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海外ビジネス情報

2020/08/21

テーマ: 03.海外

シリーズ「海外M&Aを成功に導くポイント」③海外でのM&Aを着実に実行する方法

本シリーズでは、「海外M&Aを成功に導くポイント」と題して、クロスボーダーM&A成功に必要な情報をお届けします。

日本のM&Aとは異なる点、特徴、ポイント等を実際に実務を担当するコンサルタントが解説しますので、ぜひ皆さまの海外事業にお役立てください。

<シリーズ内容> 掲載後、リンクを設定いたします。
第1回 クロスボーダーM&Aにおける要点
第2回 カーブアウト型M&Aにおける要点
第3回 海外でのM&Aを着実に実行する方法(本レポート)
第4回 JV投資
第5回 PMI

はじめに

昨今、日本企業において事業の拡大・成長のための手段としてM&Aという手法が欠かせないものとなってきております。今後の日本の人口減少、経済の縮小を踏まえると、海外でのM&A(以下「クロスボーダーM&A」)の成否が日本企業の中長期的な生き残りを左右するといっても過言ではありません。

多くの企業が、事業戦略部や経営企画部と称して、外部の銀行・証券会社・M&Aブティックと情報交換を行い、M&Aを推進するための部署を設けております。しかしながら、自社の戦略、ニーズにマッチした案件が持ち込まれるということは非常に稀で、待てども、なかなか思うようにM&Aを推進できないとお感じになっている企業も多いのではないでしょうか。

こと海外に至っては、日本と同様、各国ごとに国内で完結するM&Aが多く、そもそも自然体では日本に情報が集まってこないので、海外から自社に持ち込まれた案件が自社の海外戦略にぴったりということは極めて稀であることを念頭に置く必要があります。

では、海外へ打って出る、海外売上比率を高める、海外でのシェア獲得などを掲げている企業が、海外戦略にぴったりの奇跡のようなクロスボーダーM&Aを「着実に」(必要に応じて「継続的に」)実行するためにはどのような方法論があるのでしょうか。今回のレポートでは、自社の戦略にあったクロスボーダーM&Aを「着実に」進めていくためのグリーンフィールド・リサーチ(以下「GFR」)という手法を紹介します。

日本企業のクロスボーダーM&Aの状況

日本企業が海外の企業を買収する、クロスボーダーM&A件数の国別・地域別推移を下記の表に記している。

国内において、中小企業によるM&Aも一般的になってきているが、中堅・大手企業を中心として海外の企業を買収するIn-OutのクロスボーダーM&Aも年々増加してきているのが分かる。日本の人口は統計によると今後減少の一途をたどり、国内マーケットはシュリンクしていく一方であるため、海外のマーケットを獲得しに行く日本企業の動きが加速している。

国別に見ると、米国の件数が圧倒的に多く、全体の約32%を占め、次ぐ第二位のシンガポールの約4倍から5倍の件数となっている。第二位以下、各国ともに増加している傾向にある。地域別に見ると、北米が全体の3分の1超、ヨーロッパ全体で約23%、ASEAN諸国全体で約18%という割合になっている。

企業が取り組むクロスボーダーM&Aの課題

クロスボーダーM&Aは、言うまでもなく、国内M&Aとは大きく勝手が異なる。本章では、日本企業がクロスボーダーM&Aに取り組む際に一般的に直面する課題について整理する。

1. 狙っている案件が来ない

はじめに」でも少し言及した通り、売主や売主についているファイナンシャル・アドバイザー(以下「FA」)は、特別な事情がない限り、まずは国内の買い手を探すことから始めるのは言うまでもない。

ASEAN諸国においては、国内で買い手を探そうとしても財閥か業界大手の1-2社を除くとそれほど打診すべき買い手候補が国内にいないので、初めから中国や日本あるいは欧米の買い手を探すというケースはある。

米国では、まずは米国内(ファンドもひしめき合っている)、次に欧州諸国、次に中国あるいは日本という順番で検討される。欧州も、国内、欧州諸国、米国、その他という順で検討されていると思われる。(当然、案件規模が非常に大きく(数百億から数千億規模)、グローバルな企業へ打診すべき案件は、初めから世界中の候補先を相手に進めていくことになるが、対象となる企業はごくわずかとなるため、このようなケースは本稿では論じないこととする。)

以上の背景から、日本企業に持ち込まれた案件(ASEAN諸国を除く)はなかなか買い手が見つからない難しい案件か、既にプロセスが進みつつある中で保険的に声がかかる案件となりがちである。また、海外のブティックファームが彼らの情報ネットワークの中で買い手候補をリストアップするため、相当世界にブランド・名前が知られていないと(あるいは業界内では少なくも名が通っていないと)、持ち込みすらされない。

