コラム
公開日:2024/10/11
テーマ: 02.M&A
会社買収の基礎知識と成功するための戦略とは
M&Aの一種である会社買収は、主に株式譲渡や事業譲渡などの方法で実行されます。
本記事では会社買収のプロセスやメリットデメリット、また事例を紹介します。
目次
会社買収とは何か?
会社買収は、他企業の経営権を取得する行為で、M&Aの一部です。M&Aは買収の他、合併も含む広義の概念です。
会社買収では一般的に株式譲渡もしくは事業譲渡で行われます。以下にそれぞれの特徴や違いについて解説します。
M&Aと会社買収の違い
M&A(Mergers and Acquisitions)と会社買収は、どちらも企業の成長や戦略的な目的を達成するための手段として用いられますが、その内容には違いがあります。
M&Aは、企業の合併(Merger)と買収(Acquisition)の総称です。合併は、二つ以上の企業が一つの新しい企業として統合されることを指します。これにより、シナジー効果を期待し、競争力の強化や市場シェアの拡大を図ります。一方、買収は、一つの企業が他の企業を完全に取得し、その経営権を掌握することを意味します。買収は、友好的に行われる場合もあれば、敵対的に行われる場合もあります。
会社買収は、M&Aの一部であり、特に「買収」に焦点を当てたものです。会社買収では、買収企業が対象企業の株式や資産を取得し、経営権を得ることが目的です。買収の方法には、株式譲渡や株式交換、現金買収などがあります。会社買収は、迅速な市場参入や技術獲得、競争相手の排除などを目的として行われることが多いです。
総じて、M&Aは広義の概念であり、会社買収はその中の一形態として位置づけられます
株式譲渡と事業譲渡の違いとは
会社買収の一般的な手段には株式譲渡と事業譲渡が挙げられますが、それぞれに特徴と利点があります。
株式譲渡は、買収企業が対象企業の株式を取得することで、その企業の経営権を掌握する方法です。株式譲渡では、対象企業の全ての資産、負債、契約、従業員がそのまま引き継がれます。これにより、手続きが比較的簡便であり、迅速に買収を完了できることが利点です。しかし、対象企業の負債や潜在的なリスクも一緒に引き継ぐため、事前のデューデリジェンス等が重要となります。
事業譲渡は、対象企業の特定の事業や資産を選択的に取得する方法です。事業譲渡では、買収企業が必要とする資産や事業のみを取得し、不要な負債やリスクを避けることができます。これにより、買収後の統合がスムーズに進むことが期待されます。ただし、事業譲渡には個別の契約や許認可の再取得が必要となるため、手続きが複雑で時間がかかることがあります。
会社買収のプロセス
一般的な会社買収のプロセスを紹介します。
初期相談・戦略立案
会社買収の第一歩は、買収の目的や目標を明確にすることです。専門家と相談し、買収の意図や期待する成果を定義します。市場調査を行い、業界の動向や競合他社の状況を把握します。この段階では、買収対象企業の選定基準や買収後の統合計画も策定します。戦略立案は、買収の成功に向けた基盤を築く重要なステップです。
ターゲット企業の選定
次に、買収対象となる企業を選定します。選定基準には、業績、成長性、シナジー効果の見込みなどが一般的で、買収の意図に沿う企業を選定します。ターゲット企業のリストを作成し、候補企業に対してアプローチを開始します。初期的な接触では、買収の意図を伝え、相手企業の関心を引き出すことが重要です。この段階では、秘密保持契約(NDA)を締結し、情報の保護を図ります。
直接ターゲット企業に接触することもありますが、コンサルタントや金融機関などのアドバイザーを通して接触する場合が多いです。
デューデリジェンス(DD)
デューデリジェンスは、買収対象企業の詳細な調査を行うプロセスです。財務、法務、税務、労務、環境など多方面から企業の実態を把握します。これにより、潜在的なリスクや問題点を明確にし、買収価格や条件の適正性を評価します。デューデリジェンスの結果は、最終的な交渉や契約内容に大きく影響します。
企業価値評価・価格交渉
