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更新日:2024/06/17

テーマ: 02.M&A

M&A戦略とは?策定の流れとポイント・注意点【事例を交えて解説】

M&A戦略とは?策定の流れとポイント・注意点【事例を交えて解説】

M&Aが上場企業だけでなく、あらゆる企業にも浸透し、活発化してきましたが、M&Aは非常に大きな取引、経営判断です。その目的や進め方は勿論、売却・買収後を視野に入れた戦略を策定することが重要です。

本記事では、M&A戦略について、その重要性、目的、立案のプロセスや重要となるチェックポイントを解説します。

目次

M&A戦略を策定の流れ

M&Aを構想する段階でM&A戦略を策定していきます。特に初めてM&Aをする場合、何をどのように検討していけばよいのか分からないと思いますが、基本的には以下のような流れで戦略策定を行うとよいでしょう。M&Aは相手のある取引になりますので、策定にあたっては実績が豊富な専門家への相談を行うとよいでしょう。

  1. 自己/自社分析を行う
  2. M&Aの目的を決める
  3. M&A市場調査をする
  4. M&A戦略を具体化する
  5. M&A相手先を具体化する
  6. 相手企業へのアプローチ方法を考える

M&A戦略の重要性

M&Aは、会社や事業を目的物とした取引であり、売却側と買収側の2者がいて初めて成り立ちます。売却側と買収側では視点が大きく異なるため、ここでは、M&A戦略の重要性を両社それぞれの視点から説明します。

売却側のM&A戦略の重要性

売却側にとって、M&Aは初めての取り組みであることが多く、M&Aに関する知識を得た上で、事前にしっかりとした戦略を立てて進める必要があります。特に検討すべき点は以下の通りです。

  • M&Aの目的(なぜM&Aを行いたいのか)
  • 他の手段との比較(本当に最適な選択なのか)
  • 希望する条件(金額などの経済的条件、売却後の関与、社名やの維持)
  • 想定される相手の像(事業会社/ファンド、近隣/遠方、同業/異業種など)
  • タイミングと進め方
  • 想定される利害関係者への影響と対応(他の株主/親族/対象会社の従業員/取引先など)

M&Aは情報管理等の観点から、進めると決めたらスピーディに進める必要があり、重要な判断を連続して行うことになります。M&A戦略をしっかり立てておくことによって、判断の指針となり、相手の要求や不測の事態に対する対応をきちんと行うことが出来ます。

買収側のM&A戦略の重要性

M&Aの売却案件は常にあるわけではなく、金融機関やM&A専門会社から紹介されたタイミングで具体的な検討を行うこととなります。買収側でもスピーディに判断できなければ、機を逃しかねず、事前にM&A戦略を立てることは重要です。
多くの項目が売却側と重複しますが、特に以下の点を検討しておく必要があります。

  • M&Aの目的(なぜM&Aを行いたいのか)
  • 他の手段との比較(本当に最適な選択なのか)
  • 対象となる相手の像(事業内容、立地、規模等)
  • 提示可能条件、予算(条件の算出方法、上限となる条件)
  • 具体的案件の発掘方法
  • 社内検討プロセス・決定機関
  • 買収後の統合プロセス・体制

ただし、M&Aは相手がある取引であり、具体的な案件を発掘し、取引完了まで実現して初めて実現されることになります。また、事業環境や資金状況などの変化もありますので、定期的な見直しも重要となります。

M&A戦略の策定方法・流れ

M&A戦略は、一般的には以下の流れで策定するのが良いでしょう。

① 自己/自社分析を行う

自己分析を行い、自社の強みや課題を整理し、その上で将来の方向性を定めるという流れは、企業戦略・事業戦略を決める定石です。
M&Aはその企業戦略、事業戦略を叶えるための手段ですので、基本的にはこの流れの通り、まずは自己分析を行います。

自己分析には、3C分析、ビジネスモデルキャンバス、事業ポートフォリオ分析など様々な視点、フレームワークが有りますが、全体を俯瞰するという意味ではシンプルなフレームワークであるSWOTフレームでまとめておくのが有用です。

