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コラム

更新日:2026/01/07

テーマ: 10.持続的成長 11.事業再生

中堅中小企業の経営論点  鉄鋼・非鉄業界 第7回:縮む市場、事業再生と意思決定

本コラムは日刊工業新聞の連載「中堅・中小 鉄鋼非鉄経営の最前線」に掲載された39「事業再生と意思決定」(2024年8月29日)及び、56「縮む市場との向き合い方」 (2025年6月19日)に加筆したものです。

目次

Key Point

・鉄鋼・非鉄業界も規模拡大を前提に普段のコスト改善で利益を稼ぐモデルは終焉。売上至上主義を脱却し一度縮む勇気も重要である。
・但し、中堅中小企業は分かっていても判断できないこともある。オーナー企業特性や地域の中核企業であることが変化を阻むジレンマにもなりうる。
・事業再生において、自主再建できない場合は債権者や株主、顧客や仕入先にまで影響が及ぶ。窮境に陥ったあとは選択肢もなくなる。成行損益に向き合い、早期に手を打つべき。
・事業再生のリーダーシップは中間層にも宿る。経営トップでさえ疲弊し若手や優秀な社員が離職する局面でも、役職や組織を超えた連結環になり「しんがり」となって行動する社員も存在する。

縮む市場、現実と向き合えるか

 2024年6月、マレリホールディングス(HD)が米国チャプター11(日本の民事再生法に相当)に基づく再建手続きを申請したと発表した。直前までインド同業をスポンサーとする私的整理を目指していたが、全債権者の同意が得られず協議が難航していた。
 凡そ1年後の2025年5月13日には、日産自動車が世界で7工場の閉鎖、全従業員の15%に当たる2万人の削減などを2027年度までに行う経営再建計画「RE:NISSAN」を発表。四半世紀前、1990年代末の経営危機時に実行したリバイバルプランが頭をよぎっただろう。

 あらためて感じたことは「事業再生は容易ではない」ということだ。自主再建できない場合は債権者や株主、顧客や仕入先にまで影響が及ぶ。窮境に陥る前にいかに早期に手を打つべきか。他山の石として考えていきたい。

 鉄鋼・非鉄業界はかつて規模を求める姿勢が強かった。中堅・中小企業でも取り扱い重量やシェアなどを最優先指標に置き、不断のコスト改善で利益を積み上げてきた企業は少なくない。しかし高炉メーカーなど装置産業においては縮小均衡、量から質にかじを切った。鉄鋼商社やコイルセンターにも数量を求める動きは後退したと感じる。

 我々は今、現実と向き合う必要がある。主要鉄鋼用途においては漸減的な国内需要減。物価上昇など急激なコストプッシュも続いた。価格はコントロールできないものという意識のもと、業界横並びで価格転嫁に及び腰な姿勢は改めねばならない。売上総利益率自体が年々低下する中、賃金上昇や老朽化設備の維持費用など固定費は増加の一途なのだ。

 トランプ関税など想定外もあるが構造的な課題は変わらない。売上至上主義を脱却し、「このままいったらどうなるか」――成行損益に向き合うことが、窮境にならない最初のステップである。
 実は経験豊富で業界でも一目置かれる経営者ほど動きが遅くなるケースがある。万能感が強いほど、過去の成功体験から抜け出せない。昨今は中堅中小の素形材企業や流通各社においても、外の企業で研さんを積んだ優秀な後継者や、オーナー一族以外の人材が局面転換を担う企業とも出会う。難しい経営環境だからこそ、事業承継を変革・飛躍するチャンスと捉えたい。

 先日、橋梁ファブリケーターの方とお話しする機会があった。日本は地形的制約から多くの場所で橋梁が必要とされ、耐震性など世界屈指の技術力も求められる。しかし日本橋梁建設協会(東京都港区)によると、新設橋梁の受注実績は30年前の約90万トンをピークに足元は10万トン台まで減少している。
 一方で、橋梁ファブリケーターの企業数は受注実績ほど減っていないようだ。海外市場、エンジニアリング事業強化、デジタル化など成長戦略も重要だが、まずは各社が成行損益と向き合い、縮小する市場で日本が誇る技術力をいかに残すかが肝になる。各業界とも業界単位で考え導く、リーダーの登場を期待したい。

