コラム
更新日:2025/02/18
テーマ: 02.M&A
M&Aを成功させるための注意点とリスクを買い手・売り手別に紹介

M&Aでは成功のため気を付けておきたい注意点、重要な点が多くあります。
本記事ではM&Aプロセスの流れに沿って、買い手、売り手の両方の視点からこれらを解説します。
目次
M&Aは、リスクを抑えることが重要
M&Aが失敗に終わる可能性のあるリスクは多岐にわたります。
条件が嚙み合わずに交渉が失敗する、統合が計画通りに進まず期待したシナジー効果が発揮されない、などの回避可能なリスクに加え、
完全に相手方の都合により断念する、など回避不可能なリスクもあります。
その中でも計画、事前準備で発生可能性やリスク発現時の影響を抑えることができるリスクは、
極力把握、対策しておくことがM&Aの成功のためには重要です。
買い手側のM&Aにおけるリスク
買い手側のリスクを紹介します。
ここでは主なリスクとして契約や納品物に潜むリスク、雇用に関するリスク、粉飾・不正に関するリスク、想定した収益やシナジー効果が見込めないリスクを解説し、それぞれリスクを回避、軽減する方法も記載します。
契約や納品物に潜むリスク
買い手にとって最も大きなリスクといえるのが、対象企業の契約や納品物に潜んでいるリスクです。
対象企業がその取引先と、特殊な契約を結んでいるなどは潜在的なリスクとなります。
極端な例ですが、”納期に間に合わなかった場合には受注額の3倍の金額を支払う”のような契約がある場合には、財務諸表には表れない潜在債務となります。
また、COC条項による制限がある契約もよくあります。
株主や経営者が変更された場合に相手方から契約解除できる内容である場合が多いです。
雇用に関するリスク
雇用に関するリスクで分かりやすい例は、未払い残業代です。
特に残業が多い業界や中小企業を買収する場合には注意が必要です。
従業員の働き方を改善し、法的保護を徹底するという考え方は、年々その適用が厳格になってきている重大な問題です。
また、中小企業の中でも従業員との雇用契約書を結んでいない際は、リスクを限定することすらできず、対処が困難になります。
粉飾・不正に関するリスク
対象企業が財務諸表上問題ないように見える場合でも、粉飾のリスクはあります。
通常、表明保証に含まれる内容ではありますが、表明保証によって全てがカバーされない場合もありますので、デューデリジェンスによる調査を綿密に行いましょう。
デューデリジェンスでは少なくとも過去の税務調査や行政指導について調査することが多いです。
想定した収益やシナジー効果が見込めないリスク
外部環境の変化、従業員の離職、統合計画およびPMIが不十分、などさまざまな理由で当初想定していた収益、統合効果が見込めない可能性があります。
このリスクを回避、軽減するにはそれぞれの懸念点を解消するほかなく、この工程こそがM&A成功のキモと言えます。
売り手側のM&Aにおけるリスク
次に、売り手側のリスクを紹介します。
ここでは主なリスクとして表明保証とその賠償に関するリスク、不利な条件で契約するリスク、プロセス中の業績悪化リスクを挙げています。
表明保証とその賠償に関するリスク
買い手側のリスクと表裏一体のものです。
買い手は想定される様々なリスクを移転するため、契約書上で表明保証を求めます。
財務諸表に粉飾がないことなど、表明保証した内容で買い手に損害を与えるような事実がM&A実行後に発生した場合には、その損失を賠償することとなります。
これを避けるためには、普段から誠実な経営を心掛けること、自社の状況を十分に理解すること、表明保証の内容をなるべく少なくなるよう交渉すること、などがあります。
不利な条件で契約するリスク
M&Aの金額は交渉で決定する内容ですが、基本的には買い手の方が企業として大きく、買い手の方が交渉力が強く、有利である場合が多いです。
買い手の提示する金額や条件でそのまま契約するのではなく、自社が譲れない条件や金額目線を決めておき、場合によっては専門家の力を借りながら交渉に臨みましょう。
プロセス中の業績悪化リスク
特に売り手は企業規模が小さいことがあり、デューデリジェンス対応などのプロセスに事業責任者などが工数をとられると、本業の業績が悪化してしまう可能性があります。
これを避けるにはアドバイザーなどの専門家と契約し、工数のかかる作業を代替してもらいましょう。
M&Aプロセス別に押さえておきたい 注意点_買い手側
買い手側から見たM&Aの注意点、重要な点をM&Aプロセスに沿って紹介します。
事前準備、企業選定
M&Aの成功には、事前準備と企業選定が極めて重要です。まず、買い手側としては、自社の戦略目標を明確にすることが必要です。これには、成長戦略、技術革新、地域拡大、コスト削減などが含まれます。
次に、ターゲット企業の選定基準を設定します。これには、財務状況、事業内容、技術力、顧客基盤、地域的な強みなどが考慮されます。ターゲット企業のリストを作成し、各企業の詳細な情報を収集・分析します。財務諸表の分析、業界動向の調査、競合他社との比較などを行い、ターゲット企業の価値を評価します。
また、デューデリジェンス(Due Diligence)を実施し、法務、財務、税務、環境、労務などのリスクを評価します。これにより、潜在的な問題を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。これらの事前準備がしっかりと行われることで、M&Aの成功に寄与します。
注意点としては、戦略や選定基準をぶらさないこと、デューデリジェンスでは重点的に確認するポイントを事前に決めておくことと、デューデリジェンスにより顕在化したリスクの対応を取引価格に反映するか、どこまで許容するか等が挙げられます。