SWOT分析は、それぞれ「Strengh(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の略で、自社の強み(S)と弱み(W)と、外部の市場の機会(O)と脅威(T)を整理し、網羅的、俯瞰的に理解することが出来ます。
機会や脅威は、現在の強みが今後活かせるのか、あるいは逆に、強みが強みなくなってしまうのかなど、現時点だけでなく、中長期的な視点も含んだ視点で俯瞰できるため、今後の戦略を立案するうえで有用な情報となります。

SWOT分析とは

この他、業種毎に、例えば製造業などは技術要素が重要となる業種では、技術に焦点を絞った分析を行っておくと良いでしょう。自社で有している技術が、他の分野でどのように転用できるのか、その市場は有望なのか、技術をどのようにビジネス化するのかが戦略上の重要な要素になりますので、この時点で有している技術を棚卸し、なぜそれが競合優位性に繋がっているのか、どのように生み出したのかなど整理しましょう。

また、複数の事業を行っている場合は、企業としての分析に加え、事業ごとの分析を行うべきでしょう。

② M&Aの目的を決める

M&Aの目的は売却側と買収側で大きく異なりますので、それぞれ解説します。

さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

売却側のM&Aの目的

自己分析を行った結果、このまま成長を図るより、他の企業の傘下での成長の方が良いと判断した場合、M&A(他社への譲渡)は有力な選択肢となります。低収益/低成長な事業は勿論、投資優先度が落ちる事業や非コアな事業を他社に譲り、売却資金をコア事業に充てるような、『選択と集中を図る』目的でM&Aが活用されます。
特に上場企業は、資本コスト経営を重視する旨の要請が強くなっており、成長性、売上高利益率だけでなく、ROIC(投下資本利益率)も重要な指標となり、今後もこの目的でのM&Aは活発化するものと思われます。

非上場の中小企業やベンチャー企業の個人株主の場合は、『事業承継』や『イグジット(=創業者利得の享受)』を目的としてM&Aが多く活用されています。
非上場の中小企業は、「企業=家業」であり、今でも親族内や役員等の社内人材に承継されることが当然との考えが大勢を占めている節がありますが、後継者不足が深刻ということもあり、事業承継を目的にM&Aを行う事例も相当増えてきました。
事業承継目的の場合、オーナー個人の視点と対象となる企業の視点の両軸で考える必要があり、事業を円滑に引き継ぐことが最重要ですが、、現在の従業員にとってもプラスに働くような相手へ譲渡することが肝要になります。

買収側のM&Aの目的

買収側にとってM&Aは企業戦略/事業戦略の一手段ではあり、自己分析に則り、自社の強みが生かせる新規事業領域への進出や、既存事業の強化を、“非連続的に”行うことが主な目的となります。
自社では獲得できないものをM&Aにより取得する、という考えではなく、経営のスピードが上がっている昨今、全てを自前で成長させることに加え、M&Aによって時間を買うという感覚が重要になりつつあります。

③ M&A市場調査をする

目的が定まり、M&Aを進める方向感が出たら、M&A対象となる市場、企業についてM&Aが可能か、どのようなM&Aが行われているかを調査します。
同業種同士で活発に行われている事例、異業種によるM&A、ファンドがM&Aを行っている事例など様々なM&A事例を調査することで、どのような相手や事業シナジーが有り得るのかを理解することが出来ます。
業界によって、M&Aの活性度は異なりますし、成長業界や希少性の高い業界の場合は、買収金額水準も高いなど、実際の希望条件を検討するうえでも重要なプロセスになります。
良く知っている業界であれば、競合の買収事例など、業界内での噂等で情報も得やすい一方、異業種が想定される場合は、自社内での情報取得に限界があるため、当該業界に知見を持つ人や、コンサルタントなど、幅広く情報を収集する必要があります。

④ M&A戦略を具体化する

対象となるM&A市場の調査を行った後、M&A戦略を具体化していきます。
M&Aの相手として対象となる企業の条件、買収価格目線(上限となる条件)、地域、有している有形・無形資産(取引先、商品、技術)など、投資の基準や売却の基準となる要件を定めていきます。

