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コラム

2024/05/07

テーマ: 04.コーポレート・ガバナンス

株式市場の歴史を考える

目次

1. はじめに

 2024年2月に、日経平均株価が1989年12月の史上最高値(38,915円)を更新した。私が1990年4月に証券会社へ入社した時は、史上最高値を1万円以上下回る水準であった。その後の株価は更なる下落を続け、2008年のリーマンショック時には瞬間的に7,000円を割り込み、「史上最高値の更新はおそらく不可能だろう」という諦念に似た感覚を覚えたものだった。そのため、今回の史上最高値更新は非常に感慨深く、これを機に一度株式市場の歴史について自分なりの振り返りをしてみたいと思い立った。
 私が株式市場と向き合ってから30年以上経過したが、その間に株式市場を取り巻く環境は大きく変わった。変化の内容には経済、政治、国際情勢など色々な側面があり、人によって取り上げる事柄は異なるであろう。そこで、上場企業の経営者や経営企画の方たちが、今一度押さえておくべき歴史とは何か、という視点で自分なりに整理してみようと思う。
 上場企業の立場から見た場合、私はおよそ10年ごとに大きく3つのフェーズに分かれると思っている。具体的には以下のとおりである。

フェーズ 01

  • 1990年代:上場企業の各種制度が整備された時代

フェーズ 02

  • 2000年代:アクティビズムの勃興と大型M&Aが定着化した時代

フェーズ 03

  • 2010年代以降:株主との対話がより強く求められる時代

 上記の3つのフェーズを軸に、重要なポイントに注目しつつ振り返ることとする。この整理は網羅的ではなく、独自の見解と主観に基づいたものであるのをご了承いただきたい。さらに、ここでの議論は組織の公式見解を代表するものではなく、あくまで個人の見解である点を明記する。

2. 1990年代の振り返り

 1996年に金融システム改革、いわゆる「金融ビッグバン」が開始された。この改革では「信頼できる公正かつ透明な取引の枠組みやルールの整備」が重要なテーマの一つとなり、その中に「連結財務諸表制度の見直し」も含まれた。信じがたいかもしれないが、当時は連結よりも単独の財務諸表の方が先に開示されていた。これはグローバル・スタンダードとのギャップの象徴的な例の一つであり、1998年以降、他にも会計や開示のルールが変更された。様々な見直しは2000年代初めまで続き、現在の会計や開示の基礎が形成された。
 具体的には、以下のような変更がなされ、これらは「会計ビッグバン」とも言われている。

  • 単独決算から連結決算重視へ
  • キャッシュフロー計算書の導入(損益と現金収支の橋渡し)
  • 時価会計の導入(取得原価主義から時価主義へ)
  • 退職給付会計の導入(退職給付の実態の財務諸表への反映)
  • 税効果会計の導入(会計と税務の損益の差異を可能な限り解消)

 同時期には会社法(旧商法)も改正された。

  • ストックオプション制度の導入
  • 株式消却特例法の制定(取締役会決議により自己株取得が可能に)
  • 株式交換・株式移転制度、会社分割制度の導入

 自己株取得が株主還元策として当たり前になった現在だが、2001年までは原則禁止されていた。また、株式交換・株式移転・会社分割によって企業再編の選択肢が広がった。当時の私はM&Aをはじめとした投資銀行業務を手掛け始めたばかりで、お恥ずかしながらキャッシュを使わない株式交換が買収手段として広く使われると考えていた。ところが、完全子会社化する際には公開買付け(TOB)が主流となっている。希薄化を避ける経営判断と、今は見ている。
 以上が、1990年代に上場企業に影響を及ぼした会計と会社法の制度整備の概要である。余談だが、1999年に楽天とSBIがインターネット証券業務に参入したことにも確認しておきたい。「金融ビッグバン」は株式売買手数料の自由化も一つのテーマであったが、長い時間をかけ、今では手数料ゼロになったことには驚きを禁じ得ない。

