コラム
公開日:2025/01/20
テーマ: 02.M&A
中小企業がM&Aを成立させるまでの流れや注意点・補助金について

中小企業がM&Aをする際によく用いられる手法や相手先の探し方、成功のポイントを紹介します。
社内にM&Aのノウハウがない場合、専門家へ相談することをおすすめします。
目次
中小企業におけるM&Aのポイント
中小企業によるM&Aの特徴としては、社長の個人資産との切り分けや買手企業探しの難しさが挙げられます。ここでは、中小企業がM&Aを活用するにあたって押さえておきたい、手続きの流れやアドバイザー選択のポイントなどを解説しています。 日本の人口は30年後には今より20%ほど少なくなることが推計され、国内人口の減少は、国内市場の縮小につながります。ところが、国内市場に依存している中小企業であるほど、将来の展望が描けていないのが現状です。この大きな経営課題の解決策の一つがM&Aによる事業承継です。 M&Aによって事業を存続させ、スポンサーの経営資源を利用することでさらなる成長を遂げることができれば、従業員にも取引先にもメリットがあります。また、経営者にとっても、個人保証から解放され、引退後の生活資金を得ることができる点が大きな魅力でしょう。 M&Aを検討するにあたっては、本当にM&Aという選択でいいのか、ほかに手段はないのかを十分に検討するプロセスが重要になります。その際に、中立的なアドバイスを受けることができる専門会社に相談することが望ましいでしょう。並行して、利害関係者の把握・調整、議決権の確保、売却価格の検討、協力者の選定も事前準備では欠かせません。 アドバイザー選定後のM&Aの流れは、買手候補へのアプローチ、秘密保持契約、詳細情報の公開、基本合意、デューデリジェンス(詳細調査)、条件交渉、最終契約、そして、代金の受け渡しで完了となります。ただし、事業の引き継ぎや実質的な経営はそこからスタートするため、M&A契約成立後の動きこそが、M&Aの成否の分かれ目であり、PMIと呼ばれる統合作業こそがM&Aの総仕上げです。
中小企業がM&Aを成立させるまでの流れ
まず、M&Aの目的や目標を明確にし、社内での合意を得ます。次に、M&Aアドバイザーや専門家を選定し、具体的な計画を立てます。適切な買い手または売り手を見つけるために、企業価値の評価を行い、候補企業をリストアップします。その後、秘密保持契約を締結し、詳細な情報を交換します。次に、デューデリジェンス(企業調査)を実施し、財務状況や法務リスクを確認します。これに基づいて、具体的な条件を交渉し、基本合意書を作成します。最終的な契約条件を詰め、最終契約書を締結します。最後に、クロージング(取引完了)を行い、必要な手続きを経てM&Aが成立します。
中小企業のM&Aで用いる手法は大きく5つ
中小企業がM&Aで売却する際に、主に用いられる5つの手法について説明します。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手企業の株主が保有する株式を買い手に譲渡することで、経営権を移転する手法です。株式譲渡により、買い手は売り手企業の経営権を取得し、事業全体を引き継ぐことができます。この手法のメリットは、手続きが比較的簡単であり、売り手企業の事業や資産、負債をそのまま引き継ぐことができる点です。また、従業員や取引先との契約も基本的にそのまま継続されるため、事業の継続性が保たれます。しかし、デメリットとしては、売り手企業の負債やリスクも一緒に引き継ぐことになるため、買い手にとってはリスクが高まる可能性があります。また、株主間での合意が必要であり、全株主の同意を得ることが難しい場合もあります。株式譲渡は、売り手企業の経営権をスムーズに移転するための有効な手法ですが、事前のデューデリジェンスをしっかり行い、リスクを把握することが重要です。
事業譲渡
事業譲渡は、売り手企業が特定の事業や資産を買い手に譲渡する手法です。株式譲渡とは異なり、企業全体ではなく、特定の事業や資産のみを対象とするため、買い手は必要な部分だけを取得することができます。この手法のメリットは、買い手が不要な負債やリスクを引き継ぐ必要がない点です。また、売り手企業も不要な事業を切り離すことで、経営の効率化を図ることができます。しかし、デメリットとしては、譲渡対象となる事業や資産の範囲を明確にする必要があり、手続きが複雑になることがあります。また、従業員や取引先との契約も個別に引き継ぐ必要があるため、事業の継続性が一時的に損なわれる可能性があります。事業譲渡は、特定の事業や資産を効率的に移転するための手法ですが、事前の準備と詳細な契約内容の確認が重要です。
株式交換
株式交換は、買い手企業が売り手企業の株式を取得し、その対価として自社の株式を売り手企業の株主に交付する手法です。この手法により、売り手企業は買い手企業の子会社となり、買い手企業は売り手企業の経営権を取得します。株式交換のメリットは、現金を用いずに株式を対価とするため、買い手企業の資金負担が軽減される点です。また、売り手企業の株主は買い手企業の株主となるため、売却後も企業の成長に参加することができます。しかし、デメリットとしては、買い手企業の株式価値が変動するリスクがある点や、株式交換比率の設定が難しい点があります。また、買い手企業と売り手企業の株主間での合意が必要であり、全株主の同意を得ることが難しい場合もあります。株式交換は、資金負担を抑えつつ経営権を移転するための手法ですが、株式価値の評価や株主間の合意が重要です。