また、M&Aと一言で言っても、手法・スキームは、株式譲渡、事業譲渡、資本提携、第三者割当増資、合弁会社設立と様々あります。スムーズな移行のために、まずは資本提携から段階的に譲渡していくということも考えられます。

検討する際には、事業上の観点の他、特に個人株主が絡む場合は、税務上の論点も重要になってきますので、専門家のアドバイスを受けたほうが良いでしょう。

⑤ M&A相手先を具体化する

戦略が具体化されたら、その戦略に合致する相手企業を具体化していきます。

対象となる企業をまずは、ロングリストと呼ばれる30社~100社へリスト化していきますが、基本的は進め方は、広げる⇒絞る⇒広げる⇒絞る・・・の繰り返しです。最初から数を絞ってリスト化せず、最初は、可能性がある先を広く挙げ、その後絞り、さらにその残った先を中心に他にないかを広げ、絞り、という方法が効率的、効果的な進め方です。

ロングリストに優先順位を付けていきますが、優先順位に従い、ショートリストを作っていくこともあります。

M&A戦略を具体化⇒相手を具体化、という流れで進めるわけですが、相手先企業が具体化すると、逆にこれまで机上で考えてきたM&A戦略を見直す可能性も出てきます。M&A戦略も剛直的にならず、柔軟に考えることが肝要です。

⑥ 相手企業へのアプローチ方法を考える

相手が具体的に決まったら、アプローチ方法を検討します。アプローチ方法は大きく3つあり、それぞれメリット/デメリットがあります。

  • 直接アプローチする
  • 金融機関、M&Aコンサル、仲介会社を介してアプローチする
  • マッチングプラットフォームを活用する

直接アプローチする方法

対象リスト先の企業に自分で直接アプローチする方法です。
直接であるため、自社の強い思いを相手に伝えることができ、スピーディに進めることも可能です。相手先と何かしらのルートがあったり、業界内で経営者同士が顔見知りでお互いにM&Aについて話をすることに抵抗が無く、経営トップが完全にコミットしている場合などは、直接アプローチする方法が効果的です。

一方、相手と直接話を進める場合は、これまでの関係を崩してしまう懸念や、希望する取引条件などの生々しい話が切り出しずらく、お互いの本音をやり取りすることがスムーズにいかないデメリットもあります。
また、自社での負荷も大きくかかるため、自社内に体制がしっかりしており、M&Aについての経験が豊かな会社でないと中々難しい側面があります。

その場合は、アプローチは自社で行い、交渉段階ではFAや仲介会社を推進役にするなど、段階に応じて、進め方を工夫するのが良いでしょう。

金融機関、M&Aコンサル、仲介会社を介してアプローチする

金融機関やコンサルタント、仲介会社などのM&A専門業者は、企業ネットワークや経験を豊富に有しており、また、M&A専門業者の中には、M&A戦略の構築や、M&A対象先の具体化(ロングリストの作成)の段階からサービスを提供している所もあり、実現に向けて専門的なアドバイスを受けることも可能です。

 M&A専門業者を介してアプローチする方法は、①M&A案件(相手)を紹介してもらう場合と、②M&A専門業者が代わりにアプローチする場合とがあります。

① M&A案件(相手)を紹介してもらう
M&A専門会社は、会社の業歴や規模にもよりますが、多数の企業ネットワークと案件情報を持っており、日々相手とのマッチングを行っています。そのため、自社が想定している相手の像を伝えておくことで、実際に案件があった場合に紹介頂くことが出来ます。

売却側であれば、多数の会社に話すと情報が業界内に漏れてしまう懸念が大きいことから、複数の会社に伝えることは得策でないため、信頼できる企業を厳選する必要がありますが、買収側であれば、情報を広く集める必要があるため、出来るだけ多くの(とはいえ、信頼できる会社のみですが)専門会社に伝えておくことが肝要です。

