コラム
更新日:2025/04/16
テーマ: 02.M&A
IT M&Aの成功事例と業界動向を徹底解説!

変革が起き続けるIT業界は、技術動向・環境変化に追いつくためM&Aが盛んな業界の一つです。
本記事ではIT業界におけるM&Aの背景やトレンド、リスクおよび成功事例を紹介します。
目次
IT M&Aの基本情報
IT業界はコンピュータや情報通信技術を扱う企業の総称で、通信・放送・コンテンツ制作、システム開発、パッケージソフト開発、インターネットサービスなどが含まれます。近年のデジタル化に伴い、IT企業を対象とするM&Aが急増し、業界内だけでなく異業種との連携も増えています。本記事では、IT業界のニュースや事例、M&Aの最新動向をご紹介します。
最新のIT業界M&Aトレンド
近年のIT業界におけるM&A活動は、技術革新とデジタルトランスフォーメーションの加速により活発化しています。2023年のグローバルIT業界のM&A取引総額は約3000億ドルに達し、前年同期比で15%増加しました(出典: PwC M&A Insights 2023)。特にクラウドコンピューティング、AI、サイバーセキュリティ、エッジコンピューティングの分野での取引が顕著です。
具体的には、以下のようなM&Aがありました。
・セールスフォースによるslackの買収
企業向けクラウドサービスを展開するSalesforceは、ビジネスコミュニケーションツールとして普及していたSlackを買収し、顧客基盤の拡大が見込まれます。
・OracleによるCerner Corporationの買収
Oracleは医療情報システム分野の大手であるCerner Corporationを買収し、Oracleのクラウド基盤を医療分野への拡大が見込まれます。
・AdobeによるFrame.ioの買収
2021年、クラウドベースのビデオ制作・レビュー・コラボレーションプラットフォームFrame.ioを買収し、Adobeの提供範囲の拡大が見込まれます。
IT業界がM&Aを行う理由
IT業界でM&Aが行われる理由は、譲渡側と譲受側でそれぞれ異なります。
譲渡側の理由
○大手企業の傘下で事業をより拡大させたい
買い手となる大手企業のブランド力や資本力、販売チャネルを活用することで、自社のサービスや技術を拡大・深化できる可能性があります。
○事業売却をして別の事業に投資したい
既存事業を売却することで得られる資金を、より成長が見込める分野や新たなビジネスチャンスへ再投資し、事業ポートフォリオの最適化を図ることが見込まれます。
譲受側の理由
○エンジニアを獲得したい
IT業界の競争力を支える優秀なエンジニアを、M&Aを通じて迅速に確保し、自社の開発力・技術力を強化することが見込まれます。
○新規事業に参入したい
現在の事業領域とは異なる分野へ短期間で進出し、革新的なサービスやプロダクトを得ることで、事業ポートフォリオの拡充が見込まれます。
〇システム等の開発を内製化したい
外注や協業ではなく、買収先が持つ開発チームや技術を社内に取り込むことで、質の確保や開発速度の向上が見込まれます。
IT企業のM&Aに伴うリスク
【譲渡側のリスク】
○ブランド価値低下のリスク
買い手が方針やブランディングを大幅に変えた場合、譲渡企業が持っていたブランド価値が損なわれる可能性があります。
○既存顧客との関係悪化リスク
M&A後のサービス内容やサポート体制が変化することで、既存顧客が離反する恐れがあります。
○機密情報の流出リスク
デューデリジェンスの過程で機密情報を開示する必要があるため、情報漏えいにより競合優位性が損なわれる可能性があります。
【譲受側のリスク】
○企業文化・組織統合リスク
異なる企業文化や組織体制を統合できず、社員のモチベーションや生産性が低下し、従業員が退職してしまうなど、見込んでいたシナジーが得られない可能性があります。
○技術資産・知的財産の評価リスク
ソフトウェアや特許などの価値を正確に評価できず、過大・過小評価してしまうにつながる恐れがあります。
○サービス・プロダクト統合リスク
自社システムとの連携やブランドイメージの統合が上手くいかず、顧客に混乱を招く恐れがあります。
成功したIT M&A事例の紹介
セールスフォースによるslackの買収
2021年7月、セールスフォースはSlackを買収しました。Slackは、企業やチーム向けに設計されたクラウドベースのコミュニケーションプラットフォームです。Slackの買収により、ソフトウェア業界で最もダイナミックな2つのコミュニティが集結し、広い範囲で両者がそれぞれの業務やサービスを補う体制が整い、次世代のデジタルファーストなアプリケーションやワークフローをビジネスに提供することが期待されています。