3. 2000年代の振り返り

 2000年1月、村上ファンドによる昭栄への同意なきTOBが新たな10年の幕開けを告げた。2003年12月にはスティール・パートナーズがソトーとユシロ化学に対して同意なきTOBを仕掛け、村上ファンドだけが特別ではないという認識が市場に広がった。これが現在まで続くアクティビズムの始まりであった。
 ファンドだけでなく、2005年にはライブドアがニッポン放送の株を、楽天がTBSの株を買い集め、経営権獲得や経営統合を目指した。ファンドを含むこれらの動きは、結果としてどれも成功しなかったが、上場企業の買収防衛策の議論を急速に促進した。
 このような事態を受け、2004年9月には経済産業省が企業価値研究会を設置し、買収防衛策について検討を開始。その延長線で、2005年5月には経済産業省と法務省が「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を示し、その後上場企業の間で買収防衛策の普及が進んだ。
 さらに、株主提案を通じたアクティビズムも見られるようになった。例えば、村上ファンドは東京スタイルの株式を大量に取得後、2002年5月の株主総会で増配などを提案した。翌年も含め提案は二年連続で否決されたが、アクティビストの存在感は確実に高まった。
 2000年代初めから、外国人株主の影響力が増加したことに伴い、議決権行使助言会社(例えばISSやGlass Lewis)の重要性が高まったという事実も押さえておきたい。なぜなら、外国人株主はこれらの助言会社の提言に沿って行動する傾向が強く、その動きは今日に至るまで続いているからである。
 アクティビズムは2008年のリーマンショックで一時落ち着くことになったが、経営者は銀行の持合解消などにより安定株主比率が低下していく中で、同意なき買収のリスクを再認識させられた。
 ところで、2000年代のもう一つの特徴として大型M&Aの本格化を挙げたい。第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の経営統合(みずほHD設立)、日本鋼管と川崎製鉄の経営統合(JFEHD設立)、山之内製薬と藤沢薬品工業の合併(現アステラス製薬)、三越と伊勢丹の経営統合(三越伊勢丹HD設立)などが例として挙げられる。アクティビズムの影響も無視できず、例えば村上ファンドの動きが阪神電気鉄道と阪急HDの経営統合(阪急阪神HD設立)につながり、スティール・パートナーズの同意なきTOBが、ホワイトナイトとしての日清食品による明星食品の完全子会社化を引き起こした。
 この時代の日経平均株価は、ITバブルによる2万円超えの後7,000円台を2度つけにいった。2003年りそな銀行への公的資金注入前と2008年のリーマンショックのいずれも金融不安の際である。このような動きの中で上場企業は財務健全化と収益力強化を追求し、また思い切った経営統合にも踏み切った。加えて、アクティビズムの波が高まる中、多くの企業が視界不良の混とんとした10年を経験した。