株式移転
株式移転は、売り手企業の株主が保有する株式を新設会社に移転し、その対価として新設会社の株式を受け取る手法です。この手法により、売り手企業は新設会社の子会社となり、新設会社が売り手企業の経営権を取得します。株式移転のメリットは、売り手企業の株主が新設会社の株主となるため、売却後も企業の成長に参加することができる点です。また、新設会社が設立されることで、経営の効率化や事業の再編が図られることがあります。しかし、デメリットとしては、新設会社の設立手続きが必要であり、手続きが複雑になることがあります。また、新設会社の株式価値が変動するリスクがある点や、株式移転比率の設定が難しい点もあります。株式移転は、経営権を移転しつつ企業の成長に参加するための手法ですが、新設会社の設立手続きや株式価値の評価が重要です。
会社分割
会社分割は、売り手企業が特定の事業や資産を分割し、新設会社に移転する手法です。この手法により、売り手企業は新設会社の株式を取得し、新設会社が分割された事業や資産を引き継ぎます。会社分割のメリットは、特定の事業や資産を効率的に移転することができる点です。また、売り手企業は不要な事業を切り離すことで、経営の効率化を図ることができます。しかし、デメリットとしては、分割対象となる事業や資産の範囲を明確にする必要があり、手続きが複雑になることがあります。また、従業員や取引先との契約も個別に引き継ぐ必要があるため、事業の継続性が一時的に損なわれる可能性があります。会社分割は、特定の事業や資産を効率的に移転するための手法ですが、事前の準備と詳細な契約内容の確認が重要です
M&Aにおける買手企業の見つけ方は大きく2つ
中堅・中小企業がM&Aによって自社を売却しようというところまで決めたとしても、どのような企業が買収するものかイメージできないことは多い。
M&Aの買手企業候補は意外と身近にいるものなので、始めの段階ではフラットな視点から情報収集を進めていきたい。
中堅・中小企業のM&Aにおいて、買手企業の見つけ方は大きく2つある。知り合いや取引先を回って自分で探す方法と、M&Aの専門家や金融機関、顧問である会計事務所など外部機関のルートを使って探す方法だ。
いずれのルートを使って相手探しをするにしても、適切な方法で買手企業へのアプローチができなければ、却って遠回りになってしまったり、情報漏えいのリスクが高まったりするため、早いうちからM&Aの専門家へ相談することが望ましい。
外部機関を利用してM&Aを進める場合
外部機関の協力を得てM&Aの買手企業を探す方法として、自社の顧問である会計事務所・税理士事務所、金融機関(メガバンク、地銀、信金、証券等)などに相談し、そこから買手企業を探してもらう方法がある。
ただし、これらの外部機関は、M&Aに関しては得意不得意が分かれ、必ずしもM&Aを専門にする部門が対応してくれるとは限らない。
多くの場合、これらの担当者からM&A専門会社を紹介されることになる。
近年では、インターネット検索などでM&A専門会社に直接相談するというケースも多くなっている。
直接依頼すれば、関係者を不要に増やさなくて済むので、情報漏洩リスクは減少する。
また、相手先探しから手続きの進め方まで、ワンストップでサポートを受けられるので、経済的でもある。Webサイトを閲覧し情報を収集したり、M&A専門会社が開催するセミナーに参加する、実際に問合せするなどして各社のサービス内容や特長を比較検討してみるのもいいだろう。
サポートしてもらうM&A専門会社によって納得できるM&Aが出来るかが決まる事もあり、M&Aの買手探しにおいてM&A専門会社選びはとりわけ重要である。
M&A専門会社の仕事
M&A専門会社は、買手企業を探すことだけでなく、M&Aに必要な専門知識によりアドバイザーの役割を担う。
このようなM&あ専門会社とアドバイザリー契約を締結した後、M&Aを進めていくうちに弁護士による契約書の作成や税理士による税務申告など、専門家に依頼しなければならない事項が出てくる。
そのため、M&A専門会社がどこまでの業務領域をカバーしているのかについても事前に把握しておきたい。
M&Aの買手企業をリストアップ
サポートしてくれるM&A専門会社が決まったら、自身でもM&Aの買手企業のイメージを膨らませておく。
M&Aの買手を探す際の着眼点でいえば、自社の商品や原材料、技術力や開発力、顧客基盤などが挙げられる。そして、具体的な候補先をイメージすると、すぐに思い浮かぶのが同業他社ではないだろうか。
他にも、得意先や仕入先・生産者、さらに同じ顧客基盤を持つ異業種もM&Aの買手として考えられる。
まずは、幅広くM&Aの買手となりそうな候補先をリストアップした上で、徐々に条件を絞り込み、いくつかを選んで打診していくことになる。
中堅・中小企業のM&Aにおける買手探しは、地域性も十分に考慮しなければならない。
特に、地方で長年地域社会に貢献してきた企業であるほどに、悪い噂が広がることは避けたい。
