コラム
更新日:2024/09/18
テーマ: 02.M&A
事業譲渡の目的とは?手続きの流れや会計処理、メリット・デメリットを解説

事業譲渡は、よく使われるM&Aの手法の一つです。
一般的な株式譲渡との違いや、プロセス、事業譲渡ならではの注意点などを本記事では記載しています。
目次
事業譲渡の意味とは?
事業譲渡とは、企業が事業の全て又は一部を他の企業に売却することを指します。これは企業全体を売却するのではなく、一部の事業や資産に限定して行う売却方法です。
株式譲渡との主な違いは下記のとおりです。
売却対象の範囲
【事業譲渡】
企業が特定の事業部門やそれに関連する資産を譲渡します。これには設備、知的財産、在庫、顧客リストなどが含まれます。したがって、企業の一部分のみが他社に移ることになります。
【株式譲渡】
企業の株主が保有する株式を他の個人や企業に売却する方法です。株式譲渡によって企業全体が新しい株主の管理下に置かれることになります。この場合、企業の全体像が変更されることなく、株主のみが変更されます。
法的・手続的な違い
【事業譲渡】
事業譲渡には、個別の資産や契約ごとに個別の譲渡手続きが必要です。たとえば、不動産や設備、従業員契約、許認可など、それぞれに異なる手続きを踏む必要があります。加えて、譲り渡し側で株主総会の会社の内部承認が必要となります。
【株式譲渡】
株式譲渡は、株券の売買契約によって行われます。この手法では、個々の資産や契約の移転手続きは不要ですが、売主と買主間で株式の価格や条件について詳細に取り決める必要があります。また、株主名簿の変更などが必要です。
従業員や取引先への影響
【事業譲渡】
事業譲渡では、従業員や取引先の契約について再交渉や継続の同意が必要になります。特に従業員には新しい職場での労働条件等を説明する必要があり、譲受企業で継続して勤務をしていただくためには、丁寧な説明が必要となります。
【株式譲渡】
株式譲渡では経営権が移転するだけであり、企業の運営自体は継続されます。そのため、原則としては従業員や取引先との契約には大きな変更はありません。ただし、取引先との契約の中で、経営者の変更や株主の変更に関しての特約がある場合、事業譲渡と同様に留意が必要となります。
事業譲渡のメリット【売手側】
事業譲渡は、売手側にとって多くのメリットをもたらします。以下にその主な点を詳述します。
資金調達
事業譲渡を通じて、売手側は大規模な資金調達の機会を即時に得ることができます。事業売却に伴う資金は、新たな事業投資や法人の債務返済など、多岐にわたる目的で活用可能です。特に業績が悪化している企業にとっては、企業再生の有効な手段となります。
規模の経済性
事業譲渡により、売手側の対象事業は今までより大きな企業グループの一つに、もしくは一体となりますので、規模の経済を生かしたビジネスが可能となります。仕入れ・販売などにかかる交渉上の優位性を以前より得られます。これにより利益率の向上やビジネス継続上のリスク軽減が見込めます。
引退や後継者問題の解決
経営者自身の高齢化や後継者不在は、多くの中小企業で共通の課題です。また、中堅中小企業の中には、不動産収入を生み出す非事業用資産や資産運用を行っている会社もあります。経営者の意向次第では、本業に関する事業は外部への譲渡を図り、不動産収入や運用資産に関する資産は会社に持たせたまま、株式を親族へ譲り渡す方法で、承継を行うパターンも存在します。そのような場合にも事業承継が行われる場合があります。
財務健全化
資金調達と重なる部分がありますが、事業譲渡のプロセスにより、企業の負債を減少させ、財務健全化を図ることが可能です。譲渡に伴う資金を活用することで、負債の返済や事業の効率化が進められます。これにより経営基盤が強化され、将来的な成長への一歩を踏み出せます。
事業譲渡のメリット【買手】
事業譲渡は買手にとっても多大な利益をもたらします。次に、その詳細を見ていきましょう。
事業拡大の迅速化
事業譲渡は、買手にとって既存の企業資産や市場ポジションを迅速に取得する手段となります。新規事業の立ち上げに比べて、時間とコストを大幅に削減でき、取得した事業を即戦力として活用することが可能です。
知的財産権の取得
譲渡対象企業が保有する特許や商標、著作権などの知的財産権も一緒に取得できるため、自社製品やサービスの競争力を一層高めることができます。これにより、他社との差別化や市場シェアの拡大が期待されます
顧客基盤の獲得
事業譲渡により、譲渡企業が持つ既存の顧客基盤を取得することができます。これにより、事業開始から顧客獲得に要する時間とコストを削減し、即座に売上を上げることが可能となります。
人材の確保
特に国内の人材不足が続く中、事業譲渡を通じて、譲渡企業が持つ経験豊富でスキルの高い人材を確保することができます。これにより、新たな人材採用にかかる時間とコストを削減し、即戦力が期待できます。
