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更新日:2022/08/10 公開日:2021/07/07

テーマ: 03.海外ビジネス

ベトナムの為替政策と今後の動向【前編】

目次

本レポートでは、「ベトナムの為替政策と今後の動向」と題して、
まず【前編】において、為替政策と外貨取引に対する規制について解説します。
その後、【後編】において、今後の動向に触れる予定です。

1.為替政策

①為替管理制度

  • ベトナムでは、中央銀行が為替レートを設定、市場参加者は定められた一定の幅でのみ取引を行うことができるという、管理フロート制を採用しています。中央銀行によるレートの管理・決定方法が直近では2016年1月に変更されており、従来対米ドルで設定、断続的に変更していた基準レートが、複数の通貨の取引状況、貿易・投資状況等を踏まえ、より連続的に変更されることとなりました。これを受けて、中央銀行により対米ドルの基準レートが毎日公表されるとともに、ユーロ・日本円・中国元・韓国ウォン等の主要な取引通貨とのクロスレートが週次で公表されています。取引可能な幅は中央銀行が定めた基準レートから上下3%以内となっています。

②為替介入

ベトナムは2020年12月にアメリカから為替操作国と認定を受けました。アメリカによる為替操作国の認定は、対米貿易黒字の額、経常黒字の額、為替介入額の3つの基準から判断されていますが、ベトナムの輸出拡大、外国投資の拡大が進む一方で緩やかなドン安が続いており、中央銀行による為替介入が問題視されたものでした。ベトナムの中央銀行は、あくまで安定的な為替市場と総合的な金融政策を踏まえており、不当に輸出拡大を意図したものではないとコメントしていますが、2021年2月に為替介入の頻度を減らすとの声明を出しました。その後2021年4月にアメリカが為替操作国の認定を取り消したことにより為替介入への圧力は多少和らいだと考えられます。それ以降、中央銀行からは特段のコメントは出されておらず、今後どのようなスタンスを取るのかが注目されます。

2.外貨取引に関する規制

上記の通りベトナム政府は為替管理を重視しており、通貨需給に影響を与える各種の取引についても一定の規制が敷かれています。

①事業取引

ベトナム国内での取引については、原則としてVNDでの決済を行う必要があります。ただし、下記については例外的に一部外貨での取引が認められています。

・駐在員等外国人従業員への給与支払
・EPE企業による国内企業及びEPE企業からの仕入に対する支払

EPE企業が外貨建てで取引(EPE企業からの仕入、及び輸出目的の生産のための国内企業からの仕入)を行う場合には、契約も当然に外貨建てで行うことが可能です。ただし、上記のとおり原則としてVNDでの決済が求められるため、一般には店頭の価格表示や契約書における契約金額はVND建てであることが求められます(ただし「●USD(▲VND相当)」といった併記は認められる)。工業団地の土地リース料等の表示が米ドル建てでされているものもよく見受けられますが、実際の契約・支払については米ドル建てで行う必要があります。

※EPE企業:Export Processing Enterprisesの略で、輸出加工区内で設立され、操業している企業または工業団地内または経済区内で操業し、 製品すべてを輸出する企業

一方で、昨今ベトナムでも注目度の高い太陽光や風力等の再エネ発電に関する固定価格買取制度(FIT)において定められている売電価格は、米ドル建てでの固定価格となっています。国内の投資家の場合は通常資金調達はVND建てとなるため、事業期間・回収期間が長期に渡る中で為替変動のリスクを負う形となっています。背景については分かりませんが、再エネ発電事業への主要な投資家は海外勢になるという予測があったのかもしれません。 ベトナム国外との取引において逆に海外への送金に関しては、VND建てで行うことが認められておらず外貨での送金が必要になっています。ただし、外貨流出に繋がる取引であるため、実需取引であることを確認するために契約書、Invoice等の裏付けとなる資料を送金の際に銀行に提出することが求められています。

②資本取引

外資企業がベトナムに会社を新設する場合、開設した資本金口座に企業登録証明書(ERC)発行後90日以内に資本金を振り込む必要があるとされています。資本金の振込について通貨の限定はされていないものの、外資企業では米ドルでの資本金登録を行い、米ドルでの資本金振込をするケースが一般的です。 外資企業がベトナムの企業に投資する場合には、間接投資用の口座を別途開設し、これを通じてVND建てで投資資金の支払を行う必要があります。 配当金については、利益の範囲内で年1回行うことができます。海外への送金には事業取引と同様に外貨によって、税務署への7日前の事前通知を行った上で、指定の通知書(配当という事由の裏付け)の銀行への提出により行う必要があります。なお、海外への配当に関しベトナム国内で源泉徴収等の課税は発生しません。