出典: セールスフォースプレスリリース(2021/7/21)
メルカリによるザワットの買収
2017年2月、メルカリは「スマオク」を運営しているザワットを買収しました。「スマオク」は個人・法人を問わず、世界中に商品を販売できるマーケットプレイスです。また毎日21時に世界中からユーザーが集まり、LIVE感覚で100%商品に値段がついて売れる「フラッシュオークション」が人気のサービスです。ザワットの買収によって、両社それぞれの顧客基盤やノウハウを活かし、メルカリ及びスマオクの更なる発展と新しいサービスの創造が期待されています。
出典: メルカリプレスリリース (2017/2/20)
https://about.mercari.com/press/news/articles/20170220_zawatt/
NTTデータによるEverisの買収
2013年10月、NTTデータはスペインのITコンサルティング企業Everisを買収しました。買収額は非公表となっています。母語人口で世界3位のスペイン語や同6位のポルトガル語に対応した情報システム構築に強みを持ち、主にスペインや中南米6カ国において大手銀行、大手保険会社、大手通信事業者、政府機関等を主要顧客としているEverisを買収することによって、カバーしきれていなかった欧州や中南米での事業基盤を固めることが期待されています。
出典: NTTデータプレスリリース (2014/1/29)
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2014/012900/
エレコムによるgroxiの買収
2023年5月、エレコムは岩崎通信機グループのgroxiを買収しました。買収額は非公表となっています。groxiは、主にネットワークの設計・構築・保守・運用に関するサービスを提供しています。また、エレコムはネットワーク関連機器を開発・販売しています。今回の買収で、ネットワーク関連分野においてシナジー効果を発揮し、ハードとソフトの両面から最適なトータルソリューションを全国においてワンストップで提供できる企業グループとなることで、付加価値の高いサービスを提供することが期待されています。
出典: エレコムプレスリリース(2023/5/23)
https://www.elecom.co.jp/news/release/20230523-01/
マイクロソフトによるNuance Communicationsの買収
2021年4月、マイクロソフトがNuance Communicationsをおよそ197億ドルで買収しました。Nuanceは、対話型 AI とクラウドをベースとした、ヘルスケアプロバイダー向け医療インテリジェンスのパイオニアであり、大手プロバイダーとなっています。Nuance の専門知識と EHRシステムプロバイダーとの関係の活用によって、アンビエント医療インテリジェンスと他のマイクロソフトのクラウドサービスを組み合わせ、ヘルスケアプロバイダーへの支援を向上することが期待されています。
出典:マイクロソフトプレスリリース(2021/4/13)
https://news.microsoft.com/ja-jp/2021/04/13/210413-microsoft-accelerates-industry-cloud-strategy-for-healthcare-with-the-acquisition-of-nuance/
パナソニックによるBlue Yonderの買収
2021年4月、パナソニック株式会社はサプライチェーンソフトウェア企業Blue Yonderを約70億ドルで買収しました。Blue Yonderはグローバル大手企業を中心に3000社超の顧客基盤を通じて蓄積してきた実績と革新的なソリューションの提供で高い評価を得ている企業です。パナソニックが推進しているデジタルトランスフォーメーション(DX)を進化させ、サプライチェーンマネジメント(SCM)分野において、顧客の経営課題を解決するとともに、エネルギーの削減、資源の有効活用を通じて、地球環境の保全や持続可能な社会の実現が期待されています。
出典: パナソニックプレスリリース(2021/9/17)
https://news.panasonic.com/jp/press/jn210917-2
DeNAによるアルムの買収
2022年5月、DeNAはアルムを買収しました。アルムは高度な人工知能解析、ビッグデータ処理、並びにクラウド基盤を駆使した柔軟なソリューション開発で高い評価を得ている企業です。今回の統合によりDeNAのスマートフォン向けゲーム、eコマース、ヘルスケア、フィンテックなど、幅広いサービス分野との融合が促進されると期待されています。また、両社の技術やノウハウを相互補完することで、開発スピードの向上やコスト効率の改善、さらには顧客満足度の高いサービス提供を実現するシナジー効果が見込まれ、将来的な新市場開拓や競争力強化が期待されています。
