海外ビジネス情報
更新日:2025/12/16
テーマ: 03.海外ビジネス
ケミカル業界におけるAdvanced/Specialty(高付加価値分野)事業への転換
~グローバル企業から見る事業戦略とASEAN/Indiaの位置づけ~
目次
サマリー
・ケミカル業界は原油価格の変動や米ロ・米中関係やその他地政学リスクに起因する調達不安定性、カーボンニュートラル実現に向けた排出規制強化、中国による基礎化学品の供給過多などのグローバルトレンドにより、事業の脅威に直面している。これらの環境変化を受け、従来のコモディティ中心型事業モデルでは十分な収益を確保することが困難な状況となってる。
・こうした中で、高収益・高成長を実現している勝ち組のリーディングカンパニーは、以下の2つの戦略を中心に業界の課題克服に取り組んでいる。
– 原料転換による循環型社会対応(グリーンケミカルへのシフト)
化石由来原料からバイオ由来原料への転換を進め、サステナブルな事業構造を構築。
– 先端技術分野向けスペシャリティケミカルへのポートフォリオシフト
半導体やEVなど成長著しい分野に対応した高機能・高付加価値ケミカルの開発・供給を強化。
・その戦略は、アライアンスを通したグローバルでのサプライチェーンを構築することで実現している点が成功要因。一定地域に限定されず、新興国における成長著しい需要を取り込むことも高成長の成功要因となる。
・他のグローバルトップ企業も同様の戦略方針を策定しているが、サプライチェーンが特定の国や地域に限定されている場合、事業のスケールアップが困難となり、業界のボラティリティが事業に与える影響が大きく、高成長に結びつきにくい状況。
・その中で、東南アジアおよびインドは原料調達先および成長市場として極めて重要なポジションを占めている。
例えば、インドやタイでサトウキビやキャッサバなどバイオケミカル原料の供給が豊富であることから、グリーンケミカルの安定的な原料調達および製造が可能であり、主要会社は原料調達網の構築と基礎化学品製造で該当市場に参入。
・また、これらの地域における化学品市場の成長率は8%を超えており、需要の成長が期待できことから、主要会社に新たな販売市場として、アライアンスを用いた戦略の実行拠点として選定してされている。加えて、インドはMEAなど第三市場への輸出量も高く、ゲートウェイとしての役割も期待できる。
・国内市場を主軸とし、コモディティ寄りの事業構造により利益率の低迷に直面している国内企業について、今後の戦略大方針の見直し、ASEAN・インドでのアライアンスを活用した事業展開の検討を推奨する。
・グローバルなサプライチェーン構築とスペシャリティケミカルへの事業転換は、今後の成長戦略において不可欠であり、東南アジア・インド市場の活用が重要な鍵となるため、足許の事業構造を再評価と今後の戦略と実行案の検討を提言する。
ケミカル市場の主要トレンド
化学業界に影響を及ぼす主要トレンド
近年、原材料価格の変動やカーボンニュートラル/グリーントランスフォーメーションに関する規制強化、そして中国による石化関連供給過剰といったトレンドが、グローバルな化学業界各社にとって大きな脅威となり、川上における投資優先順位や川上における製品戦略に大きい影響を及ぼしている。

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Source:ERM、各種ニュースリリース
【1】調達不安定性
グローバルなサプライチェーンの不安定性により、化学メーカーは輸出輸入に依存したサプライチェーンから、現地生産/販売化を迫られている。その実行市場として、原料の豊富さやインセンティブなどの観点で東南アジアとインドが注目されている。
| 混乱要因 | |
|---|---|
原油価格の変動性 | 原油価格の急騰・急落はナフサやエチレンなどの石化系フィードストック価格に直結し、化学メーカーの投入コストを不安定化させる |
地政学的 | ロシア・ウクライナ紛争や中東情勢などは、エネルギーおよびフィードストックの供給網を攪乱し、保険料や燃料費の上昇、輸送経路の不確実性を招く |
貿易政策の変化 | 輸出規制や関税の変更(例:インドのエタノール・糖蜜政策など)、優遇調達措置はグローバルな貿易フローの予測可能性を低下させる |
物流コストの高騰 | コンテナ不足、港湾混雑、バンカーフューエル(燃料)価格の上昇により、原料輸送コストが世界的に増加している |