一方で、ベトナム国内で設立された法人が、ベトナム国外へ投資する場合には、取引銀行にて開設された外貨預金口座にある外貨を投資資金として海外へ送金することになります。ただし、上位の管理組織(親会社など)と中央銀行の許可を受ける必要があり、民間企業でも通常6ヵ月~1年かかります(国営企業の場合はさらに長期)。また、投資先の国の条件も満たす必要があり、特に先進国への投資はハードルが高くなります。

③金融取引

親子ローンを含む海外からの借入は原則として外貨建てで行うことになります。ここにおいても実需に応じた外貨資金取引を担保するために、資金用途と借入期間を整合させることが求められます。 なお、VND建ての海外借入はマイクロファイナンス組織による借入、本国の親会社への支払うべき配当を実際には送金せず親会社からの借入として扱う場合、「その他特別な場合のみ中央銀行の認可を経て」という形に限定されていますが、認可の基準等については具体的に定められていません。

借入期間1年内の短期借入については、運転資金目的に限られます。この場合、中央銀行への登録は不要ですが仮に1年内に返済できなかった場合には、中長期の借入として中央銀行に登録し直す必要があります。この際、当初の借入目的と期間が妥当であったかをチェックされます。

一方で、借入期間1年超の中長期借入については、運転資金や設備投資、あるいは他社への投資や既存借入の借換といった目的でも行うことができます。この場合には、中央銀行に対し登録を行う必要があります。これらの登録がされていなかった場合には、元金や利息の支払のための海外送金が取扱銀行で拒否される可能性があります。

なお、外国企業がベトナムで会社を設立した場合には、原則として投資登録証明書を取得しますが、1年超の中長期借入金の残高は定款資本金額との合計で、証明書上の総投資金額以内となっている必要があります。外貨借入については資本金と同様に資本金口座、あるいはローン専用口座での入出金が必要です。 また、ベトナム企業は、輸出のための商品あるいは輸出用製品製造のための材料輸入に充てる短期資金(輸出により返済可能な外貨収益が見込めるもの)及び計画投資省に認可された海外投資に充てる資金について、外貨での借入が認められます。

④個人による外貨送金

ベトナムに在住する個人が海外送金する場合は、個人用の買い物のためであればクレジットカードやPaypal等での支払が主流になってきていますが、銀行口座からの送金を行う場合には法人と同様に送金の裏付け(契約書や請求書)が必要であり、目的やこれらの資料について金融機関のチェックを受けた上で外貨にて行う必要があります。これには、ベトナム人による海外在住の子供や親族への送金や自身の商用等での訪問、またはベトナム在住・滞在中の外国人による外貨送金等が当てはまります。ただし、銀行から送金する場合には、手数料や為替のスプレッドが大きいため、Western Union等の送金サービスも一般的に使われています。

一方で、海外のベトナム人個人によるベトナムへの送金額は2020年で総額155億米ドルと報道されています。ベトナムの年間の貿易収支は約400億米ドル(2020年)ですから、これと比較しても個人の送金が大きな外貨獲得源となっていることが分かります。このうちの大部分はアメリカ等に在住する越僑による本国への送金ですが、海外派遣労働者による送金も2割程度を占めているとされています。日本において、ベトナムは技能実習生の送り出し国の首位です。日本では、当然ながら銀行送金も可能ですが、資金移動業者による送金サービスも多く使われています。

資金移動業者は「資金の決済に関する法律」で定められている送金サービスを提供する免許を有する業者であり、銀行よりも割安な送金手数料を提供している企業が多くなっています。従来は100万円未満の送金のみしか扱えなかったところ、法改正により2021年5月から一定の要件を満たす事業者は100万円以上の決済も扱うことが認められました。

昨今はベトナムでもビットコイン等の暗号資産の取引サービスも提供されており、国内・海外を問わず送金手段の一つともなっています。2020年のSTATISTAの調査によれば、ベトナムでは暗号資産の取引をしたことがある人の割合が20%超と世界2位になっています。一方で、暗号資産に関する法律は依然定められておらず、政府は決済手段として認めていないという見解を示しており、現状グレーな位置づけです。今後どのような規制が適用されるのかが注目されています。

 

【後編】はこちらからお読みください。

執筆:YAMADA Consulting & Spire Vietnam Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 ベトナム現地法人)

 
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