐付きや店売など様々な商流形態を持ち、加工業を担う場合もある。昨今は、スクラップ流通を担う静脈産業も進化を続けている。
・事業戦略として、製造業として技術優位性を追求する企業、様々な事業展開をする中でビジネスモデルを磨く企業など差別化戦略もバラエティに富んでいる。最終需要家のグローバル生産に応え、比較的小さい企業であっても海外拠点を持つ企業が多い。
・資本構造として、オーナー企業も多いが、最終ユーザーのケイレツに属していたり、大手鉄鋼・非鉄企業のグループ会社も存在。一部の中堅企業は上場企業である。この多様性も特徴である。
1.事業承継は承継先やその手法も多様化している
一つ目は事業承継の多様化。特にM&A(合併・買収)の拡大が顕著だ。後継者不足ばかりではなく、ファンド等の新たなプレーヤーの台頭や、オーナー経営者自身の第三者承継に対する意識変化も大きい。財務安全性や人的資本の厚さを目的に大手メーカーや商社に入る選択はこれからも増加するはずだ。
Key Point
・中堅中小企業の買い手企業は多様化、ファンド等新たなプレイヤーも台頭
・大手鉄鋼商社の姿勢は各社によって異なるが、国内回帰で中小企業を買収する機運も
・地域の有力中堅企業が金属加工業をグループ化し束ねる事例も少なくない
2.業界再編は今後加速する
二つ目は事業再編の加速。かつては選択と集中の名の下、リストラ施策の色が濃かったが、今や成長戦略の一手だ。2020年台に入り非鉄業界でノンコア事業や子会社を切り出すカーブアウトが多く、鉄鋼業界も大手商社のグループ再編が目立った。投下資本利益率(ROIC)など投下資本に対するリターンを可視化し、コア事業に積極投資する流れは確実に加速していく。
Key Point
・自動車業界のケイレツが崩壊する中で、ケイレツや地域を超えた中堅中小企業の合従連衡は必須
・大手鉄鋼・非鉄メーカーや商社におけるグループ企業再編も一つのトリガーに
・例えば、鋳鍛鋼、銅管、鉄鋼二次流通企業やスクラップ関連など業界再編が顕著
3.本格的な事業再生への備えを
三つ目は事業再生の増加兆候。コロナ融資で資金繰りをつないだ多くの中小企業は過剰債務の状態だ。鉄鋼・非鉄中小では物価高騰による収益悪化も顕在化しており、企業倒産件数も反転している。備えとして22年4月施行の中小企業版事業再生等ガイドラインや、23年1月に始まったコロナ融資の借り換え保証など制度も拡充されているが、収益力改善と財務健全化は急務である。
Key Point
・自動車EVや半導体関連向けビジネスは投資競争でもある。投資採算や原価管理の不徹底が窮境要因になり得る
・事業撤退の判断は選択肢があるうちに。しかしオーナー企業の意思決定には複雑な事情も絡む
・2024年、政府の中小政策は資金繰り支援から事業再生支援へ変化
4.事業転換や新規事業は平時に検討を
四つ目は新規事業。電気自動車(EV)化や脱炭素など企業の優勝劣敗を決める環境変化は中小にも及ぶ。新たな事業創造に取り組む経営者の相談は確実に増えている。新規事業の成功ポイントやベンチャー企業の動きも今後説明していきたい。
Key Point
・新規事業の成功は5W1Hの視点でチェックを。既存組織との距離など組織設計もポイント
・金属加工マッチングやファブレス化、設備予備品調達などの課題に対し、中堅中小企業の縦割りに横串を指すようなサービスが続々登場
・開発型スタートアップも徐々に増加。資金力のある大手企業との連携が鍵
5.中堅中小もコーポレートトランスフォーメーション(CX)に注目
五つ目は経営企画の機能が強く求められる時代への突入だ。グローバル戦略、ガバナンス、カーボンニュートラル、デジタル変革(DX)など組織横断的なテーマが迫っている。中堅・中小企業からも問い合わせが多い内容だ。業界の取り組みは手探りだが、差が生じ始めている。
Key Point
・2024年は中堅企業元年として、成長を目指す中堅企業を支援する政策パッケージが続々登場。ガバナンスや経営管理体制の強化が強く求められる
・グループ企業を持つ中堅企業は脱連邦経営を。管理間接部門の機能を再構築したい
・大手企業による下請法違反が頻発。中小企業も正しいリーガル知識を
6.価格戦略に大きな変革
業界慣行の破壊が進んでいる。素材産業は資本集約型であり、シェアや数量確保を最優先に稼働率を追求してきた。日本製鉄の価格戦略はその経済性に一石を投じた形だ。業界や需要家の理解もまだら模様であるが、中小企業も価格戦略が最重要課題の一つだ。製造面でも需要変動に合わせたタイムリーな生産体制を構築する変種変量生産時代に進み、求められるQCD(品質・コスト・納期)も変わる。
Key Point
・材料費だけでなく、労務費、物流費、エネルギー費用などコスト転嫁の対象が広がる
・経済産業省や公正取引委員会なども様々な形で中小の価格転嫁を後押し
・価格転嫁がスムーズに進んでいる企業の共通点は、原価管理の徹底
逆風もあるが、鉄・非鉄金属は、社会を変える可能性を持つ素材の代表格である。世界を見渡せば、成長産業だ。技術を磨きビジネスモデルをアップデートした企業が未来を拓く。今後、これらの環境変化に対する中堅・中小企業経営の最前線を紹介していく。

山田コンサルティンググループ株式会社
経営コンサルティング事業本部
部長
横地 綾人(よこち あやと)
大手鉄鋼メーカーにて、製鉄所管理や本社販売計画等に携わる。山田コンサルに参画後は、事業戦略やM&Aを含む事業再編を数多く立案し、その後の実行まで伴走するスタイルを得意とする。
専門領域は鉄鋼・非鉄など素材業界だが、金属加工など中堅中小企業の実績も数多く持ち、日刊工業新聞など業界専門誌での連載も担当している。
中堅中小企業の経営論点 鉄鋼・非鉄業界 第2回:価格の最前線
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