デューデリジェンスの結果を基に、企業の評価額を算出し、価格交渉を行います。評価方法には、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や類似企業比較法などがあります。交渉では、買収価格だけでなく、支払い条件やその他の重要な契約条件についても合意を目指します。双方が納得できる条件を見つけることが成功の鍵です。
基本合意書の締結
価格や主要条件が合意に達したら、基本合意書を締結します。これは、最終契約に向けた大まかな枠組みを定めるもので、法的拘束力は限定的です。基本合意書には、買収価格、支払い条件、引き継ぎ事項、スケジュールなどが記載されます。この段階で、詳細な条件やスケジュールも確認し、最終契約に向けた準備を進めます。
最終契約の締結
基本合意書に基づき、最終契約書を作成し、締結します。契約書には、買収価格、支払い条件、引き継ぎ事項などが詳細に記載されます。法務専門家の助言を受けながら、契約内容を慎重に確認し、双方が納得した上で署名します。最終契約の締結により、買収が正式に成立します。
クロージング・統合プロセス
最終契約締結後、クロージングを行い、実際の資金移動や株式譲渡が行われます。その後、統合プロセスに移行し、組織やシステムの統合を進めます。統合の成功がM&Aの成否を左右するため、計画的な実施が求められます。従業員の統合や文化の融合も重要な課題となります。
会社買収のメリット
会社買収には様々なメリットがあります。
ここでは企業買収の目的となるような主なメリットをご紹介します。
市場シェアの拡大
会社買収により、買収企業は迅速に市場シェアを拡大することができます。買収対象企業の既存の顧客基盤や販売チャネルを活用することで、新規参入よりも短期間で市場に浸透できます。特に競争の激しい市場では、競合他社を買収することで競争優位性を確保し、シェアを増やすことが可能です。これにより、収益の増加やブランド力の強化が期待されます。
経営資源の獲得
会社買収は、買収企業が不足している経営資源を迅速に獲得する手段となります。例えば、技術力の高い企業を買収することで、先進的な技術やノウハウを手に入れることができます。また、優秀な人材や特許、ブランドなどの無形資産も同時に取得できるため、企業の競争力を大幅に向上させることができます。これにより、研究開発や新製品の開発が加速します。
コスト削減と効率化
会社買収により、重複する業務や資源を統合することで、コスト削減と業務効率化が図れます。例えば、共通のバックオフィス機能やITシステムを統合することで、運営コストを削減できます。また、規模の経済を活用することで、調達コストや生産コストの削減も可能です。これにより、利益率の向上や競争力の強化が期待されます。
新市場への参入
会社買収は、新市場への迅速な参入手段としても有効です。例えば、海外市場への進出を考える場合、現地企業を買収することで、現地の市場知識や顧客基盤を活用できます。これにより、文化や規制の違いによるリスクを軽減し、スムーズな市場参入が可能となります。また、新市場でのブランド認知度向上や販売チャネルの確保も期待されます。
自社で新規事業をスタートし、軌道に乗せるまでに費やす時間を会社買収により省略できるため、時間を買うという考え方ができます。
会社買収のデメリット
企業買収にはデメリットもあります。
基本的には、企業買収には様々なコストがかかるという点です。
企業買収を行う際には金銭、人的リソースなどの面で、注意が必要です。
統合の難しさ
会社買収後の統合プロセスは非常に複雑で、多くの課題が伴います。異なる企業文化や経営スタイルの融合は容易ではなく、文化の違いから従業員のモチベーション低下や離職率の増加を招くことがあります。また、システムやプロセスの統合も時間とコストがかかり、計画通りに進まないことがあります。統合がうまくいかない場合、期待されたシナジー効果が得られず、買収の目的が達成されないリスクがあります。
買収コスト