会社を売却しても、現経営者はその地域で生活していくことを念頭に置いて、慎重に行動しならなければならない。
同じような理由で、同業にはなるべくM&Aの買手にしたくないと考えるオーナーも多い。
M&Aにおける買手企業との交渉方法
M&Aの買手企業との交渉方法には、買手となりそうな会社を探して1社ずつ交渉している「個別交渉方式」のほか、「オークション方式(入札方式)」も増えている。
「オークション方式」の場合、M&あ専門会社に依頼して、期限を決めてM&Aの買手となりそうな候補に手を挙げてもらい、その中から一番条件の良いM&Aの買手候補に売却することが可能となる。
ただし、一度入札を始めると個別に交渉するマッチングと違い、途中でM&Aの決定を止めることができないので、慎重に検討する必要がある。
M&Aの買手を見つけるにあたって何よりも重要なのは、現経営者が明確なビジョンを持っていることである。
どういう買手企業の候補にどういう条件で話を進めるのかを、トップが腹を決めて取り組まなければならない。
M&A専門会社の報酬
M&Aの買手と交渉がまとまったら、M&A専門会社に報酬を支払わなければならない。
M&A専門会社の報酬は、一般的には「レーマン方式」というM&A取引価格に比例して報酬額が高くなる方法が採用されている場合が多い。
しかし、取引の規模や難易度、M&A専門会社ごとの方針によって報酬の算定方法は異なってくるので、あくまで個別の契約レベルで確認しておきたい。
また、成功報酬以外にも、月額固定の報酬(リテイナーフィー)などが規定されることも多い。
中小企業M&A成功のためのポイント
中小企業がM&Aを成功させるポイントを3点紹介します。
目的を明確にする
中小企業がM&Aを成功させるためには、まず目的を明確にすることが重要です。M&Aの目的は、事業拡大や新市場への進出、技術力の強化、後継者問題の解決など多岐にわたります。目的が明確であれば、適切な買い手や売り手を見つけやすくなり、交渉もスムーズに進みます。また、目的を共有することで、社内の理解と協力を得やすくなり、M&A後の統合プロセスも円滑に進めることができます。目的を明確にすることで、M&Aの成功確率が高まります。
利害関係者を把握し、それぞれ適切に対応する
M&Aを成功させるためには、利害関係者を把握することが不可欠です。利害関係者には、従業員、取引先、株主、顧客、地域社会などが含まれます。これらの関係者の意見や要望を事前に把握し、適切な対応を行うことで、M&Aに対する抵抗を最小限に抑えることができます。また、利害関係者とのコミュニケーションを密にすることで、信頼関係を築き、M&A後の統合プロセスを円滑に進めることができます。利害関係者を把握し、適切に対応することがM&Aの成功に繋がります
専門家に相談する
中小企業がM&Aを成功させるためには、専門家に相談することが重要です。M&Aは複雑なプロセスであり、法務、財務、税務など多岐にわたる専門知識が必要です。専門家に相談することで、適切なアドバイスを受けることができ、リスクを最小限に抑えることができます。また、専門家は市場動向や適切な買い手・売り手の情報を持っているため、スムーズな交渉をサポートしてくれます。専門家の力を借りることで、M&Aの成功確率が高まり、円滑な事業承継が実現します。
中小企業M&Aの税金・補助金について
中小企業がM&Aを行う際には、税金や補助金の活用が重要なポイントとなります。まず、税金に関しては、M&Aに伴う譲渡益課税や相続税、贈与税などが発生する可能性があります。これらの税負担を軽減するために、納税猶予制度や特例措置が設けられています。例えば、事業承継税制を利用することで、一定の条件を満たせば相続税や贈与税の納税が猶予されるため、資金繰りの負担を軽減することができます。また、M&Aに伴う譲渡益に対しても、一定の条件下で税率が軽減される場合があります。
税金に関しては、専門家である税理士・公認会計士に相談しましょう。
一方、補助金については、中小企業庁や各自治体が提供する支援制度を活用することができます。これらの補助金は、M&Aに伴うコンサルティング費用やデューデリジェンス費用、事業再編にかかる費用などを支援するものです。具体的には、「事業承継・引継ぎ補助金」などがあり、これを活用することで、M&Aにかかる初期費用を抑えることができます。さらに、地域によっては独自の支援制度が設けられている場合もあるため、地元の商工会議所や事業承継支援センターに相談することが推奨されます。
これらの税制優遇や補助金を適切に活用することで、負担を軽減できます。専門家のアドバイスを受けながら、最適な支援策を選択することが重要です。
まとめ
中小企業のM&Aには様々な手法、買い手企業の探し方にも種類があります。
自社の目的に沿った手法、探し方を十分に検討して、M&Aを成功させましょう。
また、M&Aには多くの専門的知識が必要となりますので、社内にノウハウがない場合には、M&Aアドバイザーや仲介会社に相談することも検討しましょう。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室
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