そもそもM&Aの目的に沿わないリスクが発覚した場合には、M&Aそのものを断念することも選択肢になります。
交渉過程
交渉はM&Aプロセスの中で最も重要なステップの一つです。買い手側としては、まず交渉チームを編成し、法務、財務、戦略、業務の各専門家を揃えることが重要です。社内に人材がいない場合は、弁護士、税理士・会計士、コンサルタントなどの支援を受けます。交渉の初期段階では、ターゲット企業との信頼関係を築くことが求められます。これにより、情報の透明性が高まり、スムーズな交渉が可能となります。
次に、買収価格の設定が重要です。ターゲット企業の価値を正確に評価し、適正な買収価格を提示することが求められます。価格交渉では、相手の期待値や市場動向を考慮し、柔軟な対応が必要です。また、契約条件の詳細についても慎重に交渉します。これには、支払い条件、従業員の処遇、経営陣の継続、知的財産の取り扱いなどが含まれます。最後に、交渉の結果を文書化し、法的に拘束力のある契約書を作成します。これにより、M&A実行後のトラブルを防ぎます。
統合プロセス
M&Aの成功には、統合プロセスがスムーズに進むことが不可欠です。買い手側としては、まず統合計画を詳細に策定することが重要です。これには、組織構造の再編、業務プロセスの統合、ITシステムの統合、人材の配置転換などが含まれ、アクションプランまで落とし込みます。
次に、統合プロセスを管理するための専任チームを編成します。このチームは、各部門の代表者や専門家で構成され、統合の進捗を監視し、問題が発生した場合には迅速に対応します。
また、従業員のモチベーションを維持するためのコミュニケーション戦略も重要です。買収後の不安や抵抗感を軽減するために、定期的な情報共有や意見交換の場を設けることが求められます。さらに、統合プロセスの進捗を定期的に評価し、必要に応じて計画を修正することも重要です。これにより、統合の遅れや問題点を早期に発見し、適切な対策を講じることができます。最後に、統合プロセスが完了した後も、継続的な改善活動を行い、シナジー効果を最大化するための取り組みを続けることが必要です。
特に企業文化の融和には時間がかかる点に注意しましょう。
M&Aプロセス別に押さえておきたい 注意点_売り手側
同様に、売り手側から見たM&Aの注意点、重要な点をM&Aプロセスに沿って紹介します。
事前準備、企業選定
自社の価値を最大限に引き出すために、詳細な企業評価を行います。財務諸表の分析、資産評価、負債の確認などを通じて、企業の現状を正確に把握します。また、事業計画や成長戦略を明確にし、買い手に対して魅力的な提案を行うための資料を準備します。
次に、希望条件を満たす買い手を選定することが重要です。買い手候補のリストを作成し、それぞれの企業の財務状況、事業内容、戦略的適合性を評価します。特に、シナジー効果が期待できる企業や、同業他社との競争力を高めることができる企業を優先的に選定します。
また、買い手候補との初期接触を通じて、相手の意向や条件を確認し、交渉の基盤を築きます。さらに、デューデリジェンスを実施し、潜在的なリスクを事前に把握することも重要です。
注意点としては、希望条件によっては買い手が見つかりづらいこと、デューデリジェンスの対応には人手がかかることです。
自社で買い手探しが見つからない場合には、金融機関やM&A仲介、M&Aアドバイザーの支援を受ける選択肢もあります。
デューデリジェンスでは買手の懸念点を理解することで効率的に資料作成、情報公開することができます。
交渉
売り手側としては、買い手と同様に交渉チームを編成し、法務、財務、戦略、業務の各専門家を揃えることが理想的です。交渉の初期段階では、買い手との信頼関係を築くことが求められます。これにより、情報の透明性が高まり、スムーズな交渉が可能となります。
次に、売却価格の設定が重要です。自社の価値を正確に評価し、適正な売却価格を提示することが求められます。価格交渉では、相手の期待値や市場動向を考慮し、柔軟な対応が必要です。
また、契約条件の詳細についても慎重に交渉します。これには、支払い条件、従業員の処遇、経営陣の継続、知的財産の取り扱いなどが含まれます。さらに、交渉の過程で発生するリスクや問題点についても、事前に対策を講じることが重要です。最後に、交渉の結果を文書化し、法的に拘束力のある契約書を作成します。これにより、後々のトラブルを防ぎ、M&Aの成功を確実にすることができます。
契約書上で表明保証した事項は、後から誤りが発覚した場合、金銭で保証する必要がある点に注意が必要です。
統合プロセス
統合プロセスの段階では、買い手と同じ内容ですので割愛します。
売り手としては、元々の従業員の離職やモチベーション低下を避けるため、M&Aの経緯や今後の展望などを十分に説明することが重要です。
M&Aは戦略が重要
上述してきたように、M&Aでは望むシナジー効果などの目標設定やデューデリジェンスで精査したいポイント、統合計画など、プロセス前やプロセス中に立てる戦略が成否を分けることとなります。
M&A戦略の重要性を理解して、スムーズなM&Aの成功を実現しましょう。
まとめ
これまで紹介してきた通り、M&Aでは事前に知っておくとプロセス進行が遅れるなどのトラブルを避けられる注意点があります。
紹介した以外にも業界特有のポイントも多くあり、社内にM&Aのノウハウが無い場合にはコンサルタントなどの外部専門家の活用を検討しましょう。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室