出典: DeNAプレスリリース(2022/5/25)
https://dena.com/jp/news/4862/
NECによるAvaloqの買収
2020年12月、Avaloq社は金融機関向けソフトウェア事業をグローバルに展開し、金融資産管理向けソフトウェアでは欧州・アジア太平洋地域でトップクラスのシェアを持ちます。Avaloq社の強みは強固な顧客基盤、デジタルファイナンスプラットフォーム、データ分析ソリューションであり、これらによって金融資産管理における優位性や実績があります。そしてNECの強みであるAI、ブロックチェーン、生体認証などの最先端技術によるシナジーを発揮することを目標に先進的なソリューション提供と世界展開を目指しています。
出典: NECプレスリリース(2020/12/23)
https://jpn.nec.com/press/202012/20201223_01.html
富士通による古河インフォメーション・テクノロジーの買収
2017年5月、富士通は古河電工グループ傘下の古河インフォメーション・テクノロジー(FITEC)を買収しました。FITECは、古河電工グループ全体のICT戦略を牽引し、コンサルティング、設計、開発、保守、運用、システム改善といった、ICTライフサイクル支援を行っています。この買収により、富士通は古河電工との連携を一層強固なものとし、同グループのITシステムを統合的にサポートする体制を整えました。そして、古河電工の現場におけるITスキルや業務ノウハウを吸収することで、富士通の製造業向けソリューションのさらなる強化が期待されています。
出典:富士通プレスリリース(2017/5/9)
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/05/9-1.html
日立製作所によるGlobalLogicの買収
2021年3月、日立製作所はデジタルエンジニアリング企業GlobalLogicを約96億ドルで買収しました。GlobalLogicは、ソフトウェア開発やデジタルエンジニアリングの専門知識を持ち、日立の社会イノベーション事業を支援する重要な役割を果たしています。
GlobalLogicの多様な業界における経験と日立の幅広い技術力を組み合わせることで、製造業、医療、金融、エネルギーなど多岐にわたる業界に対してカスタマイズされたDXソリューションを提供することが期待されています。
出典: 日立製作所プレスリリース(2021/7/14)
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/07/f_0714.pdf
IT M&Aを成功に導くためのポイント
1.明確な戦略と目標設定
M&Aの目的や目標を明確にし、M&A担当者だけでなく経営陣と共有することで、統合後の方向性が不明確になることを防ぎます。
2.徹底したデューデリジェンス
財務、法務、技術、知的財産、労務などの詳細な調査を行うことで、M&Aを進める上でのトラブルの原因となることを避けられます。
3.文化の融合
組織文化の違いを理解し、統合計画に反映させることで、文化の違いを無視して従業員のモチベーションが低下することを防ぎます。経営陣から従業員まで、全てのステークホルダーに対して透明性のある情報共有を行うことで、情報不足や誤解が生じて統合プロセスが混乱することを防ぎます。
4.システムとプロセスの統合
ITシステムや業務プロセスの統合計画を策定し、段階的に実行することで、システムの不整合やプロセスの混乱を避けることができます。
5.リスク管理
法的リスク、財務リスク、運営リスクなどを事前に特定し、対策を講じることで、リスクを見逃して統合後に重大な問題が発生することを防ぎます。
これらのポイントを押さえることで、IT M&Aの成功確率を高めることができるでしょう。
IT M&Aの進め方
1. 戦略立案
M&Aの目的や戦略を明確にし、目標設定やターゲット企業の選定基準の策定をします。どの市場で競争力を強化したいのか、どの技術を取り入れたいのかを明確にし、経営陣と共有します。
2. ターゲット企業の選定
M&Aの対象となる企業をリストアップし、市場調査や企業の財務状況、技術力の評価をします。ターゲット企業の市場シェア、成長性、財務健全性、技術力、顧客基盤などを詳細に分析します。
3. デューデリジェンス
ターゲット企業の財務、法務、技術、知的財産、労務などの調査を行います。例えば財務諸表の分析、契約書の確認、技術評価、知的財産権の状況確認、従業員の雇用条件や労働環境の調査などが挙げられます。
