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2021/05/20

テーマ: 03.海外

フードバリューチェーンに変革をもたらすアグリフードテックの潮流

目次

Ⅰ.アグリフードテックの全体像

アグリフードテックの市場規模

  • 米国の食農関連ベンチャーキャピタルAgfunderの調査によると、アグリフードテック(食料及び農業関連のスタートアップ)企業への投資額は、2014年の64億ドルが、2020年には約5倍の305億ドルにまで達し、年々増加傾向にある。
  • 一方で、各国からの投資状況を見ると、米国、中国、インド、欧州主要国などと比べて、日本からのアグリフードテック企業への投資額は小さく、グローバルの動きから大きく遅れを取っている。

アグリフードテックの類型

  • 食産業を取り巻く課題やトレンドを背景に、食とテクノロジーを融合して新しいサービスを創り出すアグリフードテックが世界的な注目を集めている。
  • 本レポートでは、食産業を取り巻く課題やトレンドを起点にアグリフードテックを類型化し、グローバルにおける各領域のトレンドを考察した。

グローバルにおけるアグリフードテックの進展状況

  • これまで、米国や欧州が中心となりアグリフードテック市場をリードしてきたが、いまや世界各国でサービスやプロダクトの展開例が数多く見られるようになっており、構想や実験の段階を経て、社会への普及がますます加速していくものと思われる。
  • ひとくちにフードアグリテックといっても、様々な領域があり、当分野への投資が遅れている日本企業にとって、各アグリフードテック領域の潮流の把握と参入国の選定が必要となる。

Ⅱ. アグリフードテックが注目される背景 

世界の農業人口は約30年間で39%減少しており、農業セクターは労働力不足に陥っている

  • 日本における農業従事者は1990年から2019年までの約30年間で152万人減少(52%)し、2019年時点で140万人となっており、今後も高齢化により農業従事者数が減少していくとみられる。
  • 世界銀行のデータからも雇用総数に占める農業人口は世界中のほとんどの国々で減少を続けていることが分かる。

世界的な人口増加により食糧需要が拡大しており、深刻な食糧不足の問題を抱えている

  • 国連によると、2020年の世界人口は約77億人であるが、2030年には約85億人、また2060年には100億人を超え、2100年には約108億人に達すると推計されている。
  • 開発途上国を中心とする世界的な人口の増加が今後も継続することによる世界的な食糧需要の拡大に対して、供給側の体制の変革が求められている。

干ばつや気温の上昇などの自然災害により農作物の生産量・収穫量に大きな影響を及ぼす

  • 2019年7月に、農研機構は、干ばつによる主要穀物(トウモロコシ、米、大豆、小麦)の被害額が、過去27年間(1983~2009年)で約1,660億ドル(約18兆円)に達したと公表した。世界の穀物栽培面積の4分の3に当たる約4.5億haで干ばつが発生しており、今後さらに地球温暖化が進むと状況はますます悪化するとされている。
  • さらに2020年10月、農研機構を中心とした研究グループは、気候変動(2℃の温度上昇)が世界の主要穀物生産に800億ドル相当の被害をもたらすと推定した。

担保力や信用力がなく、農業経営において資金不足に直面している事業者が多い

  • 就農してから10年以内の新規農業従事者を対象としたアンケート調査によると、農業経営における課題として、「所得が少ない」、「設備投資資金の不足」、「運転資金の不足」と回答した割合が高く、資金面に課題を抱えている農業従事者が多いことが分かる。

世界全体で生産された食料の約14%が小売段階到達前に損失しており、フードロス対策が必須

  • 2019年10月に、国連食糧農業機関(FAO)は、農場での処理や保管、輸送を含め、収穫してから小売に達する前までの段階で、世界の食料の約14%が失われてることを公表した。
  • 低所得国では、先進国に比べて整備が遅れているインフラに起因し、新鮮な果物や野菜にフードロスが多く見られ、流通過程における仲介業者が多いことや冷蔵倉庫などの貯蔵施設が整っていないことが要因であると考えられる。
  • 一方、高所得国では冷蔵倉庫を含めた適切な保管施設がサプライチェーン全体で利用可能な状況であるものの、技術的な故障や温度・湿度の管理不備、過剰在庫などの要因でフードロスが発生していることが考えられる。

先進国のみならず新興国でもカロリーの過剰摂取状態にあり、世界的に健康志向が高まっている

  • 国の経済力の上昇とともに肉食の傾向が強まることから、欧米などの先進国だけではなく、一部の新興国においても一人/一日あたりの平均推奨値を大きく超えたカロリーの過剰摂取状態にある。
  • 食肉生活の先進国である欧米を中心に、健康志向への意識が広がり肉食離れが加速している。

畜産や農業など食生活と関わる分野を通じた温室効果ガスの排出量削減を目指す

  • 牛肉の生産は、他の家畜や食品と比較して、生産するための土地や水や肥料などの資源が多く必要となり、温室効果ガスの排出量が多く、環境負荷が大きい。
  • 前頁の健康志向に加え、環境意識への高まりからも、代替肉市場への注目度は高まっており、今後も代替肉の市場規模は拡大すると予測されている。

