コラム
公開日:2025/01/20
テーマ: 02.M&A
農業における事業承継とは?後継者不足の課題、事業承継の種類を解説

本記事では農業における事業承継のポイントを紹介します。
国内における農業の現状、後継先別のメリットデメリットを把握し、スムーズな事業承継を実現させましょう。
目次
農業における事業承継の課題とは?
農業における事業承継は、高齢化や後継者不足、法改正などの影響で多くの課題を抱えています。これらの課題を解決してスムーズに事業承継するために現状を理解し、事業承継のポイントを把握しましょう。
高齢化に伴う後継者不足
日本の農業は高齢化が進んでおり、後継者不足が深刻な問題となっています。普段仕事として自営農業に従事する人の平均年齢は69.2歳で、65歳以上の高齢者が全体の7割近くを占めています。この背景には、農業の魅力が若者に伝わりにくいことや、都市部への人口流出が影響しています。さらに、農業は労働時間が長く、収入が不安定なため、若者が農業を選択することが難しい現状があります。
これに対して、政府や自治体は若者の農業参入を支援する施策を打ち出していますが、まだ十分な効果が出ていないのが現状です。後継者不足を解消するためには、農業の魅力を向上させるとともに、働きやすい環境を整えることが求められます。また、地域コミュニティや農業団体との連携を強化し、後継者育成のための教育プログラムや研修制度を充実させることも重要です。これにより、若者が農業に興味を持ち、将来的に農業を継ぐ意欲を高めることが期待されます。

改正農地法による影響
改正農地法は、農地の利用や所有に関する規制を緩和し、農業の効率化を図ることを目的としています。この法改正は事業承継においても影響を及ぼしています。具体的には、農地の売買や賃貸が容易になる一方で、農地の集約化が進むことで小規模農家が経営を続けることが難しくなるケースもあります。また、農地の価格が上昇することで、後継者が農地を取得する際の負担が増加する可能性もあります。
これに対して、政府は農地バンク制度を導入し、農地の集約化を支援するとともに、後継者が農地を取得しやすい環境を整えています。さらに、農業法人の設立を促進し、法人化による経営の安定化を図ることも重要です。これにより、農業の事業承継が円滑に進むことが期待されます。
農業の事業承継で引き継がれるもの
農業の事業承継では、事業そのものだけでなく、有形財産や無形財産も引き継がれます。これにより、農業経営の継続性が確保されます。
事業の承継
事業の承継では、農業経営のノウハウや取引先との関係、従業員が引き継がれます。これにより、後継者はスムーズに経営を引き継ぐことができます。また、事業計画や経営戦略も重要な要素となります。これらを適切に引き継ぐことで、経営の安定化が図られます。
有形資産の承継
有形資産の承継では、農地や農機具、施設などが引き継がれます。これにより、後継者は事業継続に必要な資産を持って経営を開始することができます。また、これらの資産は経営の基盤となるため、適切な管理が求められます。
無形資産の承継
無形資産の承継では、ブランドや技術、知識などが引き継がれます。これにより、後継者は競争力を維持しながら経営を続けることができます。また、地域との信頼関係や顧客基盤も重要な要素となります。これらを適切に引き継ぐことで、経営の安定化が図られます。
農業における事業承継の種類とは?
農業における事業承継には、親族内承継、親族外承継、M&Aの3つの種類があります。それぞれの特徴とメリット・デメリットを理解することが重要です。
親族内承継
親族内承継は、親族間で事業を引き継ぐ方法です。家族経営が多い農業では一般的な方法です。
親族内承継は、事業を引き継ぐ意向のある人がいることが前提となりますが、従業員との信頼関係や経営方針が引き継ぎやすいです。
親族内承継のメリット・デメリット一覧
■メリット
- 経営者と従業員の信頼関係が既に築かれていることが多い
- ビジョンや経営方針が引き継ぎやすい
■デメリット
- 親族内に後継者候補がいない場合は不可能
- 親族間特有のトラブルが発生する可能性がある
親族外の従業員への承継
親族以外の従業員に事業を引き継ぐ方法です。
承継するにふさわしい従業員がいて、かつその従業員が引き継ぐ意思があることが前提となります。
従業員への承継のメリット・デメリット一覧
■メリット
- 社外への承継と比較して、既存事業への理解がある
- 社外への承継と比較して、承継相手を探す手間がないため手間が少ない
■デメリット
- 社内に後継者候補がいない場合は不可能
- 後継者候補が事業を引き継ぐ場合に譲渡対価として多額の資金が必要となる
M&A
M&Aは、企業の買収や合併を通じて事業を引き継ぐ方法です。社外の個人や法人に引き継ぐ場合に当てはまります。
M&Aのメリット・デメリット一覧
■メリット
- 引継ぐ企業が大きい場合、経営資源の拡充、競争力強化の可能性がある
- 親族内、社内に後継者候補がいない場合でも事業を継続し、従業員の雇用を守れる
■デメリット
- 引き継ぐ相手を探す手間がかかる
- 従業員との信頼関係を改めて築く必要がある
農業の事業承継を成功に導くポイント
事業承継を成功させるポイントとして、3点紹介します。
総じて、事前の準備や情報収集が重要といえます。
後継者の早期育成と選定
農業の事業承継を成功させるためには、後継者の早期育成と選定が重要です。後継者が農業経営に必要な知識や技術を習得するためには、長期間の準備が必要です。早い段階から後継者を見つけ、教育や研修を通じて実践的な経験を積ませることで、スムーズな事業承継が可能となります。また、後継者が経営に関与することで、現経営者との信頼関係が築かれ、経営の安定化が図られます。
経営状況の把握と計画的な準備
事業承継を成功させるためには、現状の経営状況を正確に把握し、計画的な準備を行うことが不可欠です。財務状況や資産の評価、経営課題の洗い出しを行い、後継者と共有することで、承継後の経営の見通しを立てやすくなります。また、事業承継計画を策定し、具体的なスケジュールを設定することで、段階的に準備を進めることができます。これにより、突発的な問題に対処しやすくなり、円滑な事業承継が実現します。
補助金や税制優遇制度の活用
事業承継には多額の費用がかかることが多いため、補助金や税制優遇制度を活用することが重要です。各種補助金を活用することで、設備投資や経営改善の資金を確保しやすくなります。これらの制度を適切に活用することで、経済面でも負担を小さくして後継者が事業を引き継ぐことが可能となります
まとめ
他の業種と同様に、農業においても事業承継をスムーズに進めるためには、十分な検討時間、事前準備が重要です。
特に、親族内、従業員に事業を引き継ぐ意思のある人はいるか、また社外に引き継ぐ場合には、引き継ぐ相手としてどのような条件を設けるか、を明確にすることから事業承継が始まります。
親族内や従業員に引き継ぐ意思のある人がいない場合はM&Aにより承継を検討することとなりますが、相手先を探すため、適切なM&Aアドバイザー、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室
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