窮境要因の特定が必須

 コンサルタントという仕事柄、顧客企業の歴史を必ず学ぶ。長い歴史を持つ企業でも成長と再生を繰り返している。
 あるオーナー経営者は「自分だけは最後まで逃げられない」と覚悟を決めていた。中堅・中小企業の多くは、所有と経営が分離していない「オーナー企業」でもある。これは中堅・中小の事業再生において重要な論点の一つだ。
 意思決定場面で特に難しい判断が求められる。個人保証問題や家業の歴史を一身に背負うだけではない。昨今、注目される中堅企業のオーナー社長は地元の名士でもあることが少なくない。経営者本人が企業の顔である場合、安易に経営者責任を取って身を退けない例も多い。

 米ハーバード大学のロバート・キーガン教授は著書『なぜ人と組織は変われないのか』で、人は変革の場面において、必要だと思っても行動できない心理的なジレンマの深層や心の免疫を指摘している。事業再生実務では債権者から返済条件変更や債権放棄などの支援を得ていくために経済合理性も無視できないが、経営者も人だ。関係者は人に向き合い寄り添う姿勢が求められる。

 事業撤退はタイミングも重要になる。数年前、ある鋳鍛鋼メーカーの自主廃業があった。世界的に電源構成が変化し、プラント関連部材の競争力が低下。売上高もピーク時から半減し、大幅な赤字の末に債務超過に陥った。その後、早い事業撤退判断と統率力の下、従業員の再雇用先支援や保守業務の移管など丁寧な解散手続きが踏まれた。この後も鋳鍛鋼業界では撤退や合従連衡が相次いだが、やはり意思決定は選択肢が残っているうちが望ましいと考える。

 事業再生プロセスでは、過剰債務や資金繰り難に陥った「窮境要因の特定」を必ず実施する。金属加工業などでは昨今、成長戦略だったはずの電動自動車(EV)や半導体関連製品向け投資が裏目に出た例も多い。
 窮境の真因は内部にもある。成長の足がかりを失う気持ちも十分理解できるが、一度縮む勇気も必要である。丼勘定の原価計算や投資採算、不十分な経営管理を抱えたまま投資や開発競争に臨むのは泥沼だ。2020年代以降、コロナ禍や半導体不足、エネルギー高騰や人材不足への防衛的な賃上げ、金利のある世界への回帰も進んでいる。筋肉質な経営基盤を構築することは不可欠である。

 事業再生のリーダーシップは中間層にも宿る。経営トップでさえ疲弊し若手や優秀な社員が離職する局面でも、役職や組織を超えた連結環になり「しんがり」となって行動する社員は必ずいる。筆者のチームは事業再生後の再成長まで支援することを得意とし、危機を乗り越えた中間層が経営幹部になり、語り継ぐ企業は強いと断言する。経営者はふさぎこまずに、周囲を頼ってほしい。
 言うは易し行うは難しであるが、今も厳しい意思決定が続く事業再生途上にある経営者と組織にあらためてエールを送りたい。

山田コンサルティンググループ株式会社
経営コンサルティング事業本部
部長
横地 綾人(よこち あやと)

大手鉄鋼メーカーにて、製鉄所管理や本社販売計画等に携わる。山田コンサルに参画後は、事業戦略やM&Aを含む事業再編を数多く立案し、その後の実行まで伴走するスタイルを得意とする。
専門領域は鉄鋼・非鉄など素材業界だが、金属加工など中堅中小企業の実績も数多く持ち、日刊工業新聞など業界専門誌での連載も担当している。

中堅中小企業の経営論点  鉄鋼・非鉄業界 第6回:営業力と購買力

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