日本国内で数多の案件を検討していても、「まさにこの案件を求めていた」というものに出くわすのは稀であり、海外の案件にそれを求めるのはまず不可能と心得る必要がある。

2. スピード感

ASEAN諸国で行う一部のクロスボーダーM&Aにおいて例外はあるものの、特に欧米で取り組まれるM&Aは圧倒的に案件スタートからクロージングまでのスピードが速い。通常プロセスがスタートしてから3-4ヶ月でクローズを求められるのが一般的で、日本国内のM&Aと同じような、企業によっては日本国内のそれよりも早いと感じてしまうスピードが求められる。

また、案件がローンチされてから1番目の候補として持ち込まれることはほとんどなく、持ち込まれたときには既に他の候補企業もいて、「3週間後にIOI(Indication of Interest)提出」といったタイムラインがセットされていることもざらにある。

英語のTeaser(案件概要書)が渡され、(例えば、しかし多くの企業が、日本語に訳し、)専門の事業部門に関心を伺い、興味がある場合にNDAを法務部のチェックをかけて、マークアップを要請して、企業によってはNDAの締結のために稟議を上げて、とやっていると、平気で1-2ヶ月が経過してしまい(またはタイムラインについていけないため、検討を断念せざるを得ず)、良い案件だったとしても目の前を通り過ぎて終わってしまうということが頻繁に起こる。

3. 世界中の企業との競争

運よく関心のある案件に出会い、NDAを締結し、プロセスに入れたとする。
例えば米国の案件において、当然に米国内の事業会社、ファンド(ほぼ100%の確率でファンドにも声をかけるのが一般的)、欧州の有力な事業会社、場合によっては中国や韓国企業などと競争して案件を勝ち取らないといけない。当然に、売主から始まった案件は、タイトなプロセスも決まっており、売主が望む希望条件が提示され(どこまでその条件に歩み寄れるかの勝負)、ビッドとなるため価格はどんどん高くなっていってしまう。

また、M&Aという手法は欧米で確立されて日本に輸入された手法であり、日本国内で通常とされているM&Aの常識はかなり日本企業向けにローカライズされていることを予め認識しなければならない。つまり、欧米で行われるM&Aでは表明保証保険の利用が当たり前であり、日本ではあまり馴染みのない条項(特に100%買収ではない案件の株主間契約において)にも対応していかなければならない。

グリーンフィールド・リサーチ(GFR)という手法

前章で述べてきた通り、日本企業が自社の戦略にあった海外案件を獲得し、クロージングまで持っていくことは至難の業ということがお分かりいただけたかと思う。だからと言って、日本国内のマーケット事情を考えると、クロスボーダーM&Aを諦めるわけにはいかない。本章では、日本企業が「着実に」自社の戦略にあったクロスボーダーM&Aを実行する手助けとなるグリーンフィールド・リサーチ(GFR)という手法を紹介する。

1. GFRの全体像

一般的なM&Aにある売主起点のアプローチ(買い手としては案件の紹介を待つ受け身)ではなく、GFRは買い手の戦略やニーズにあった対象企業を探しに行くという買い手起点のアプローチとなる。

弊社がお手伝いする際には、まずは企業の戦略・ニーズ・買収条件をお聞きし、そのニーズにあった候補先企業をリサーチして何十社かリストアップする。地域・取り扱い製品・財務パフォーマンス(売上・利益)・従業員数・取引先など、情報を取れる限りのリサーチを行って、企業と一緒に絞り込みを行ってショートリストを作成する。

その後、弊社あるいは提携している現地のブティックファームを使って、「戦略的アライアンスを検討している日本企業があるので、会って話を聞いてほしい」といった具合にショートリストの先に直接アプローチをかけていく。当然、関心がないとして会ってくれない先も一定数あるが、経験上、何社かにアプローチした結果どの企業も会ってくれなかったということは皆無である(一定数の企業は会ってくれる)。

直接会って話をしていく中で、戦略的アライアンスから一歩踏み込んで資本提携の話を切り出し、先方の意向次第でもあるが買収の話に持ち込んでいく。対象企業と会って話していくうちに、初期的なリサーチだけでは分からなかったことも判明していくため、そのような追加情報も吟味しながら、最終的に買収の候補先を決定していく。

GFRの魅力は、アプローチをかける対象企業は既に企業の戦略に一定程度合致しており、また複数社と会って話をしていきながらその時点でまださらに候補先を選べるというところにある。最終的に、対象企業の望む条件、経営者の人柄、企業文化等を踏まえて、本格的な交渉プロセスに入る候補先を決定し、そこからは通常のプロセスを進めていく。仮に、その候補先との話が破談になったとしても、二番目に魅力を感じていた企業と再度話をすることができるのも、「着実に」実行できると言えるポイントとなる。

2. なぜ海外でこの手法が有効か

今でこそ日本国内においてもM&Aという手法が当たり前になってきたが、まだまだ息子や娘に事業を承継したいと思っているオーナーは多く存在し、戦略的とはいえ資本(=オーナーシップ)を外部の企業に一部譲るということに抵抗がある企業は多く存在する。