会社買収は多額の資金を必要とします。特に競争が激しい、成長が著しい市場では、買収価格が過大評価されるリスクがあり、投資回収が困難になることがあります。また、買収に伴うデューデリジェンスや法務手続き、統合プロセスにかかるコストも無視できません。これらのコストが予算を超過すると、企業全体の財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
経営リソースの分散
会社買収は、経営陣や従業員のリソースを大きく消耗します。買収プロセスや統合作業に多くの時間と労力が割かれるため、日常業務や他の戦略的プロジェクトに対する集中力が低下することがあります。これにより、既存事業のパフォーマンスが低下し、全体的な経営効率が悪化するリスクがあります。特に、複数の買収を同時に進める場合、このリスクはさらに高まります。
会社買収を成功させるポイント
企業買収のメリットデメリットをもとに、成功させるポイントを解説します。
会社買収のメリットを最大化
1. 市場シェアの拡大
市場シェアを効果的に拡大するためには、買収対象企業の選定が鍵となります。まず、自社の事業戦略と一致する市場やセグメントを明確にし、その市場で強固な地位を持つ企業をターゲットにします。買収後は、既存の販売チャネルや顧客基盤を活用し、迅速に市場に浸透するための計画を立てます。また、買収企業のブランド力を活かし、シナジー効果を最大化するためのマーケティング戦略も重要です。
2. 経営資源の獲得
経営資源を効果的に獲得するためには、買収対象企業の強みを正確に評価することが必要です。特に、技術力やノウハウ、特許、人材などの無形資産を重視します。デューデリジェンスを通じて、これらの資産が自社の成長戦略にどのように貢献するかを評価し、買収後の統合計画に反映させます。また、買収企業の優秀な人材を引き留めるためのインセンティブ制度やキャリアパスの提供も重要です。
3. コスト削減と効率化
コスト削減と効率化を実現するためには、買収後の統合プロセスを綿密に計画することが必要です。まず、重複する業務や資源を特定し、統合の優先順位を決定します。共通のバックオフィス機能やITシステムの統合を進めることで、運営コストを削減します。また、規模の経済を活用し、調達コストや生産コストの削減を図ります。これにより、利益率の向上や競争力の強化が期待されます。
4. 新市場への参入
新市場への迅速な参入を実現するためには、現地企業の買収が有効です。特に海外市場への進出を考える場合、現地の市場知識や顧客基盤を持つ企業をターゲットにします。買収後は、現地の文化や規制に適応するための戦略を立て、スムーズな市場参入を図ります。また、現地のブランド認知度を活かし、販売チャネルの確保やマーケティング活動を強化します。これにより、新市場での成功確率を高めることができます。
また、参入に際して新技術や許認可、生産設備などが必要な場合、これらをデューデリジェンスで重点的に確認しておく必要があります。
会社買収のデメリットを最小化
1. 統合の難しさ
統合プロセスの難しさを最小化するためには、事前の綿密な計画と準備が不可欠です。まず、買収前に統合計画を詳細に策定し、各部門の役割と責任を明確にします。統合チームを編成し、リーダーシップを発揮できる人材を配置します。また、統合プロセスの進捗を定期的にモニタリングし、問題が発生した場合には迅速に対応する体制を整えます。従業員のモチベーションを維持するためのコミュニケーションも重要で、買収の目的やビジョンを共有し、従業員の不安を軽減します。
2. 買収コスト
高コストのリスクを最小化するためには、買収価格の適正評価が重要です。デューデリジェンスを通じて、対象企業の実態を正確に把握し、過大評価を避けるための評価方法を採用します。DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や類似企業比較法などを用いて、適正な買収価格を算出します。また、買収に伴うコストを予算内に収めるための計画を立て、予算超過を防ぐためのモニタリング体制を整えます。さらに、買収後の統合プロセスにおいても、コスト削減と効率化を図るための施策を講じます。