② M&A専門業者が代わりにアプローチする
M&Aをある一定の時間軸で達成させたい場合、情報待つのではなく、積極的にアプローチしていく必要があります。M&A専門業者を活用する場合、相手先に対して、自社の名前を伏せて(ノンネーム情報で)アプローチすることが出来るため、情報管理をしながら、相手側の意向を確認し、意向がある先にだけ限定して情報を開示していくことが可能です。
売却を進めたい場合、1社のM&A専門会社と専任の契約を結び、専門的なアドバイスを受けながら、M&A実現に至るまで伴走したサービスを受けることができ、この方法を取るのが一般的です。

一方、買収を積極的に進めたい場合は、①の通り、複数の業者に案件情報の紹介依頼をしながら、直接M&A専門会社を活用して能動的にアプローチしていく方法が効果的です。

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いずれにせよ、M&A専門会社を活用する場合は、経営を行う上で最も機密性の高い情報であり、情報管理に最大限留意しながら進める必要があります。昨今、M&A専門会社が急増しており、経験値や実績が低い会社も多数いますので、信頼できる会社と付き合うようにしましょう。

M&A戦略のポイント3選【売却企業側】

ここでは売却企業側がM&A戦略を立案、構築するうえで重要なポイントを記載します。

① 売却タイミングを考える

ポイント一つ目は、売却のタイミングです。
例えば事業承継が目的のM&Aの場合、オーナー経営者の年齢、社内の後継人材の育成進捗、オーナー経営者の人生プランなどが判断要素になりますが、対象会社の事業の市場や競争環境、収益状況なども考慮すべきです。

「売りたくない時が売り時」という言葉が有ります。これは営業マンの営業トークでもありますが、実際に市場が今後拡大していくと見込まれるタイミングや、利益が増加するタイミングで売却する方が、交渉力も強く、より希望条件を叶えやすくなります。

② 対象会社視点と売主視点は異なる

売却側の場合、売主と対象会社の両方を考える必要があります。

対象会社と売主は主体が別であり、それぞれに目的は異なります。“対象会社にとって”良い買い手と、“売主にとって”良い買い手は必ずしもイコールではありませんが、それぞれ譲れない条件や優先順位を決めて進めることが肝要です。

対象会社としてのM&A戦略

基本的には、M&Aの対象となる会社の市場環境、競合環境や成長ステージなどを考えたときに、この会社/企業を成長させるために『ベストなオーナー』は誰かという視点で考えます。事業シナジーが最も発揮される事業会社かもしれませんし、成長ステージによっては投資ファンドがベストということもあります。
ただし、会社の成長が全てではありません。例えば、事業シナジーが最も発揮されるのが同業だ、ということはよくありますが、その場合既存の従業員が必ずしも幸福とは限りません。

事業と会社を客観的に見たときに、会社の成長と、役員・従業員・取引先等の利害関係者の幸福を両立できる先を探すことが重要であり、売主の目的だけでなく、対象会社に関しても譲れない条件を明確にし、主張していくことが肝要です。

売り主としてのM&A戦略

売主としては、対象会社が成長し、対象会社に勤める従業員、取引先がハッピーになることを目指すことは勿論ですが、売主としては、売却対価などの条件面と、売却後の関わり方を考える必要があります。

売却対価については、会社の魅力をどのように最大限アピールし、より良い条件で売れるような戦略(見せ方なども)が必要ですが、スキームを考えておくことも重要です。や対価の受取方法によって税金などの必要コストが異なり、手取り金額も、スキームの違いだけで、数十パーセント変わることもありますので、予めスキームのメリット/デメリットを理解しておきましょう。買い手から、買い手が有利なスキームを提案されることが有りますが、その主張の根拠を理解し、対応・判断できるような準備が肝要です。

また、売主は売却後、対象会社との関係が全くなくなることは、通常有りません。業務を引継ぐための協力は勿論、売主が事業会社の場合、本部機能を一部共有しているなど、スタンドアローンイシューが有る場合は、どのように対処すべきかを予め検討しておく必要があります。また、買い手にとって大きなリスクとなる問題が判明した場合、譲渡対価の減額や、リスクに対する補償の設定等を要求してくる恐れがありますので、売却側としてはどこまで譲歩すべきか事前に検討しておくと良いでしょう。