| 影響 |
|---|
多国籍企業や地域企業は、これらのリスクを緩和するために各地ローカルでの戦略再配分(地産地消)を進めている |
| 戦略実行としての東南アジア・インドでの現地化 |
|---|
フィードストックの豊富さと上流統合:インドネシアやマレーシアなどの産油・ガス国はナフサや天然ガスへの容易なアクセスを提供し、石化フィードストックの供給拠点として適性がある |
サプライチェーンの現地化強化はレジリエンスを高める:企業は中国依存からの多様化を図り、SEA内での生産強化を進めている |
政府のインセンティブとインフラ投資:例としてインドネシアは2030年までに310億ドル規模の投資を行い、ASEANの石化ハブ化を目指している |
地理的優位性と地域統合:中国・インド・ASEAN市場の間に位置するSEAは、輸出アクセスと地域規模の確保に有利であり、スペシャルティ化学品の戦略的拠点となり得る |
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Source:GBRreports, Bain
【2】グローバルにおけるCN/GX義務化規制
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素化は最も先行しているヨーロッパを軸に企業向け規制が活発化しており、産業部門において鉄鋼に続く排出元となっている化学業界は、サステナブルな事業運営への転換を求められており、CEFICはロードマップを通してバイオマス原料やリサイクル原料の調達拡大を求めている。
関連政策
◆主な目標
2035年 温室効果ガスを2013年度から60%削減
2040年 温室効果ガスを2013年度から73%削減
2050年 カーボンニュートラル
◆欧州における炭素国境調整措置(CBAM)導入
EU域外からの輸入品に対し、製造時に排出されたCO₂に応じた炭素価格の支払を求める制度
2023年 移行期間としてセメント、肥料、電気、鉄鋼、水素、アルミニウムを対象に、暫定適用が開始
2025年 有機化学品、ポリマ-への拡大に関する評価。欧州委員会が年末に評価書提出予定
2026年 本格適用開始し、CBAM証書関連義務発生。EU ETS 無償排出枠の段階的廃止開始
2034年 CBAM本格稼働、無償枠廃止
◆再生可能エネルギー指令(RED III)によるバイオ化
EU全体の最終エネルギー消費における再エネ比率を高めるための法的枠組みで、2023年に2030目標を42.5%に引上げ
・バイオ原料・バイオ燃料の認証
バイオマス、バイオガス、バイオ燃料などを再生可能エネルギーとして認定し、利用を拡大
・グリーン水素の導入促進
化学・製造業など産業用途でのグリーン水素導入を訴求
EUにおける化学業界の取り組み

◆化学産業のカーボンニュートラルに向けた取り組み
CEFIC(European Chemical Industry Council)のロードマップ策定 “Transition Pathway for the Chemical Industry”
・エネルギー転換
2030年までに再生可能エネルギー比率を大幅に拡大
・原料転換
バイオマス原料・リサイクル原料の調達拡大
・プロセス効率化/イノベーション
CCUSの商用化と浸透
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Source : European Commission, CEFIC
【2】国内におけるCN/GX義務化規制
日本は2020年に2050年カーボンニュートラル宣言をしており、その達成に向けてGX取り組み加速化を優先事項として策定。化学産業は産業部門でガス排出量が二番目に多い業界であり、製造プロセスの変革などを通した排出改善は喫緊の課題であり、新素材・材料の製造や原料転換が取り組みとして採用されている。
関連政策
◆主な目標
2035年 温室効果ガスを2013年度から60%削減
2040年 温室効果ガスを2013年度から73%削減
2050年 カーボンニュートラル
2020年 2050年カーボンニュートラルの表明
グリーン成長戦略の策定
2021年 グリーン成長戦略の具体化
化学業界ビジョンの策定(化学業界のカーボンニュートラル行動計画 )
2025年 第7次エネルギー基本計画の策定
GX2040年ビジョンの策定
GX推進法・資源法改正
脱炭素成長型経済構造移行債の発行 (兆円)

カーボンプライシング構想により、10年間で150兆円超の官民によるGX投資の実現が見込まれており、20兆円規模のGX経済移行債発行は、政府によるGX推進先行投資支援の財源となる
国内における化学業界の取り組み