簿外・偶発債務の遮断
事業譲渡では、事業の全部又は一部のみの譲受であり、譲渡対象外の資産及び負債は元の会社の物となります。株式譲渡では会社全体を譲り受けることとなるため、事前に検出できななかった簿外・偶発債務のリスクは切り離すことは出来ないものの、事業譲渡ではそのリスクの遮断が可能となります。
事業譲渡のデメリット【売手側】
事業価値の喪失
事業譲渡により、売手側は自社の価値ある資産やブランド、ノウハウを手放すことになります。特に自社で一から築き上げた事業の場合、その価値喪失は経営者の精神的にも影響を及ぼします。
従業員の不安
譲渡対象となる事業に関連する従業員については、新たな職場に転籍となりますが、残る事業の従業員にとっても将来の不安を生じさせることがあります。最悪の場合、離職やモチベーション低下のリスクがあり、従業員の不安を軽減するためには、説明会を開いたり個別に面談するなど、対象外の従業員に関しても十分なコミュニケーションとサポートが必要となります。
秘密情報の漏洩リスク
譲渡プロセス中には多くの機密情報が関係者に共有されるため、情報漏洩のリスクが伴います。取引先や顧客の信用を保つためにも十分な守秘義務契約や情報管理の徹底が求められます。
事業譲渡のデメリット【買手側】
事業譲渡は買手側にもいくつかのデメリットがあります。以下にその主な点を挙げます。
対象事業の価値評価の難しさ
譲渡事業の価値を正確に評価することは困難ですその事業の創出する価値が事業のみを譲り受けた際も、自社で再現が可能であるか、適切な判断が求められます。事業価値は専門家が財務データを基に算出することが可能ですが、事業面についても自社又はアドバイザーを活用し、適切な価値評価であるか、判断する必要があります。
文化の統合と調整
買収後の企業文化や経営スタイルの違いによる問題は、具体的な運営面で多くのトラブルを引き起こす可能性があります。これを解消するためには、慎重な統合計画と経営者のリーダーシップが重要です。
追加投資の可能性
譲渡事業の改善や成長を目指すためには追加の投資が必要となる場合があります。これにより計画を超えるコストがかかるリスクがありますので、事前の事業計画および資金計画が求められます。
事業譲渡の流れについて
事業譲渡は多くのステップを経て行われます。ここでは、買り手売り手のマッチングが完了し、譲渡契約以降の流れを中心に、その主な流れを概説します。
譲渡企業と譲受企業による事業譲渡契約の締結
まず、譲渡企業と譲受企業の間で事業譲渡契約が締結されます。これには事業の範囲、譲渡価格、条件などの詳細が含まれます。契約書は弁護士や会計士などの専門家によるレビューが推奨されます。
売り手会社における株主総会決議・反対株主への株式買取請求
事業譲渡は会社の重要な事項であるため、売り手が株式会社である場合は原則として株主総会での特別決議が必要であり、承認を得ることが不可欠となります。
また、事業譲渡に反対する売り手株主については会社に対して株式買取請求権を主張することが可能です。売り手会社では、複数の株主を有する場合には、各人がどのような意向であるか、事前に想定する必要があると考えられます。
従業員の雇用契約や退職に関する手続き
事業譲渡に伴い、従業員の雇用契約の転籍、退職手続きが必要となります。事業譲渡においては、雇用契約の移転ではなく、新たな雇用契約を締結することとなり、売り手・買い手双方の協力しスムーズな移行を図ることが求められます。従業員へ説明する必要があります。
このプロセスでトラブルが起きてしまうと従業員の引継ぎがうまくいかず、譲受した事業を継続、成長させることが非常に難しくなります。
その他手続き
事業譲渡に関連するその他の手続きとして、許認可の取得や契約変更、登記事項の変更などが必要です。これらの手続きは法的な側面が多いため、専門家のサポートを受けることが望まれます。
事業譲渡で用いる事業価値評価の方法
事業譲渡においては、事業の価値を適正に評価することが重要です。一般的には以下のような方法が用いられます。
一般的に用いられる手法の一つに「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)」があげられます。これは将来予測されるキャッシュフローを割引現在価値として評価する方法で、企業の将来性を重視します。
その他、「EBITDA法」もよく用いられ、これは企業の償却前営業利益に、類似企業の財務指標を基にした一定の倍率を掛け算して価値を求める方法です。次に、「市場アプローチ」ですが、これは類似企業の取引事例を元に価値を算定する方法です。例えば、同業態・同規模の企業の売買価格を参考にします。
また「純資産価値法」も株式譲渡同様に用いられ、これは対象事業の資産および負債を基に譲渡BSの純資産で評価する方法です。
これらの方法を組み合わせて、双方が納得する妥当な評価額を算出することとなります。
