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コラム

更新日:2026/02/27

テーマ: 10.持続的成長 11.事業再生

中堅中小企業の経営論点  鉄鋼・非鉄業界 第8回:企業変革と計器飛行経営

本コラムは日刊工業新聞の連載「中堅・中小 鉄鋼非鉄経営の最前線」に掲載された40企業変革への道(2024年9月26日)及び、54計器飛行経営(2025年5月22日)に加筆したものです。

目次

Key Point

・企業変革では、トップが企業変革の必要性や実現したいことを物語形式で語ること、危機意識に偏り過ぎず希望意識のバランスも考えること、現場側の腹落ちと組織熱量を上げることが重要である。
・計器飛行経営は事業の危機を回避する役割がある。悪い数字が出る仕組みや、その数字から逃げない企業文化があるかどうかが明暗を分ける。

対話を重ね、組織熱量を上げる

 今回のテーマは「企業変革」。企業変革とは新たな組織カルチャーの実装を指す。なぜ計画が実行されないのか。なぜ過去の成功体験や風土に引っ張られてしまうのか。そのような課題を持つ経営者に向けて、企業変革実現に向けたポイントを説明する。

 最初のポイントは、トップが企業変革の必要性や実現したいことを物語形式で語る重要性だ。主観的な体験を交えることで、聞き手に疑似体験を促し、感情に大きな刺激を与える。この手法は「ストーリーテリング」とも言うが、中小企業こそ武器になる。なぜなら創業の思いや失敗経験、再起など個人の体験と企業全体のエピソードは表裏一体だからだ。特に鉄鋼・非鉄業界は日本経済の勃興と同期しており、ストーリー性を持つ。理屈だけの戦略説明では伝わりにくいが、ストーリー性を持たせることで、共感を引き出すことができる。

 二つ目のポイントは、危機意識と希望意識のバランスだ。事業再生現場でのコンサルタントとしての経験上、危機管理や状況直視は重要だが創造的でワクワクする気持ちを引き出すのも経営層の役目である。有事でもだ。
 ある経営者が「危機意識が足りない」と叱責し続けているのを見たことがあるが、幹部は萎縮するだけだった。普段から需要動向・見込み業績管理など課題を客観的に捉えていれば、平時から緊張感を高められる。危機意識を言葉であおり、改善を迫っても、効果は得られない。この点は後段の「データを熟視、危機回避」でも計器飛行経営として説明する。

 三つ目のポイントは、現場側の腹落ちと組織熱量をいかに上げられるかだ。ここで「企業変革キャラバン」を紹介したい。企業変革の目的や戦略浸透を促すため、幹部自ら全国の拠点を行脚し対話を重ねる一連のプログラムである。一端を紹介する。
 一つ目は現場の話を「聞き切る」対話だ。一方的な説得は厳禁。ワークショップや対話で現場の考えや課題を引き出す。聞き切ることで従業員にも心理的安全性が生まれる。経営者の伝えたいことも腹に入っていく。
 二つ目は、伝える連鎖を作ること。経営者がさまざまな説明努力をしても行動変容につながらないのはなぜか。分かるという状態で止まっている可能性が高い。
知のステップは①分かる②できる③教えられる―の順である。ゆえにキャラバンでは、戦略や計画を部課長から部下たちに伝えることを重視する。教えることができるところまで理解が進み腹に落ちていれば熱がこもる。
 ただし1回のキャラバンで全ての人は動かすことはできない。全社員の2割に行動変容がみられるのが最初の到達目標だ。マーケティングで普及率の壁が16%にあるのと同様、約2割が一つの転換点として浸透拡大が一気に進む場合が多い。

 以上、新たな組織カルチャーを実装するための企業変革のポイントを説明した。組織は理屈と感情が入り乱れる。一筋縄ではいかないが、組織が強みと言い切れる柔軟性と実行力を獲得したい。

データを熟視、危機回避

 2025年5月中旬、企業変革をテーマにしたセミナーに講師として登壇した。そこで評判が良かった「計器飛行経営」と「戦略浸透」について紹介したい。この2つは企業変革の大前提でもある。
 飛行機には2種類の飛行方式がある。自分の目でみて飛ぶ「有視界飛行」と、航空機の姿勢・高度・位置及び針路を計器で判断する「計器飛行」で、フライト時の天候などにより都度使い分ける。これは企業経営にも多くの示唆がある。

 筆者がかつて出会ったある中小企業経営者は、剛腕を振るう経営ぶりで周囲から「ブルドーザー」と言われていた。しかし「これが俺の企業経営のコックピットだ」と1枚の紙を見せてくれた時のことをよく覚えている。毎日更新される厳選された10数個のグラフが記載されており、日々変化に目を凝らしているという。剛腕の裏には計器飛行方式による意思決定が存在していた。
 計器飛行経営は事業の危機を回避する役割を持つと考える。その理由を富士フイルムからも考えたい。同社の改革は当時の社長のカリスマ性や統率力に注目されがちだが、需要予測を「嫌がられても報告し続けた」という当時予測分析に携わった元感材部長の役割も実は大きい。
 危機意識は経営に対する緊張感の差だけではない。悪い数字が出た時の仕組みや、その数字から逃げない企業文化があるかどうかが重要だ。
 春は新たな中期経営計画の発表が多い。筆者も2025年春には住友金属鉱山やJFEホールディングスなど大手をはじめ、豊田通商や白銅など大・中堅流通などの中期経営計画に目を通した。JFEスチールも鉄鋼事業の再構築を決めた。長期の粗鋼生産量や中国の供給過多を見据えた結果だと考える。

 次は会社の経営戦略や中期経営計画が社員にどれだけ浸透しているか、すなわち「戦略浸透」について考える。
 コンサルの現場では数多くの社員と対話するが「自社の中計を覚えていない」との話は少なくない。上場企業社員でも自社のIR資料を意外と見ていないこともある。
 最近は中堅・中小企業も自社の経営状況や市場の冷静な分析に基づき、長期ビジョンや事業戦略、具体的な数値目標、行動計画を定めた中期計画を策定するが、その浸透にどれだけエネルギーをかけているだろうか。経営者からの一方的な全社説明会は、一時は響くかもしれないが記憶に残りにくい。
 ポイントは部門長やミドルリーダーが自分の部下に「自分の言葉で説明できる」まで教育することだ。自分の言葉で説明できれば、それは腹落ちができている証だ。経営者からの説明を聞いて「頭で分かる」とは理解度が全く異なる。“実行一流”の文化や行動力がある社員が多い企業は、つまり何をすべきか「腹落ち」しているということだ。
 2026年も「実行が課題だった」で終わらぬよう戦略浸透度を確認してほしい。

山田コンサルティンググループ株式会社
経営コンサルティング事業本部
部長
横地 綾人(よこち あやと)

大手鉄鋼メーカーにて、製鉄所管理や本社販売計画等に携わる。山田コンサルに参画後は、事業戦略やM&Aを含む事業再編を数多く立案し、その後の実行まで伴走するスタイルを得意とする。
専門領域は鉄鋼・非鉄など素材業界だが、金属加工など中堅中小企業の実績も数多く持ち、日刊工業新聞など業界専門誌での連載も担当している。