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コラム

公開日:2024/12/03

テーマ: 02.M&A

人材派遣のM&Aのポイント・動向を徹底網羅|

人材派遣業は市場規模を拡大しており、M&Aも活発な業界です。
この記事では人材派遣業の定義や、必要な許認可、類似業種との違いなどについて触れ、
また、M&A事例から近年の動向やポイントを紹介していきます。

目次

人材派遣会社について知っておくべきこと

人材派遣会社とは、派遣スタッフを企業に紹介し、双方をマッチングして労働派遣契約を結ぶ企業です。派遣会社は派遣スタッフと雇用契約を結び、派遣先企業に労働力を提供します。
人材派遣会社の役割は大きく二つに分けられます。

雇用主としての役割
派遣スタッフの給与支払いや福利厚生の提供。
スキルアップ研修の実施。
派遣先企業との交渉。

派遣先企業との連携
派遣先企業のニーズに合わせた人材の提供。
繁忙期やプロジェクト期間中の柔軟な人員確保をサポート

類似する人材紹介業との主な違いは雇用契約形態、サービス内容が挙げられます。
また、人材派遣と業務請負の主な違いは指揮命令系統です。
昨今はWebサイト上の「転職サイト」と呼ばれるサービスが多いですが、これらの求人メディアは求人情報を紹介しているだけであり、人材紹介や人材派遣のように選考に関するアドバイスや採用(内定)後のフォローなどは基本的に行いません。

人材派遣会社の役割とは

人材派遣業の法律上の正式名称は「労働者派遣事業」です。この事業は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(通称:労働者派遣法)に基づいて規定されています

人材派遣業を営むためには、以下の許認可が必要です。
厚生労働大臣の許可
労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。許可を得るためには、事業計画や財務状況、事業所の設備などが一定の基準を満たしていることが求められます。
許可申請の手続き
許可申請には、定款や登記事項証明書などの添付書類が必要です。定款には「労働者派遣事業」という正式名称を記載する必要があります。
許可の有効期間は3年であり、更新手続きが必要です。

人材派遣と人材紹介の違いを徹底解説

人材派遣と人材紹介の大きな違いは2点あります。
雇用形態
人材派遣の雇用形態は、派遣スタッフが人材派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で労働します。派遣先企業との直接の雇用関係はありません。一方で人材紹介は、求職者が人材紹介会社を通じて紹介された企業と直接雇用契約を結びます。人材紹介会社は雇用契約には関与しません。
サービス内容
人材派遣のサービス内容は派遣会社が派遣スタッフを選定し、派遣先企業に労働力を提供します。派遣スタッフの給与や福利厚生は派遣会社が管理します。人材紹介会社は求職者と企業をマッチングし、採用が決まると紹介手数料を企業から受け取ります。求職者の給与や福利厚生は紹介先企業が管理します。

人材派遣と業務請負の違いを理解しよう

人材派遣と業務請負の主な違いは指揮命令系統です。
業務請負は顧客から受けた注文を達成することが目的であり、顧客との間に指揮命令関係はありません。
一方で人材派遣は派遣先企業の指揮命令を受けて業務を行います。

人材派遣業界の市場規模と動向を探る

2022年度における人材派遣業界の市場規模は8兆7646億円で、前年度より6.4%増加しました。(厚生労働省「令和4年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」)
過去5年で見ても、2018年には6兆619億円だったのに対し、44%増加しており、市場全体が大きく成長していることが分かります。

近年では高い専門性が求められる研究者やエンジニアなどの技術者派遣の割合が増えています。
様々な事業で技術革新速度が上がっており、専門知識をもつ技術者が不足していることから、特に技術者派遣の分野が市場成長に貢献しています。

人材派遣事業全体でも少子高齢化により労働者人口が減少し、労働力不足となり、需要が高まっています。
また、終身雇用制度の廃止や副業などの浸透により、個人を重視した働き方が主体となっており、求職者側のニーズも増えています。
これらの傾向は今後も継続することが予想されます。

人材派遣業界のM&A動向をチェック

人材派遣業界は開示されているもので年間20件から30件のM&Aが行われており、M&Aが活発な業界といえます。
その理由として主なものは下記のとおりです。

労働人口の減少
少子化により国内の労働人口が減少しており、特に技術者などの専門人材の不足が深刻化しています。このため、企業は即戦力となる人材を確保するために人材派遣会社の利用を増やしており、派遣会社の需要が高まっています。

