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海外ビジネス情報

2020/07/29

テーマ: 03.海外

シリーズ「海外M&Aを成功に導くポイント」①クロスボーダーM&Aにおける要点

本シリーズでは、「海外M&Aを成功に導くポイント」と題して、クロスボーダーM&A成功に必要な情報をお届けします。

日本のM&Aとは異なる点、特徴、ポイント等を実際に実務を担当するコンサルタントが解説しますので、ぜひ皆さまの海外事業にお役立てください。

<シリーズ内容> 掲載後、リンクを設定いたします。
第1回 クロスボーダーM&Aにおける要点(本レポート)
第2回 カーブアウト型M&Aにおける要点
第3回 海外でのM&Aを着実に実行する方法
第4回 JV投資
第5回 PMI

はじめに

近年、日本企業が海外の企業を買収もしくは資本参加する事案が増加しており、日本企業の海外展開手法の選択肢の一つとして、M&Aが当たり前になってきたことを感じます。しかし、海外企業とのM&Aは、日本企業とのM&Aに比べて特有の難しさが存在し、日本企業の経営陣やM&Aを推進する経営企画などの部署の方々の頭を悩ますことも多いのではないでしょうか。今回のレポートでは、一般的なクロスボーダーM&Aの論点を案件の属性ごとに整理し、クロスボーダーM&Aに取り組む日本企業の対応のアプローチを示唆します。

日本企業のクロスボーダーM&Aの状況

日本企業のクロスボーダーM&Aの国・地域別の件数推移を下記の表に記している。全体の件数は2017年~2019年にかけて年平均10.1%増え、年々増加傾向にある。件数ベースで最も多い国は米国で、毎年全体の30%前後の海外M&Aが米国で実行されているのが特徴である。加えて、シンガポールへのクロスボーダーM&A件数の伸びが顕著である。東南アジア地域で事業展開する企業は持ち株会社をシンガポールに置く傾向にあり、主要事業は他国に存在するが買収対象となる株式を所有するのはシンガポール企業であることも多いためであると考えられる。また、シンガポールは東南アジア地域の他国に比べて法的に透明性が高く、買収する日本企業の視点からも投資しやすい国であることも一因と考えられる。

地域別では東南アジア地域と欧州へのクロスボーダーM&A件数が年々増加傾向にある。東南アジアは、近年日本企業の進出が盛んな地域であり、中堅中小企業によるクロスボーダーM&Aの実行も増えてきている。欧州は特に日本の製造業のクロスボーダーM&Aが増加していると感じる。加えて、欧州政府による中国企業への警戒心が強まり、同時に欧州の売主が中国企業への売却を避けたがる傾向が強くなっていることから、相対的に日本企業による買収の機会が増えている実感がある。

クロスボーダーM&Aの難しさ

「はじめに」で言及した通り、クロスボーダーM&Aは国内M&Aと比較すると特有の難しさが存在する。本章では、一般的なクロスボーダーM&Aの特徴と案件の属性ごとの特性を整理する。

1. クロスボーダーM&Aにおけるプロセスの特徴

(1) コミュニケーション
一つ目の特徴はコミュニケーションである。対象会社は海外企業であるので、コミュニケーション言語は当然日本語ではなくなる。国際的な取引の場合、通常用いられる言語は英語であり、対象会社から受け取る書類、交渉、契約などにおいて英語での対応力を求められる。

また、言語だけでなく文化の違いを理解することも重要である。例えば、米国案件における最終契約書のファーストドラフトにおいては、ほぼ例外なく到底受け入れられないような先方有利な条件が提示される。これはある意味儀式のようなもので、双方交渉上のハイボールを投げ合って、徐々に折り合いをつけていく交渉文化が米国には形成されている。この「儀式」を真に受けて、「受け入れられない条件を突き付けて交渉を打ち切ろうとしている」などと反応しないように注意する必要がある。

加えて、時差によるコミュニケーションの遅れにも注意が必要である。アジア圏であれば時差はあまり問題にならないが、例えば欧州であれば-7~-9時間となるため、日中の営業時間がほぼ重ならない。メールでのコミュニケーションが1日1往復などタイムリーにできないことによるプロセスの遅れが発生しがちであり、コミュニケーションの取り方を工夫する必要がある。

(2) 時間軸
クロスボーダーM&Aにおけるプロセスの時間軸は常に「全く時間がない」か「非常に時間がかかる」かのどちらかである。特に、売主の交渉力が強く、複数の投資家候補が入札するようなオークション案件だと、2週間でデューデリジェンスを行い、マークアップ付きのSPA(株式譲渡契約書)を提示してオファーをしなければならないようなものも存在する。一般的に、日本企業の意思決定プロセスは他国に比べると遅いと言われる。クロスボーダーM&Aに取り組む日本企業にとって、他国からの投資家候補との競争に勝つためには考慮しなければならない論点だと感じる。