アレルギーや宗教、思想、体質などによって食の多様化が進んでいる

  • 世界の食の多様化は「アレルギー」、「食の禁忌」、「好き嫌い」の大きく3つに分類することができ、多様化する消費者ニーズへの対応が必要不可欠。

共働き世帯の増加に伴い、食事に対する時短ニーズが高まっている

  • 食事に関する調理や移動時間の削減ニーズが高まっており、フードデリバリーサービスの利用が増加している。
  • 特に日本国内においては、近年共働き世帯が増加していることによって、食事に対する時短ニーズがさらに高まっている。

Ⅲ. グローバルにおける各領域のトレンド

①ロボット・AIなどを活用した業務効率化

  • 都市化が進み、農業分野における労働力が減少する一方で、世界の食料需要は増加の一途をたどっており、食料生産・加工の業務効率化が求められている。
  • ロボット・AIなどを活用した業務効率化のアグリテック領域は、3つの事業展開タイプに分類することができる。
  • アグリテック企業の買収・提携によって自社製品ラインナップを拡大する「事業ポートフォリオ拡大型」やアグリテック企業の技術を自社製品に取り込むことを目的とした「技術取り込み型」での事業展開に加えて、「新規参入型」としてスタートアップや他産業から当該領域への参入企業も見られる。

②植物工場

  • 近年の異常気象によって露地栽培野菜の相場が乱高下することから、気候に左右されず年間を通して安定した価格で提供が可能な植物工場の野菜は、スーパーのブランド野菜や外食・中食などの業務用途の需要が急増している。
  • また、コロナウイルス感染拡大によりフードバリューチェーンが影響を受け、感染防止のために自宅で料理する人が増えるなか、家庭用植物工場(水耕栽培キット)の需要も今後拡大していくことが想定される。

③農家向けレンディングプラットフォーム

  • 途上国において、農家の多くは小規模農家であり、信用情報がないために、農業経営に必要な投資資金を金融機関から調達することが難しい。
  • ナイジェリアのアグリテック、Farmcrowdyは農家と投資家を繋ぐオンラインプラットフォームを提供しており、農家の資金アクセスを支援。
  • Farmcrowdyは農業資材メーカーと連携し、農家に対して種子や肥料、農機、保険などの提供を行うことに加えて、収穫後の農作物を販売するための販売プラットフォームを構築。
  • さらには、効率的な農業経営ができるように、農機の稼働データや天候、土壌データの分析に基づいたアドバイスを提供し、収益リソースを拡大。
  • ナイジェリアで成功しているモデルだが、他の途上国においても資金面に課題を抱える農家が多く、適用可能なビジネスモデルだと思われる。

④次世代食品(植物肉、培養肉、昆虫食)

  • 高まる健康志向に加えて、世界的な人口増加や都市化に伴い拡大する食肉需要に対応するために、植物を原料とした代替品や培養技術を用いた培養肉、昆虫食など、次世代食品と呼ばれる新たなタンパク質源の開発が不可欠である。
  • 次世代食品の開発・販売に向けて、下表に示すように各社投資を進めており、一般消費者への浸透が加速していくとものと考えられる。

⑤流通プラットフォーム

  • 例えば、インドでは農家から小売店に農作物が渡るまで少なくとも6つの仲介業者が存在しているなど、新興国の多くはフードバリューチェーン上に複数の仲介業者が存在している。これによって品質の劣化や、高い手数料が上乗せされ、農家への利益は低いものの店頭では高値での販売が常態化していた。
  • この非効率を改善するために、インドのアグリテック企業、Ninjacartは農家から直接集荷し、小売店やレストランに販売するプラットフォームを開発。
  • Ninjacartのように組織的・近代的な中間流通のB2B向け農産物流通プラットフォーマーが、従来の個人事業主中心の非組織的・伝統的な中間業者に代わり新たな中間流通を担うことで、農作物流通が効率化することが期待されている。
  • インドEC最大手のFlipkartは、米国に本拠を置く親会社WalmartとともにNinjacartに2019年と2020年の2回に渡り出資しており、B2BのみならずB2Cに対する農作物流通も今後拡大していくものと見られる。

⑥パーソナライズサービス

  • ライフスタイルの変化等を背景に、食に対する価値観は多様化しており、個人の嗜好に合わせた食の提供や家庭での食事体験などのパーソナライズサービスが求められている。
  • 米国スタートアップ、Innitはレシピの提案から食材の調達、調理まで、調理に関わるプラットフォームとして機能している。
  • 食品メーカーのニチレイは、ユーザーの食の好みに基づき、AIを活用して作り置きレシピを提案するアプリ「conomeal kitchen(このみるきっちん)」を2020年11月より提供。データを活用することで商品開発の効率化やコスト改善が見込め、将来的には食嗜好のデータやデジタル化されたレシピを他企業に販売することも視野に入れている。

⑦フードデリバリー/⑧クラウドキッチン(ゴーストレストラン)

  • フードデリバリースタートアップの台頭とコロナウイルスの感染対策に伴うロックダウンの影響により、これまで消費者にとって料理を食べる場所であったレストランが料理を作る場所に変化しつつある。さらに、その作ることだけに特化した「クラウドキッチン(ゴーストレストラン)」という新たな業態が注目されている。
  • また、シンガポールのフードデリバリーPFであるGrabやDeliverooは現地で総合スーパー「Don Don Donki」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスと2020年12月に提携し、食料品や日用品のデリバリーサービスへとビジネス領域を拡大している。

本レポートのPDFは下記フォームよりダウンロードいただけます。

<お問合せ先>
山田コンサルティンググループ(株) シンガポール支店
global-support@yamada-cg.co.jp

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