市場の拡大と競争激化
一方で人材派遣業界は市場規模が大きく、競争が激化しています。大手・中堅の人材派遣会社は規模拡大や市場シェアの拡大を目指して、同業他社を買収する動きが活発です。また、異業種からの新規参入も増えており、M&Aを通じて人材派遣業界に参入する企業も多く見られます。

働き方改革と多様な働き方の普及
働き方改革の影響で、多様で柔軟な働き方が社会的に認められつつあります。派遣社員という働き方を選ぶ人が増えており、人材派遣会社の役割が重要になっています。この流れに対応するため、企業はM&Aを通じて派遣事業の強化を図っています。

利益率の向上と事業の多角化
人材派遣業界は利益率が低いことが課題です。M&Aを通じて規模の経済を追求し、コスト削減や効率化を図ることで利益率の向上を目指す企業が増えています。また、新たな事業展開や業務再編を通じて、安定的な事業運営を目指す動きも見られます

最近のM&Aトレンドを具体例で紹介

UTグループによるプログレスグループの子会社化

製造業が盛んな地域で、専門性の高い人材が在籍する人材派遣業をM&Aにより取得した事例です。

2021年、UTグループは人材派遣・請負事業のプログレスグループの全株式を取得し、子会社化した。
プログレスグループは持ち株会社で、傘下のプログレスは愛知県を中心に、自動車・自動車部品、電子部品、ゴム製品など製造業向け人材派遣を手がけ、日系外国人を合わせて当時約1100人の派遣社員が在籍していた。

上記例のように、専門性の高い、業界特化した人材が在籍する人材派遣業を、同業企業がM&Aで取得する事例が増えています。
労働人口の減少による労働力の需要が高まる中、専門性の高い人材はさらに必要とされています。
そのため、人材派遣業がM&Aによる事業拡大を図る場合、業界特化の人材派遣業は売手として候補になりやすいです。

M&Aの影響を業界全体で考える

M&Aにより、人材派遣会社は規模を拡大し、業界再編が進んでいます。大手企業が中小企業を買収することで、業界内の競争力が強化され、効率的な運営が可能になります。これにより、派遣スタッフへのサービス向上や派遣先企業への対応力が向上します。
また、大手企業は法令遵守のための体制を整備し、派遣スタッフの待遇改善や労働条件の適正化を図ることができます。

注目の人材派遣M&A事例を紹介

アピリッツによるY'sの子会社化

2022年アピリッツは、IT人材派遣のY’sの全株式を取得し、子会社化しました。取得価額は3億7590万円でした。
アピリッツは人材育成・教育のノウハウとエンジニア領域の人材を迎え入れ、EC(電子商取引)サイトやWebシステムの受託開発の強化など中長期的な成長につなげる狙いでした。
Y’sは2011年設立で、IT人材派遣のほか、グラフィックデザイン・Webサイトや動画の制作なども手がけています。

ツナググループ・ホールディングスによるAIGATEキャリアの子会社化

2024年、ツナググループ・ホールディングスは、ジェイフロンティア傘下で医療・福祉分野の人材派遣・紹介を主力とするAIGATEキャリアの全株式を取得し、子会社化しました。
ツナググループは2024年1月、ジェイフロンティアと医療・福祉分野における新たな働き方の創出に関して業務提携しており、その取り組みを加速させる狙いでした。

ピアズによるウィルの子会社化

2022年、ピアズは通信業界向け人材派遣のウィルの全株式を取得し、子会社化しました。取得価額は11億9200万円でした。
ピアズは主軸とするセールスプロモーション事業におけるヘルパーや出張販売の人員確保、オンライン接客のオペレーターや研修講師の確保による収益向上、内製化によるコスト削減効果などを見込んで、M&Aに至りました。

事例から導き出すポイント

事例からも分かる通り、専門性の高い人材が多く在籍する人材派遣業のM&Aが主流です。
前述した通り、人材派遣業が事業拡大を図る再、業種特化の同業を候補とすることが多いです。
買い手の戦略としては、派遣対象とする業界を広げ、事業拡大を図ることに加え、既存のコア事業とのシナジー効果を見込んでM&Aすることがポイントです。