3. 経営リソースの分散
経営リソースの分散を最小化するためには、買収プロセスと日常業務のバランスを取ることが重要です。買収チームを専任で編成し、日常業務に影響を与えないようにします。また、買収プロセスの各段階で明確な目標とスケジュールを設定し、効率的に進めることが求められます。買収後の統合プロセスにおいても、各部門の役割と責任を明確にし、リソースの最適配分を図ります。これにより、既存事業のパフォーマンスを維持しつつ、買収のメリットを最大化することができます。
また、コンサルタントなどの外部専門家をアドバイザーとして起用し、外部リソースを活用することでも解決が見込めます。
会社買収の成功事例3選
1. 楽天によるケンコーコムの買収
楽天は2016年にオンライン薬局のケンコーコムを買収しました。成功のポイントは、楽天の強力なECプラットフォームとケンコーコムの専門性を統合し、ヘルスケア市場での存在感を強化したことです。楽天の広範な顧客基盤を活用し、ケンコーコムの製品をより多くの消費者に届けることができました。また、楽天ポイントの導入により、顧客ロイヤルティを高めることにも成功しました。
2. キリンホールディングスによるメルシャンの買収
キリンホールディングスは2006年にメルシャンを買収し、酒類事業を強化しました。成功のポイントは、メルシャンのワイン事業とキリンのビール事業のシナジー効果を最大化したことです。これにより、製品ラインナップの拡充と販売チャネルの統合が進み、両社の強みを活かした新製品の開発が可能となりました。また、コスト削減と効率化を図るための統合プロセスもスムーズに進行しました。
3. 日本電産によるエマソン・エレクトリックのモータ・ドライブ事業の買収
日本電産は2010年にエマソン・エレクトリックのモータ・ドライブ事業を約7億ドルで買収しました。成功のポイントは、エマソンの高性能モータ技術を取り込むことで、日本電産の製品ラインナップを強化し、グローバル市場での競争力を高めたことです。買収後、日本電産はエマソンの技術を活用して新製品を開発し、特に電気自動車や産業機器向けのモータ市場でのシェアを拡大しました。
会社買収の失敗事例3選
1. ソニーによるコロンビア・ピクチャーズの買収
ソニーは1989年にコロンビア・ピクチャーズを約34億ドルで買収しましたが、期待されたシナジー効果を得られませんでした。失敗の要因は、映画業界の特性や文化の違いを十分に理解できず、経営統合がうまく進まなかったことと言われています。また、買収後の経営陣の交代や戦略の不一致が問題を引き起こし、収益性の向上が困難となりました。
2. 日産自動車によるルノーの買収
日産自動車は1999年にルノーと資本提携を結びましたが、後に経営統合が難航しました。失敗の要因は、両社の企業文化や経営スタイルの違いが大きく、統合プロセスがスムーズに進まなかったことです。また、カルロス・ゴーン氏の逮捕により、経営の混乱が生じ、提携関係が悪化しました。これにより、期待されたシナジー効果が得られませんでした。
3. 東芝によるウェスティングハウスの買収
東芝は2006年にウェスティングハウスを約54億ドルで買収しましたが、巨額の損失を計上しました。失敗の要因は、原子力事業のリスクを過小評価し、買収後に予期しないコストが発生したことです。また、デューデリジェンスが不十分であり、買収後の経営統合がうまく進まなかったことも影響しました。これにより、東芝は財務状況が悪化し、経営再建を余儀なくされました。
まとめ
企業買収は会社の成長に繋げる手段の一つです。
企業買収を成功させるには、事前に目的や戦略を綿密に決めておくことが重要です。
また、メリットとデメリットを把握することで、企業買収の成功が近づくでしょう。
自社のリソースのみで進めることが困難、不安な場合や、多くのターゲット候補企業との接点を求める場合には、
コンサルタントなどのM&Aアドバイザーの支援を受けることも検討しましょう。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室