事業譲渡により発生する税金
事業譲渡には、売手側および買手側それぞれに対して、様々な税金が発生します。以下にその内訳を詳述します。
売手側に発生する税金
売手側には主に次のような税金が発生します
法人税
事業譲渡により生じた利益は、法人税の対象となります。譲渡益は法人の収益と見なされ、通常の法人税率が適用されます。
消費税
譲渡される資産に消費税が課せられる場合があります。ただし、譲渡の対象となる資産によっては、非課税扱いとなるものもあるため、税理士等専門家へ事前確認が必要です。
買手側に発生する税金
買手側にも税金が発生します。以下にその詳細を見ていきます。
消費税
事業譲渡の一部資産には消費税が課せられます。特に、課税事業用資産(例:機械設備や在庫など)を引き継ぐ場合、その取得価額に対して消費税が発生します。
不動産取得税・登録免許税
不動産を含む事業譲渡の場合、不動産取得税や登録免許税が発生します。これらの税金は、固定資産税の課税評価額に税率を乗じて決定され、事前に把握しておくことが重要です。
事業譲渡の会計処理について
事業譲渡の会計処理は、適切な会計基準に従って行う必要があります。ここでは売り手の会計処理について記載します。
まず、譲渡対象の資産と負債を確定することが必要となります。実際の評価額は上述の通りですが、対象資産及び負債から算出される想定の簿価純資産額と実際の譲渡価額と関連するコストとの差額が譲渡益または譲渡損となります。平時の事業損益に加えて大幅に損益計算書・貸借対照表に影響がある取引であり、どのような影響があるかは事前の想定が重要となります。
事業譲渡を行う際の注意点
事業譲渡を行う際には、いくつかの注意点があります。以下に、譲渡会社と譲受会社それぞれの視点、ならびに消費税に関する留意事項について詳述します。
譲渡会社視点
当然ながら、譲渡する事業の価値を評価し、適切な対価を求めることが重要です。
譲渡側でもアドバイザーへ依頼して対象事業の価値を把握しておくことで、買手の提示する金額を中心に話が進むことを防げます。
また、従業員や取引先への説明と納得を得るためのコミュニケーションが不可欠です。
特に従業員にとって自分の会社の事業が譲渡されることは大変不安に感じる事象です。
対象事業の従業員だけでなく、他の従業員の退職リスクもあることを認識して、しっかりと従業員への説明を行いましょう。
事業を譲渡することは、取引先からの他事業の信用にかかわることがあり、取引先への説明も計画しておくといいでしょう。
また、情報管理も重要な点であり、関与者からの秘密情報の漏洩防止策も講じることで、余計なリスクを最小限に抑えることができます。
事業譲渡の前でも、譲渡の噂が広まると地域や取引先から不審な印象を持たれてしまうこととなることを念頭に置き、対応を進める必要があります。
譲受会社視点
譲受会社は、株式譲渡同様、譲受事業の詳細なデューデリジェンスを行い、評価額が適切であるか、期待通りの事業価値を享受できるかを精査する必要があります。
事業を譲り受ける目的及びその範囲を明確にし、必要な範囲を明確化しアドバイザーへデューデリジェンスを依頼することが重要となります。
また、場合によってはデューデリジェンスの結果から、対象事業が譲受た後に自走での事業継続が難しい場合(いわゆるスタンド・アローン問題)がある場合には、譲渡企業に理解をしてもらい、取引金額へ反映させる交渉を行うことも視野にいれましょう。
事業譲渡後のシナジー効果を最大限に発揮するためには、適切な統合プランを策定し、迅速に実行する必要があります。
組織人事制度の違い、システムの違い、文化や風土の違いなど、あらかじめ把握し、必要に応じて対象事業の従業員とコミュニケーションをとりながら慎重に統合しましょう。
消費税に関する留意事項
事業譲渡において、消費税の課税対象資産に対する適切な処理が求められます。譲渡資産が消費税課税対象である場合、その取引に対して消費税が発生します。譲渡契約書に明確に消費税の取り扱いを記載し、予期せぬ税務リスクを回避することが重要です。また、それぞれの取引について税務上の取り扱いを事前に確認し、必要な手続きを行うことが求められます。
まとめ
事業譲渡について、株式譲渡との違いやプロセス、買手売手それぞれから見たメリットデメリットや注意点などを総合的に紹介してきました。
解説してきました通り、株式譲渡と同様に論点が多く、社内リソースのみでスムーズな事業譲渡を行うことは難しいでしょう。
円滑な事業譲渡のためには、検討段階から経験豊富なアドバイザーや各種専門家に相談しながら進めることをオススメします。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室
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