③ 最初から相手先を限定しない

M&Aで売却することを考えた場合、どのような相手が良いか想定をするわけですが、初めから決め打ちで相手を絞らない方が良いです。自社の成長を考えたときに、事業シナジーが湧かないと思われた相手であっても、実際に打診してみた所、想定外のシナジーや、自社の魅力を引き出してくれるような提案や、想定以上の条件の提示があるケースは多くあります。

最近は投資会社(ファンド)が増加しており、M&A市場が活発となる一要因になっていますが、1990年代~2000年代の「ファンド=ハゲタカ」という悪いイメージを持っている経営者が依然多くおり、少々勿体ないと思うこともあります。ファンドと一口に言っても、業界知見を多く有しており、現実的な事業成長の提案をしてくれるファンドや、イグジットを前提としないファンドなど、多様にいます。情報管理は気を付けながらも、食わず嫌いにならず、幅広く提案を受ける姿勢を持ちましょう。

M&A戦略のポイント3選【買収企業側】

M&Aには買収企業にとって自社単独では成し遂げられなかった課題を、短期間で解決できる効果があります。経営スピードが年々早まり、競合他社との競争が過熱する中、M&Aは経営に必須の手法と言えます。
ここでは、買収企業にとってのM&A戦略上のポイントを記載します。

① 経営トップのコミットメント

M&Aの失敗と成功を分けるのは、戦略をしっかり立てることも重要ですが、その戦略および実行に対して、経営トップの強いコミットメントが必要です。M&Aは経営戦略の一手段ではありますが、会社対会社の取引でもあり、相手に失礼のないように経営トップが出ていくことは勿論、M&A検討時の判断、M&A後の統合作業は複雑で多様な局面が想定されることから、トップ自らが一貫した方針を現場に与える必要があります。

② M&A戦略のパターン

一つとして同じ企業が無いように、M&A戦略も個社別に異なりますが、ある程度のパターンがあります。大きく分けると、既存事業の買収、隣接(関連)事業の買収、新規事業の買収に分けられます。

既存事業の買収

既存事業の買収は、行っている事業が同じであるため、最も理解しやすく、オーガニックな成長の延長線上にあります。何を獲得したいのかによって、以下のようなものがあります。

【事業拡大戦略】
事業を規模を大きくすることによって、規模の経済を働かせる戦略です。
仕入/調達の交渉力が上がり、原価低減が出来たり、バックオフィスや本部コストをはじめ重複する機能を効率化させることが可能です。最近では、人材採用難が続いており、単独ではなく、規模を大きくして人材採用強化、人材流動化を図る取り組みが増えています。
同業が対象となるため、相手が商売上の競合であるケースもあり、その点は戦略実行に当たって留意が必要と言えます。

【エリア拡大戦略】
自社が事業を行っているエリア以外に進出するために行うM&A戦略で、既存の企業を買収することで、取引先や従業員などを一から構築する手間は無く、まさに時間を買う戦略と言えます。全く知らないエリアというより、例えば営業所/出張所を出しているエリアなど、多少なりとも知っているエリアの方が、企業統治面ではやりやすくは有ります。

隣接(関連)事業の買収

関連事業を行う企業の買収で、商流上の関連先の買収としてサプライチェーン拡大戦略、取り扱い商材の拡充としてランナップ拡大戦略があります。

・サプライチェーン拡大戦略
仕入、製造、販売・・といったサプライチェーンの川上或いは川下を買収する戦略です。卸売企業が、仕入先業界である製造業に進出するなどで、例えば、食品スーパーが、食品メーカーを買収する事例などが当てはまりますが、買収した食品製造業は、買収先スーパー以外の取引を継続できなくなるなど、既存の商流に影響を与える可能性があるので留意が必要です。