4. 交渉と契約
買収条件の交渉と契約書の作成を行います。その際には、価格交渉や契約条件の明確化、法的リスクの確認に注意が必要です。具体的には、買収価格の決定、支払い条件の設定、契約条項の詳細な確認、法的リスクの評価と対策を行います。
5. 統合計画の策定
買収後の統合計画を策定します。組織統合、システム統合、文化の融合を考慮することが重要であり、具体的には、組織構造の再編、ITシステムの統合計画、従業員の役割と責任の再設定、企業文化の融合策を策定します。
6. 統合実行
統合計画に基づいて実際の統合を行います。具体的には、統合プロジェクトの進捗管理、従業員への教育とサポート、ITシステムの移行とテストなどを行います。
IT M&Aに潜む法的リスク
■独占禁止法違反のリスク
大規模なM&Aは市場の競争を制限する可能性があり、独占禁止法に抵触することがあります。
事前に公正取引委員会などの競争当局に申請し、承認を得ることが重要です。
関連法規: 日本では「独占禁止法」、米国では「シャーマン法」や「クレイトン法」など。
■知的財産権の問題
買収対象企業の特許や商標、著作権などの知的財産権が適切に保護されていない場合、買収後に法的トラブルになる可能性があります。
デューデリジェンスを通じて知的財産権の状況を詳細に確認し、必要に応じて契約で保護策を講じることが重要です。
関連法規: 「特許法」、「商標法」、「著作権法」など。
■データ保護とプライバシーのリスク
個人情報や機密データの取り扱いが適切でない場合、法的な問題が発生する可能性があります。
データ保護規制に準拠したデータ管理体制を整備し、買収後も継続して遵守することが必要です。
関連法規: 「個人情報保護法」、EUの「GDPR」など。
■労働法関連のリスク
買収に伴う従業員の雇用条件変更や解雇が労働法に違反する可能性があります。
労働契約や労働条件を事前に確認し、法的に適切な手続きを踏むことが重要です。
関連法規: 「労働基準法」、「労働契約法」など。
法的リスクについてより詳細なことについては、弁護士にご相談ください。
IT M&Aの今後のトレンド
クラウドコンピューティングのさらなる拡大: クラウドサービスの需要は引き続き増加し、企業はクラウドインフラの強化を目指してM&Aを積極的に行うと予測されています。Gartnerによると、2026年までにクラウドサービス市場は年間成長率16.5%で拡大し、約6000億ドルに達すると予測されています。
出典: Gartner Press Release, 2024
AIと機械学習の進化: AI技術の進化に伴い、企業は高度な分析能力や自動化機能を取り入れるためにAIスタートアップの買収を続けるでしょう。McKinseyのレポートによると、2030年までにAI技術の導入により、世界のGDPが最大13兆ドル増加すると予測されています。
出典: McKinsey Global Institute, 2023
サイバーセキュリティの重要性: サイバー攻撃の増加に伴い、企業はセキュリティ対策を強化するためにサイバーセキュリティ企業の買収を続けるでしょう。MarketsandMarketsによると、2027年までにサイバーセキュリティ市場は年平均成長率11.5%で拡大し、約4000億ドルに達すると予測されています。
出典: MarketsandMarkets Report, 2024
エッジコンピューティングの普及: IoTデバイスの増加により、エッジコンピューティング技術の需要が高まり、関連企業の買収が増加すると予測されています。Grand View Researchによると、2028年までにエッジコンピューティング市場は年平均成長率35.4%で拡大し、約500億ドルに達すると予測されています。
出典: Grand View Research Report, 2024
まとめ
2025年現在、新技術の台頭や他業界からのニーズの高まりによって、IT業界におけるM&A件数は年々増加傾向にあります。
今後も、多くのIT企業がM&Aによって革新的な技術の活用、エンジニアなどの人材確保、更なる事業拡大を行っていくことが見込まれます。
一方で昨今、M&Aによるトラブルやリスクも増加しており、メリットとデメリットそれぞれ両面を理解した上で交渉を進めていく必要があります。
M&Aに関してお困りの方や、買収・売却を検討されている方はぜひ弊社にお問い合わせください。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室
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