◆化学産業のカーボンニュートラルに向けた取り組み
日本化学工業協会による取り組みまとめ
・エネルギー転換による排出削減
・製品・サービスを通した排出削減貢献
- グリーンエネルギー創出に必要な素材・材料製造
- 軽量化、長寿命化、高効率化を実現する製品の提供
・原料転換・炭素循環による排出削減
- バイオマス原料化
- 廃棄物(ケミカルリサイクル)
- 二酸化炭素原料化(+水素)
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Source:経済産業省、経団連、日本化学工業協会
【2】CN達成に向けたグローバル企業の取り組み
グローバルなカーボンニュートラル目標の達成に向けて、 大手化学メーカーはグリーントランスフォーメーションの実現に向けた投資を加速させており、化石燃料やエネルギー多消費型資産の売却、不採算事業の撤退、低炭素・バイオ由来製品の生産拡大などといったポートフォリオの再構築を実行している。
グローバル企業の動き・対応
| Company | GX Linked Action | Impact |
|---|---|---|
BASF | ・CN関連の投資額として、2024年~2027年に約40億ユーロ(約6,400億円)を公表 | グリーンケミカル・スペシャリティケミカル分野への集中を強化する |
Dow | ・CN関連の投資額として、毎年約10億ドル以上の投資を発表 | 高付加価値でスケール可能なグリーンケミカルに経営資源を再集中することを可能にする |
Evonik | ・CN関連投資額として、2024年に約4億ユーロ、2025年に約4.5億ユーロ策定 | 競争力があり低炭素な生産拠点に注力することを支援する |
日本企業の動き・対応
| Company | GX Linked Action | Impact |
|---|---|---|
Mitsubishi Chemical | ・グリーンスペシャルティケミカルへ投資集中すべく、医薬品子会社(三菱田辺ファーマ)を33億米ドルで売却 | 化石由来化学品からバイオ由来材料への転換を促進する |
Mitsubishi Gas Chemical | ・自治体の消化ガスを原料としたバイオメタノールの生産を新潟工場で開始 | 低炭素化を実現する再生可能メタノールを原料として導入することで、製品のカーボン強度を低減する |
Sumitomo Chemical | ・バイオ由来モノマーを用いた高機能プラスチック、バイオ由来液晶ポリマー(LCP)の量産技術を開発・拡大 | 電子機器・自動車分野向けの持続可能な材料供給を支援する |
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Source:各社IRレポート、Echemi
【3】中国による供給過多
中国の化学業界は、バルク石油化学品(BPC)の供給過剰に直面しており、これに伴い低コストでの輸出拡大や原材料・コモディティ価格の下落が進んでいる。
なお、こうした状況を受けて、2024年の政策ではスペシャリティケミカルの生産比率を全体の50%まで引き上げることを目標としており、今後は高付加価値商品の需給バランスが懸念される。
中国における供給と需要(百万トン)

・中国は世界の化学品生産量のおよそ50%を占めている中で、需要を上回る生産(生産能力過剰)がなされる状況にあり、中国企業による低コスト輸出が加速。設備稼働率は75%ほどと低迷
・中国による輸出攻撃に、各国の川上の化学メーカーの収益性が低下し、設備稼働率や収益率を脅かされている
生産能力の推移(2022年-2023年の成長率)

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Source:CPCIF、各種ニュースリリース
補足) 日本の川上企業による石化再編
補足) 国内産業の類似課題に鑑みて政府が定めたケミカル関連注力分野
補足) 国内産業における課題と政策方向性
グローバルプレーヤーの実態と勝ち組戦略
グローバル企業の成長率・収益性の分布
特に高成長・高収益率を達成できている上位25%の“勝ち組”企業については、コモディティー中心から脱却し、付加価値の高いスペシャリティケミカルに事業主軸を転換し、アライアンスを通してグローバルサプライチェーンを構築。
一方で、低成長・低収益群は、同様の事業転換を試みるものの、まだコモディティー事業の割合が高い、もしくは限定国・地域での事業によるスケールアップの難しさ、高い事業ボラティリティーが目立つ。

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Source:SPEEDA、Orbis、各社のIRレポート
勝ち組の戦略:スペシャリティー化の取り組み
勝ち組の戦略:アライアンスを活用したスペシャリティーサプライチェーン構築
補足) グローバルトップ企業のスペシャリティーケミカルへの投資
ASEAN/インドの位置づけとケーススタディー
グローバルサプライチェーン構築における東南アジア・インドの魅力度
補足) インドにおけるグリーンケミカルの潮流
Braskem社:グリーンケミカル製造のアライアンス
Petron Scientech社:グリーンケミカル製造のアライアンス
UPL社:スペシャリティーケミカル製造のアライアンス
IMCD社:販売網構築に向けたアライアンス
Azelis社:販売網構築に向けたアライアンス
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執筆:YAMADA Consulting & Spire Singapore Pte Ltd
(山田コンサルティンググループ株式会社 シンガポール現地法人)
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