「非常に時間がかかる」案件は東南アジア等の新興国に多い印象である。新興国では、M&A業界自体がまだ成熟していないことによって、経験豊富なM&Aアドバイザーが少ない傾向にある。売主サイドについているアドバイザーの経験が不足しており、適切なプロセスを作れない、初期段階で重要な情報がなかなか開示されない(売主を説得できない)などにより時間がかかることがある。

(3) 法制度や規制
M&Aの対象は海外企業であるので、当然その国の法制度や規制が日本とは異なる。特に対象となる事業にとって重要な法規制や対象国・地域特有の法的論点(個人情報保護法や環境関連の法規制など)については、検討の初期段階で弁護士等の専門家へ確認し、内容を把握することが重要である。

2. 地域ごとの特性

米国、欧州、アジアの地域ごとにプロセスの特徴があると感じている。米国はM&A業界において長い歴史を有していることもあり、プロセスが非常に洗練されている。よって、売主サイドのアドバイザーがオークション形式を選択する場合が比較的多く、オファーを提示するまでの時間が非常に短い傾向がある。

一方、アジアは売主が事業シナジーを見込める戦略的なパートナーを求め、相対での交渉を望む傾向が比較的高いと感じる。アジアのビジネスパーソンは人的な「ケミストリー」を重視することが非常に多く、ディールを担当する日本企業の担当者の力量が極めて重要となる局面がある。欧州は米国とアジアの中間的な位置づけである。アドバイザーが洗練されており、オークション形式を選択する傾向にあるが、売主が求める戦略的なパートナーであれば時間軸に柔軟性を持たせてくれるなど、一定の譲歩をする文化があると感じる。

日本企業の取りうるアプローチ

日本企業にとって、海外市場での成長を加速度的に実現するためにはM&Aという手法が不可欠であるが、特に海外では優良な案件獲得の競争相手が多岐にわたり、獲得自体が難しい場合も多い。また検討のプロセスに乗れたとしても国内M&Aとは異なる難しさが多く存在する。本章では、日本企業が優良なクロスボーダーM&A案件を獲得でき、検討のプロセスをスムーズに進めるために取りうるアプローチを示唆する。

1. 戦略的パートナーとしての地位確立

どの国・地域においても日本企業が売主に評価され、他国からの投資家候補との優位性が認められるのは戦略的パートナーとしてである。一般的に、日本企業はブランド力や技術力があり、業界では高付加価値な製品・サービスを市場へ提供していると受け止められている。対象会社のリソースと日本企業がもつブランド力や技術力を掛け合わせて生まれる事業シナジーを具体的に示し、売主を説得できるように準備することが、優良な案件獲得に非常に役立つと考える。

また、特にアジアにおいては人的な「ケミストリー」を重視する売主が多いため、検討の初期段階で実施されるトップ面談等において、しっかりと信頼関係を築くための準備、人選に力を入れることも重要である。

2. プレM&Aフェーズでのリサーチ

売却案件が紹介されてから検討を始めるのでは、検討のプロセスが後手になってしまい、対象市場や対象会社の競争環境の調査が十分に行えないことが多いと感じる。海外展開の戦略と戦略実行において必要な機能のイメージがついているのであれば、必要な機能を補うための買収候補先をリサーチする方が近道といえる。対象市場を理解し、自社とのシナジーを生むと想定する対象候補先を特定することで、M&A後の成長確率も必然的に上がる。また、基本的に相対で交渉を進められるため、時間的な余裕が生まれる。当然、対象会社の株主がすぐに売却に応じるとは限らないため、ある程度時間を要する方法ではあるが、まずは商取引から始めて信頼関係を築くなど、日本企業になじみのある進め方ができることが利点である。

3. 各アドバイザーとのチーム体制

クロスボーダーM&Aはファイナンシャルアドバイザー、アカウンティングアドバイザー、リーガルアドバイザーがチームを組成し、日本企業のクロスボーダーM&Aの実行を支援するのが一般的である。ファイナンシャルアドバイザーが案件全体のプロジェクトマネジメントと交渉の窓口を担い、アカウンティングアドバイザーが財務・税務デューデリジェンス、リーガルアドバイザーが法務デューデリジェンス及び最終契約書作成の役割を担う。

案件の地域・属性・規模等に応じて各アドバイザーにも得意・不得意があるといえるが、何よりも重要なのはクライアントとなる日本企業の意思決定の方法や特殊性を理解し、それに迅速に対応してくれることである。特に、検討プロセスの時間が少ない案件である場合、細かな要求に即座に対応してくれるなど、クライアントの意思決定をスピーディーに実行できるためのサポートが不可欠となる。

アドバイザー選定の段階で、社内の意思決定プロセスにおける特徴やサポートを求める具体的なポイントを伝えることが案件をスムーズに遂行するために重要である。

おわりに

欠かせない手法となっております。国内M&Aに比べて論点は多岐にわたり、リスクが高くなりがちなクロスボーダーM&Aですが、国内M&Aとの違いを理解したうえで成功に導くことが重要です。

※本稿で使用する「クロスボーダーM&A」は特段の指定がない場合、日本から海外への買収・資本参加・事業買収(in-out M&A)を意味します。

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