コラム
公開日:2024/10/21
テーマ: 02.M&A 04.コーポレート・ガバナンス 10.持続的成長
同意なき買収から学ぶ企業価値向上の重要性
目次
資本コスト経営とは?
2023年3月の東京証券取引所(東証)の要請により、上場企業は資本収益性や資本コストを意識し、株価を向上させる経営を求められています。企業が業績だけでなく、株価や企業価値の向上にも努める経営手法で「資本コスト経営」といいます。この要請により、上場企業が取り組むべき課題として資本コスト経営が認識され、徐々に浸透してきています。
同意なき買収とは?
買収対象企業の経営陣の同意を得ずに、株主から直接株式を買い取ることで企業を買収することを「同意なき買収」といいます。以前は「敵対的買収」と呼ばれていましたが、近年、名称が変更されました。これは、買収される会社の取締役会にとっては敵対的であっても、株主や会社そのものにとっては利益がある場合があるためです。最近の事例として、セブン&アイ・ホールディングスやTAKISAWAの事例などが挙げられます。
資本コスト経営を徹底することで、企業は同意なき買収を受けるリスクを低減することができます。
同意なき買収の背景と増加の要因
同意なき買収が増加している背景には、2022年4月の東証の資本市場改革や経済産業省が2023年8月に出した企業買収における行動指針(買収指針)の影響があります。この指針は、上場企業の経営権支配をめぐる買収におけるベストプラクティスや原則を示しており、法律ではないですが、ソフトローとして実務に大きな影響を与えています。
買収指針には、以下の3つの原則が示されています:
- 企業価値・株主共同の利益の原則: 買収提案を受けたら、企業価値向上に資するか、株主共同の利益を確保できるかという観点で判断する。
- 株主意思の原則: 最終的な買収の是非は株主の合理的な意思による。
- 透明性の原則: 株主に対して適切な情報開示を行い、株主が判断できるようにする。
これらの原則に基づき、上場企業は買収提案を受けた際に適切に対応することが求められています。
同意なき買収の類型
同意なき買収には、単独提案型と対抗提案型の2つの類型があります。
単独提案型
単独提案型は、突然買収提案が来るもので、買収を受けた側はそれを受け入れるか断るかを検討します。代表的な事例として、ニデックによるTAKISAWAの買収や、AZ-COM丸和ホールディングスによるC&Fロジホールディングスの買収があります。
対抗提案型
対抗提案型は、上場企業が買収を発表した後に、他の企業がより高い価格で買収を提案するものです。代表的な事例として、ニトリによる島忠の買収があります。本コラムでは、単独提案型の事例を中心に解説します。
同意なき買収の対象となる会社の特徴
同意なき買収の対象となる会社には以下の特徴があります
- 株価が割安: 資本収益性が低く、持っている資産に対して割安な会社。
- 低成長・低位安定: 業績が安定しているが成長性が低い会社。
- 安定株主が不在: 政策保有株の削減により安定株主が少ない会社。
これらの特徴を持つ会社は、同意なき買収の対象になりやすいです。
買収提案を受けた際の対応
買収提案を受けた際には、以下のステップで対応します:
フェーズ 01
- 真摯な提案か否かの検討: 提案内容、買収者の買収実績や資金調達の状況を確認し、真摯な提案かどうかを判断する。
フェーズ 02
- 買収指針に基づいた検討: 買収提案を受け入れるか、他の提案を探すか、現経営陣で続投するかを検討する
買収提案を断る際には、定量的な根拠を持って断る必要があります。例えば、提案価格より現経営陣で経営した方が、高い株価を目指せるという事を定量的に示す必要があります。
事例解説
事例: ニデックによるTAKISAWAの買収
買収の背景
TAKISAWAは中堅工作機械のメーカーであり業績は伸び悩んでいました。特に、PBR(株価純資産倍率)が0.45と低い水準にあり、株価が割安と評価されていました。ニデックはこの状況を見て、TAKISAWAの買収を提案しました。
買収の経緯
最初の提案は増資による資本参加でしたが、TAKISAWAの経営陣はこれを謝絶。しかし、ニデックは諦めず、今度は全株取得の買収提案を行いました。最終的にTAKISAWAの経営陣はこの提案を受け入れ、買収が成立しました。
買収後の影響
買収後、ニデックはTAKISAWAの生産性向上に取り組み、業績を改善させました。これにより、会社と株主双方にメリットをもたらしました。
事例: C&Fロジホールディングスの買収
買収の背景
C&Fロジホールディングスは冷凍冷蔵輸送に強みを持つ会社でしたが、こちらも業績が伸び悩んでいました。このため、株価も高いとは言えない水準でした。
買収の経緯
そのような中で、AZ-COM丸和ホールディングスから買収提案を受けました。C&Fロジホールディングスの経営陣はこれに対して慎重な姿勢を示しました。その後、他の会社からも対抗提案を受け、その中の1社のSGホールディングスがホワイトナイトとしてより高い価格で買収提案を行いました。最終的に、SGホールディングスの提案が受け入れられ、買収が成立しました。
同意なき買収の考察
同意なき買収は、株主や事業にとって必ずしも悪いものではありません。例えば、TAKISAWAの事例では、買収後に生産性が向上し、株主にとっても高い価格で株を売却できるというメリットがありました。ただし、上場会社の資本政策はより自律的に決めるべきだとも言えます。そういった意味では選択肢が限定される同意なき買収のような、有事になる事は避けた方が好ましいと思われます。
まとめ
上場企業は、常日頃から業績だけでなく、企業価値向上策に取り組む必要があります。有事になってからでは選択肢が限られるため、平時から資本政策を検討し、実行することが重要です。
山田コンサルティンググループ株式会社
公認会計士 資本戦略事業本部 FAS事業部
部長
根本 直拓
大学在学中に公認会計士試験合格、その後、山田コンサルティンググループへ入社。上場会社のM&A、公開買付け、資本業務提携等のアドバイザリー業務に従事。途中、大手証券会社の投資銀行部門への出向経験あり。
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