人材派遣会社をM&Aする際のメリットを考察

人材派遣会社がM&Aをするにあたり、買手、売手それぞれのメリットを挙げていきます。

買手のメリット

市場シェアの拡大
M&Aを通じて市場シェアを拡大し、業界内での競争力を強化できます。これにより、より多くのクライアントにサービスを提供できるようになります。

サービスの多様化
異なる専門分野や地域に強みを持つ企業を買収することで、提供するサービスの幅を広げることができます。これにより、クライアントの多様なニーズに対応できるようになります。

コスト削減と効率化
規模の経済を追求することで、運営コストの削減や業務の効率化が図れます。共通のシステムやインフラを活用することで、コストを削減し、効率的な運営が可能になります。

人材確保と育成
買収した企業の人材を活用することで、即戦力となる人材を確保できます。また、豊富なリソースを活用して、派遣スタッフのスキルアップやキャリア支援を強化することができます。

売手のメリット

事業承継の実現
経営者の高齢化や後継者不在の問題を解決し、事業承継をスムーズに進めることができます。これにより、企業の存続と従業員の雇用を守ることができます。

資金調達
企業売却により得られる資金を新たな事業展開や個人のライフプランに活用できます。これにより、経営者は新たな挑戦や引退後の生活を安定させることができます。

従業員の待遇改善
大手企業と同じ組織人事制度を導入することになれば、従業員の待遇や福利厚生の改善が期待できます。これにより、従業員のモチベーション向上や離職率の低下が図れます。

M&Aを通じた事業拡大の可能性

人材派遣事業のM&Aを通じた事業拡大には2つの方向性があります。

1つ目は業種の拡大です。
既存事業で在籍する方の専門性とは異なる専門性がある人が在籍する人材派遣事業を取得し、対象とする派遣先企業の業種を拡大します。
2つ目はエリアの拡大です。
自社が営業する地域とは別の地域に進出します。事業経営が上手くいっている場合、同じ方法でエリアを拡大することで、事業を拡大できます。

人材派遣会社をM&Aする時の流れを理解する

戦略立案
M&Aの目的を明確にし、ターゲット企業の選定基準を設定します。シェアの拡大やサービスの多様化などが目的となります。

ターゲット企業の選定
M&Aアドバイザーや仲介会社を通じて、買収候補となる会社をリストアップします。財務状況や事業内容を精査し、候補を絞り込みます。

デューデリジェンス
財務、法務、税務、人事などの詳細な調査を行います。これにより、買収リスクを評価し、適正な買収価格を算定します。

交渉と契約締結
買収条件についてターゲット企業と交渉を行い、合意に達したら基本合意書を締結します。その後、最終契約書を作成し、正式に契約を締結します。

クロージング
必要な許認可の取得や契約条件の履行を確認し、最終的な資金の移動を行います。これにより、M&Aが完了します。

統合プロセス
買収後の統合計画を実行し、組織やシステムの統合を進めます。これにより、シナジー効果を最大化し、事業運営を安定させます。

M&A専門家への相談がカギ

M&AではM&Aアドバイザーや仲介会社の外部専門家の支援を受けることをおすすめします。

理由はいくつかあり、まず自社単独で行うためにはリソースが多く必要となるからです。
買手、売手のどちらであってもデューデリジェンスの対応には多大なリソースが必要で、従業員が担うとなると、本業に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、ターゲット候補となる相手先とのコンタクトを取るには、外部専門家を経由する方が効率的です。
自社だけでアプローチする範囲ではコンタクトが取れない企業でも、アドバイザーの広いネットワークを活用することで、接触できる可能性があります。

最後に、そもそも自社にM&Aのノウハウが無い場合、何から手を付けるべきか分かりません。M&Aの経験がある人材は少なく、外部専門家に頼ることになるパターンが多いです。

まとめ

人材派遣業は市場規模が年々大きくなっており、少子高齢化から労働力の需要が高まっており、M&Aも盛んな業界です。
特に、専門性の高い業種の人材派遣業を大手が取得するケースが増えています。

近年のM&A動向を負いつつ、プロセス、ポイントを理解し、スムーズにM&Aを成功させましょう。

監修者情報

山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室