一方、海外においては、日本企業に比較すると資本提携にオープンであり、事業を売却することに後ろめたさを感じるどころか、自社を評価されたとして喜ぶ傾向にある。

以下のチャートは、一つの例として、日本とアメリカのオーナー企業が考える、①後継者候補と、②M&Aを検討しているかについての興味深いアンケート結果である。日本のオーナーは、未だに70%近くが親族内での承継を考えており、選択肢としてM&Aを消極的に検討しているものも含めてもM&Aを検討しているオーナーは全体のたったの10%に過ぎない。一方、アメリカにおいては、親族に承継したいと考えるオーナーは31%しかおらず、M&Aを検討している企業は80%近くに上る。この統計通りになる訳ではないが、アメリカにおいてGFRの手法で対象企業にアプローチした場合に、かなりの確率で話を聞いてくれるということが分かる。

3. GFRのメリット

一見、手間と時間と労力がかかる手法に思われるが、ここでは売主起点のアプローチと比較したGFRのメリットを紹介する。

(1) 戦略に合う狙った案件を買いに行ける
売主起点のアプローチでは、持ち込まれた案件を都度自社の戦略に照らし合わせて検討を行うことになるが、GFRにおいてはそもそも買い手企業の戦略に合わせた候補先をリストアップするため、全ての対象会社が多かれ少なかれ戦略に合致した企業であるところからスタートするところが大きく異なる。
売主起点のアプローチでは、数少ない持ち込み案件の中で、限られた時間内に、(M&A予算が決まっている企業はなおさら)M&Aを行わなければならないという気の焦りから、間違った(戦略とそれほど合っていない)案件を買収してしまうというケースも少なくない。GFRにおいては、このような間違いは起こり得ない。

(2) 比較的時間をかけて検討することが可能
売主起点のアプローチでは、既に決められたタイムラインに合わせて案件を進める必要があり、非常にタイトとなる。一方、GFRでは、アプローチする企業の選定の段階では納得のいくまで検討することができ、売却することを意思決定していない候補先と話を開始するため、その後のプロセスのスケジュールも話し合いの中で柔軟に決めていくことが可能となる。

(3) 買収価格が相対的に安くなる
売主起点の案件では、既にFAが雇われていて、ファンドを含めた複数の候補先に声がけがなされ、競争原理が働き、どうしても買収価格は高くなりがちである。

一方、GFRは、売却する意思決定をしていない候補先と話をするため、もし買い手企業に魅力を感じてもらえ、一緒にやっていきたいと思ってもらうことができれば、Exclusiveに話を進めていくことも可能となる。Exclusiveに話を進めていくことができれば、他に競争相手がいないため、ビッド案件と比較すると相対的に安く買収できることが可能となる。もちろん、売主の期待を大幅に裏切るような価格提示をしてしまうと破談になったり、その後にFAを雇ってビッド案件になったりする場合もあるので注意が必要である。

(4) 柔軟に取引条件が検討可能
売主起点の案件においては、ベンチャー企業等への投資案件であればマイノリティが前提であるとか、そうではない場合は基本100%売却を条件とする等、既に決まった条件が付きつけられ、それを受け入れられるかどうかの検討となる。

一方、GFRは、相手がそもそもどのようなスキームで取引を行うかについて考えていないケースが多いため、柔軟な提案が可能となってくる。
例えば、(a)最初は30%程度のマイノリティで入って、アライアンスがうまく行き始めたころに追加の買収を検討する、(b)マジョリティは確保するが、最初は51%の取得に留め、オーナーに引き続き49%持ってもらい、共同経営の形で引き続きオーナーにも経営にコミットしてもらう、(c)基本は買収を前提とするが、移行期間のオーナーのコミットを確保するため20%だけ持ってもらう等、もちろん相手の意向にも拠るが、様々な取引条件が設計可能となる。

(5) PMI(Post Merger Integration)を予め想定可能
売主起点の案件では、限られた時間軸の中でハードな交渉も行いながら、PMIも検討していくことになり、十分な事前検討がなされないままクロージングを迎えることも往々にしてある。そのような場合、買収後すぐに思うようなシナジーが発揮されないどころか(そもそも事業面でのアライアンスについて話し合いがなされていないケースもある)、システム・労務関係などの管理機能の統合で忙殺されてしまうケースが多いように思う。

一方、GFRでは、まずは戦略的な事業面でのアライアンスや今後の展望(シナジー)から話が始まるため、アライアンスの方針について検討が不十分であるということはあまりない。また、売主起点の案件と比較して相対的に時間をかけて買収交渉を行うことが可能となるため、システム・労務関係などの管理機能の統合についても事前の準備が可能となる。

おわりに

日本企業のグローバル展開においてクロスボーダーM&Aは欠かせない手法となっており、日本企業の担当者におかれましては、なかなか思うようにクロスボーダーM&Aが実行できないというお悩みを抱えていらっしゃるケースが多いのではと想像します。

本稿では、そのような企業の方々が、戦略に合う狙った企業を「着実に」買収していく手法としてGFRの紹介をさせていただきました。この手法を活用いただくことで、日本企業の世界での生き残り・成長に少しでも貢献できることを願っております。

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global-support@yamada-cg.co.jp

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