・ラインナップ拡大戦略
取扱い製品の機能や価格帯、顧客業界などが異なる会社を買収する戦略です。この場合、営業組織や仕入品目などで共通点が見いだせるため、ラインナップの拡充とともに、経営効率改善も同時に期待できます。ただ、表面的にはシナジーがあると思っていても、実際には全く性質が異なるため、1+1=2でしかないなどということもあるため、現場の意見を尊重しながら判断する必要があります。

新規事業のM&A戦略

自社で新規事業を作ろうとしても、従業員には経営者的な人材は稀であり、実際にビジネスとして立ち上げるのは、至難の業です。ベンチャー企業の5年生存率は10%台との話もあるなか、新規事業を獲得するためにはM&Aは有力な選択肢となります。

・事業転換戦略
市場が今度右肩下がりが想定される場合には、事業転換を図る必要があり、そのためにM&Aを活用する戦略です。事業の第二の柱、第三の柱を構築する目的で、既存事業と全く関係の無い企業を買収することになるため、対象企業自体の引継ぎ難易度があるかが重要になります。

・コングロマリット型多角化戦略
市場的にも取扱い商材的にも、まったく関係がない異分野へ進出するためのM&A戦略です。経営を多角化することで、単一事業のリスクを軽減できると共に、基礎的な経営資源を効率化することで、効率的な経営が可能です。

③ PMI(統合作業)を想定しておく

M&Aは買って終わりではなく、寧ろそこからが始まりです。M&A戦略策定時にもある程度自分たちで統合作業を行うことを前提に、対象を決める必要があります。たくさんM&Aしたけれども、統合作業がうまく行かず、当初想定していたシナジーが発揮されないというのはよく聞く話です。「100日プラン」と言われるように、特に買収直後の3ヶ月がその後の相手先企業との関係を決めてしまいます。M&A取引交渉中は、デューデリジェンスや多数の論点対応で忙殺されますので、予めM&A後の統合作業を見据えた体制整備や戦略立案が重要になります。

M&A戦略を進める際の4つの注意点

M&A戦略を描く、進める際に気を付けるべき注意点を解説します。
これらを注意することで結果的にM&Aが円滑に進み、成功の可能性が高まります。

① 当初の目的を忘れずに、立ち返ること

M&Aは交渉相手が見つかってから半年程度を要し、複雑に絡み合った論点を次々にクリアしていく、非常に胆力を要する手続きです。
当初、理想の相手と思った先であっても、デューデリジェンスや交渉の過程で、相手の嫌な部分も見えてくることも多く、目の前の論点や条件に固執し、当初の目的を忘れてしまうことが往々に有ります。

常に当初の目的を忘れずに進めていくことは難しいのですが、障害が生じた場合には、折に触れ、当初の目的に立ち返り、交渉を粘り強く続けていくことが肝要です。

② M&A以外の選択肢も十分に検討する

M&Aは経営判断の中でも、一二を争う大きな判断です。M&A以外の選択肢をしっかり検討せずに進めると、例えM&A戦略が表面的に出来ていたとしても、M&Aの目的が十分強いものになりません。
その場合、相手や関係者を振り回した挙句に実行に至らなかったり、M&A実行が出来たとしても、統合が進まず、中途半端なM&Aになってしまったりします。

M&A会社の営業トークに乗せられず、魅力的な話に安易に飛びつかず、なぜM&Aが良いのか、他の選択肢とも比較をしながら、時間をかけてしっかり検討しておきましょう。

③ 机上で考えすぎず、現実に合わせて柔軟に対応すること

M&Aは相手がある取引であり、当初M&A戦略で描いていたような会社と必ず取引が実現できるとは限りません。「M&A戦略」というと、大上段に構え、机上で詳細まで考えてしまいがちですが、相手と取引が出来て初めてM&Aは意味を成します。
理想の相手がなかなかいない場合には、スキームを工夫したり、相手の要件を広げるなど、現実に合わせて柔軟に対応することが、M&Aの実現には必要な考え方です。