4. 2010年代以降の振り返り

 2012年12月に始まる第二次安倍政権以降、様々な動きが加速している。注目すべきは、2014年の伊藤レポートである。ROE8%で有名になったが、その最大のポイントは、上場企業と投資家が対話(エンゲージメント)を深め、価値を協創することにあった。
 これを具体化するため、2014年にスチュワードシップ・コード(SSコード)、2015年にコーポレートガバナンス・コード(CGコード)が制定され、市場参加者の行動規範が明文化された。更に2017年の伊藤レポート2.0および価値協創ガイダンスは、上場企業と投資家が価値を協創する際の対話ガイドラインを示した。
 アクティビストにとってもこの流れは追い風となった。かつてリーマンショック前は、株主還元など財務的アプローチが主題だったが、現在は事業的アプローチも含む建設的な提案を行うアクティビストが増加している。その結果、二つの変化が起きたと考えている。
 一つは、経営陣がアクティビストからの建設的な提案を実際に取り入れるケースが出てきたことであり、オリンパス(2019年)やJSR(2021年)での社外取締役の導入が代表例だ。もう一つは、機関投資家がアクティビストの提言に賛同するケースが増えていることである。パッシブ運用中心で、対話に十分な人員を割けない機関投資家にとっては、詳しく分析されたアクティビストのリーズナブルな主張に相乗りするのは自然な流れなのだろう。結果的にアクティビストの影響力増大につながっているのである。
 2023年3月に、東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営」に関する新たな要請が出された。対象はプライムとスタンダードの全上場企業だが、これはアクティビストたちが以前から唱えていたことと大きな共通点を持つ。事実、あるアクティビストは東証を「ベストフレンド」とまで評している。
 さらに、CGコードで政策保有株の縮減が提言されたこともあり、外国人投資家を含む機関投資家が株式市場のメインプレーヤーとなっている。今後の企業経営では、彼ら機関投資家の賛同をいかに得られるかが、一層重要視されるだろう。この点からも、伊藤レポートで求められていた「対話による協創」が、より実態を伴い始めていると言えよう。
 次にサステナビリティ(サステナ)について触れておきたい。日本でサステナが注目されたのは2017年、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG(環境・社会・ガバナンス)投資を開始してからである。これがターニングポイントであり、特に大企業はGPIFからの投資を受けるため、ESG格付けの取得や非財務情報開示の充実に努めるようになった。上場企業の行動に明らかな変化が見られたのだ。
 続いて2021年6月、CGコードの改訂で、すべての上場企業はサステナへの対応を迫られることとなった。更に、2023年3月末決算の企業から有価証券報告書におけるサステナの法定開示が開始された。また2024年3月、日本のサステナ開示基準の検討を行うサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、開示基準の公開草案を発表した。金融庁の金融審議会で議論中の第三者保証を含め、サステナ開示は今後更に洗練されていくと予想される。
 最後に、M&Aのプラクティス(習慣)が大きく変わってきていることについて述べたい。注目すべきポイントの一つは、2019年に起きた伊藤忠商事によるデサントへの同意なきTOBの成功だ。このTOBの届出書には、伊藤忠商事の並々ならぬ思いが表現されており、読後には「日本のM&A風土が変化した」との印象を強く受けた。その理由は、外部の関係者に対して、自身の立場を綿密に説明していた点、換言すれば透明性の確保にある。
 また、2023年8月にリリースされた経済産業省の「企業買収に関する行動指針」(M&A指針)は、各当事者が取るべき行動や守るべき原則を示した。M&A指針に則った初の事例として、2023年7月、ニデックがTAKISAWAに対して同意なきTOBの予告を公表。TOB価格は時価の約2倍に設定され、ニデックはシナジー効果等を詳細に説明した結果、TAKISAWA取締役会の同意を得て、最終的にTOBは成功した。
 その後、同意なきTOBとして第一生命によるベネフィット・ワン、ブラザー工業によるローランドDG、AZ-COM丸和によるC&Fロジホールディングなど、一連の動きがみられ、M&Aの一つの手法として定着してきた感がある。
 一方、買収防衛策(事前警告型/平時導入型)については、2017年のSSコード改訂により議決権行使の個別開示が求められ、多くの機関投資家が買収防衛策導入に反対するようになった。この流れの中で、2020年1月に村上ファンドが東芝機械(現芝浦機械)に対して同意なきTOBを予告し、これが初の有事導入型買収防衛策のきっかけとなり、結果的にTOBを阻んだ。その後、有事導入型買収防衛策の実例が積み上げられており、M&A指針でも株主意思の尊重など、一定の条件を満たす場合は有事導入型買収防衛策の効用を認める趣旨の整理がなされている。
 こうやってみると、今の時代は経営者が非財務情報を含めた開示を通じて、株主との対話を深めることがますます重要となっている。そのためにも開示内容をしっかりと詰め、株主や投資家(潜在株主)の支持を得られることが求められている。

5. おわりに

 バブル崩壊後から現在までの大きな流れを辿ってきた。30年以上に及ぶ歴史の中で、どのトピックスを扱うべきか非常に悩んだ。しかし、上場企業の経営者や経営企画の方たちが、押さえておくべき基本知識として必要なものを選んだつもりだ。 ただ、紙面の制約上、各テーマは概要的な言及にとどめている。今後の機会があれば、あるテーマに焦点を当て、より深掘りをした上で、独自の見解を展開していきたいと考えている。

筆者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
経営コンサルティング事業本部
専任部長
石野 猛士(いしの たけし)

1990年3月慶応義塾大学商学部卒業後、野村證券にて主に投資銀行業務に従事。大手上場企業の資本政策(資金調達や株主還元等)・M&A・事業再生の他、非上場企業のIPO・事業承継、金融公共法人の資金調達・民営化IPOなどを支援。
2019年8月独立起業し、同族企業向けコンサルティングに従事。
2020年9月山田コンサルティンググループ入社。上場企業を中心に東証の資本コスト経営・アクティビズム・サステナビリティ経営(開示含む)・事業ポートフォリオ管理・役員報酬・M&A・中期経営計画などのテーマをカバー。「CFOの片腕」をコンセプトにCEOやCFOに必要とされる存在を目指して役務を提供中。

資本コストや株価を意識した経営

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