④ M&Aの専門家を活用する

M&Aは、通常の営業活動とは違い、たくさんの事例を経験している経営者は少なく、寧ろ、初めての経験であることの方が多い領域です。また、M&Aマーケットは時期によっても変化しており、日頃から情報やネットワークの構築を生業としている専門家は頼りになる存在です。ただ、経験が浅い担当者も多くいる業界ですので、是非信頼できる専門家を見極め、良き理解者、伴走者として、豊富な経験を持つ専門家を活用してみてください。

M&A戦略の実例15選

弊社がご支援してM&A戦略を実現した事例をご紹介します。

① デジタル領域の拡充を企図し、能動的にアプローチした事例

セールスプロモーション事業を核とした成長企業(買収側)が、WEB、デジタル領域の拡大を図るためにM&Aを模索。
弊社と協力して対象先を選び、弊社から能動的に直接アプローチを実施。
いくつかアプローチ先のうち、自社での成長に限界を感じており、隣接業界の企業へのM&Aを考えている企業(売却側)があり、お互いの戦略がマッチし、成約に至った事例。

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② 事業レベルまで企業を分解したことによる「M&A最適化」の事例

化粧品の製造及び卸売を営む法人の事業承継案件。経営者が60歳を迎えるにあたり、会社の将来・従業員の雇用を守るためにM&Aでの株式譲渡を意思決定。
製造部門及び卸売部門と2部門を営んでいたが、弊社が相談を受けたタイミングは新型コロナウイルス感染症の感染拡大がようやく落ち着いたタイミングであり、製造部門はコロナ禍の行動制限のあおりを受け、ほぼ休業状態であった。

全社の損益(決算書数値)としては、売上高約20億円、利益約0円であり、この数値だけを持ってM&Aを進めると、「利益が出ない会社」というイメージとなってしまい、M&Aが上手くいかないリスクがあったため、まずは、X社の事業ごとの分析。
結果、「製造部門の改善が出来る企業と組むことが会社の将来性及び譲渡対価の最大化の観点で最適」という譲渡シナリオを設定し、M&Aを進めることに。最終的に化粧品事業への進出を検討していた、異業種のA社とマッチングをし、A社の既存事業とX社の製造部門とでシナジーを描くことが出来たため、企業価値を最大化させることが出来た事例。

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③ 大手企業に株式譲渡することで、事業承継と持続的成長を図った事例

過去数十年に渡り官公庁向けの新築・耐震補強設計を手掛け、確かな品質で顧客からの信頼が厚い建築設計事務所。
オーナー社長は、社長就任当時から60歳を機に引退することを決めており、優秀な従業員を後継者として育成していたが、経営人材の創出には至らなかった。一方、人口減少等を背景にますます経営の舵取りも難しくなるため、M&Aを検討。

候補先を探した結果、従業員を大切にし、今の事業を存続してくれる会社様に託したいという意向から、安定した管理業務を遂行しており、人材の派遣も可能であった上場企業のグループ会社に譲ることを決断した事例。

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④ 赤字の本業を事業譲渡して、不動産賃貸業に特化した事例

本業は製造業を営んでいるものの、赤字で借入金も残っている状態であった。特殊技術を所有しているものの現在の自社だけでは活かせておらず、一方同業他社からは高く評価、同業他社の営業、開発力をもってすれば、十分に展開が可能と考えたため、同業を対象にM&Aを検討。
過去の財テクで借入金が重かったが、本業の製造業を事業譲渡することで「従業員の雇用と技術を守る」ことに加え、不動産賃貸業は残し「賃貸収入を生活費と借入の返済に充てる」ことができた事例。

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⑤ 「紙」と「脱紙」にこだわり続けたメーカー二社のM&A事例

買収企業は、全国屈指のシェアを誇る紙製オフィス用品の製造業。「紙」に拘り長年積み上げてきた全国への販売網を背景に、盤石な財務体質を誇っている。
他方で、紙からデジタル媒体へとビジネスにおける情報伝達様式が急変している状況に危機感を感じており、成長のドライバーとしてのM&Aを元来より検討されていた。
今後の事業展開についての議論を進める中で、目まぐるしく変化する事業環境を踏まえ、「自社の既存取引先へクロスセルの可能な商材」の拡充が急務であるとの結論に至った。議論を深めていく中で、後継者不在のため山田コンサルあてに株式譲渡の相談のあった企業(売却側)とマッチング。その企業は、商業印刷を祖業としつつも、「脱紙」の潮流を率先して汲み、買収企業が取り組めていない電飾商材など常に時代のニーズをとらえた豊富なプロダクトに強みをもった企業であった。
複数回のトップ面談を経て、売却側企業の取り扱い商材の確かな先行きと自社顧客への販売可能性について、確かな手ごたえが確認できたため、成約に至った。

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⑥ 入札方式の売却プロセスにより希望価格を超えたM&A事例

X社は約25年前に、製造業に従事していた職場の同僚4名がスピンアウトして設立された開発企業である。医療機器関連のソフトウェア開発に特長があり、高齢化、医療の高度化も追い風となり、近年の業績は右肩上がりの状況であった。創業から25年経ち、創業メンバー全員が60歳を過ぎて、1名が病を患ったことから、創業メンバーで議論を重ねた結果、「4人で始めた会社なのだから、4人とも一緒に会社から離れよう」という結論に至り、M&Aを検討。どういった先と、いくらで譲渡をし、譲渡後に経営関与するか等については、それぞれの意見が一致せず、そのため、まずは株式の譲渡価格を判断基準の最優先事項として進めた。

結果、入札形式による売却プロセスを実行したこと、及び事業内容に成長性があり、財務内容も良好であったことが奏功し、創業メンバーが想定していた希望譲渡価格より、1.5倍近い高値でのM&Aが実現した。

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⑦ 医師不足のクリニックを地域の病院が救済した事例

法人のオーナーである事務長は、医師ではなかったが精神科クリニックを20年近く経営してきており、業績は堅調に推移している。
医療法人の理事長は医師であることが原則とされ、また、院長は必ず医師でなければならない。医師でない事務長が医療法人の経営を担う場合には、医師の確保が死活問題となる。
事務長は、もともと夫婦でX法人を経営していたが、医師である夫の死後は、医師を雇用することでX法人の経営を一人で続けてきた。しかし、ここ最近は医師を雇用しても数年で辞めてしまい、事務長は数年に一度は医師の確保に奔走することを繰り返していた。
医師の確保に断続的に苦しむ経営から脱却したいという理由から、事務長はM&Aを行うことを決断した事例。

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⑧ 資金繰り危機の和菓子屋を完全異業種の会社が救済したM&A事例

代々続く老舗企業であり、長年味と品質を追求してきたことで、業界内でも大きな存在感を示している。業容拡大に伴い、大口取引先に対する取引量が増えていくに従い、近年では全取引高の半数以上のシェアを占める状態にまでなっていた。

転機は数年前。大口取引先の取引が打ち切られた。売上高は約1/4まで激減し、急激な資金繰りの悪化に直面した。次第に取引先への支払い遅れや従業員の給料遅配なども発生。業界内では信用不安が生じ、取引量が減少したことで、資金繰りの悪化に更なる拍車をかけた。

不動産等の資産も売却して返済に充てたが、それでも、取引先への支払いが困難となり、再建に協力してもらえるスポンサー探しを開始することになった事例。

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まとめ

従前、M&Aは「乗っ取り」などのイメージが先行し、特に中小企業では懐疑的に思われてきましたが、経営スピードが速くなっている昨今、あらゆる企業でM&Aが必要な手段になってきています。しっかりとM&A戦略の策定し、着実に実行に移していきましょう。
なお、M&Aを多く経験している経営者は多くは有りませんので、「M&A戦略を策定する」と言われても、不安や懸念は当然にあります。
山田コンサルでは、M&Aコンサルティングとして、M&A戦略から買収後のPMIまでサービスを提供しています。ご相談は無料ですので、まずは伴走役、壁打ち相手としてご活用ください。

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山田コンサルティンググループ株式会社 コーポレートアドバイザリー事業本部
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