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2021/02/10

テーマ: 03.海外

ミャンマー政変後のビジネスの留意点 ~アメリカ経済制裁とは何か~

目次

2月1日未明にミャンマーで軍がアウン・サン・スー・チー国家顧問及び複数のNLDの国会議員、党幹部らを拘束し、政権を掌握しました。これを受けて、アメリカのバイデン大統領はミャンマーに経済制裁を再び科すことを示唆したと伝えられています。

翌2日以降、現在(同月4日)までの段階では、現地の商店、飲食店、銀行も通常通り営業しており、また現地での目立った混乱は起きていないことから、当面のビジネス環境は確保されたといえるでしょう。また、発表された政変後の組閣においても、軍政ながらも経済開放に取り組んだテイン・セイン政権時の閣僚が複数任命されています。他方で、ミャンマーでの長期的なビジネスを考える上では、アメリカの経済制裁が行われた場合、日本企業としてもその影響を受ける可能性があります。この「経済制裁」とは、いったいどのようなもので、ミャンマーでビジネスを行う日本企業は、どのような点に気を付ければよいのか、以下検討します。

アメリカの経済制裁とは

The Office of Foreign Assets Control(OFAC・財務省外国資産管理室)は、特定対象国やテロリスト等によって米国の安全保障や外交政策等に脅威となる活動に関与した者に対する経済制裁や取引規制を行っています。

2016年10月以前のミャンマーへの経済制裁は、ビルマ制裁規則(BSR)を根拠としていました。具体的制裁措置は、それぞれの根拠法令に基づき、大統領令(Executive Order)により定められており、大統領の裁量が強いといえます。今後、ミャンマーに経済制裁を行うか否か、行う場合にどのような内容とするかは、バイデン大統領が決することになります。

包括的制裁プログラムと限定的制裁プログラム

① 包括的制裁プログラム

例えば、イランやキューバについては、概ね以下のような包括的制裁プログラムが課されていました。
✓ 資産凍結(対象国政府・対象国国民)
✓ 輸出入の原則禁止
✓ 対象国原産の商品・サービスの取引の原則禁止
✓ 対象国国内、対象国政府及び対象国国民との金融取引は原則禁止
✓ 10%以上の米国原材料を含む製品の対象国への輸出の禁止
ミャンマーについては、2016年10月の制裁解除以前においても、このような包括的制裁プログラムは、課されていませんでした。

② 限定的制裁プログラム

ミャンマーにおいては、2016年10月以前においては、US personが以下の行為を行うことができないという制裁が課されていました。
✓ ミャンマーへの新規投資の禁止
✓ ミャンマーへの金融サービス輸出の禁止
✓ ミャンマー原産の産品の米国への輸入禁止
✓ 「特定の者」との取引禁止、「特定の者」の資産凍結
上記の制裁措置は、ミャンマーでの民主化に伴って緩和され、2016年10月7日に原則的に解除されました。

誰の行為を禁止しているか(US Person)

上記の行為が禁止されるUS Personとは、以下の者を意味します。
✓ 米国籍や米国永住権を有する個人(米国外在住者を含む)
✓ 米国内の法令に基づいて設立された法人・団体
✓ 米国内の外国法人の支店・営業所・駐在員事務所
✓ 米国に居住・訪問している個人(国籍を問わない)
日本企業の多くは、上記のUS Personには該当せず、Non-US personに過ぎないため、対象国において取引を行ったことが直ちに制裁対象となることは通常ありません。
もっとも、Non-US personであっても特定の取引が制裁対象として米国の経済制裁規制の対象となる可能性もあるため、取引を行うにあたっては米国による制裁のリスクに留意しながら実施する必要があります。
また、対象国への送金がドル建てである場合、例えば送金銀行と着金銀行がいずれも日系銀行であったとしても、送金の過程で米国の銀行を経由する場合が少なからずあり、資金凍結のリスクが生じ得ます。

制裁対象者(SDNリスト)

次に、制裁対象者である「特定の者」については、SDN(Specially Designated Nationals)リストにおいて指定される制裁対象者(制裁対象者が50%以上の持分を有する組織を含む。)を言います。
誰が制裁対象者として指定されているかは、OFACのウェブサイトで検索することができます。

想定されるリスクと対応方法

今後、仮にミャンマーの特定の企業・団体や個人がSDNリストにおいて制裁対象者として指定されることとなった場合、以下のようなリスクと対応方法が考えられます。
1、ミャンマーでのJVパートナーが、制裁対象者に指定された。
2、ミャンマーの取引先が制裁対象者に指定され、送金することが困難となった。

上記1については、継続的に制裁対象者のリスト更新を確認するとともに、仮に制裁対象に指定された場合に、合弁契約上、どのような取り扱となるか確認する(これから合弁契約を締結する場合は、制裁対象者ではない旨の表明保証を入れる。)等の方法が考えられます。

上記②については、資金の送金に際し、経済制裁で資金が凍結された場合には、不可抗力として支払義務は不履行とならないという条項を入れること等が考えられます(2016年以前のミャンマーとの取引においては、このような規定を入れることが一般的でした。)。
なお、2015年に当時SDNリストに記載されていたAsia World Port Terminal (AWPT)社(ヤンゴン港のターミナルを運営し、同港の貨物の半数近くを取り扱っている。)の名称が陸揚げ港として取引書類に記載されている送金ができなくなる事態が発生し、現地で混乱が発生した例があり、必ずしも取引の直接の相手方が制裁対象企業でなくても、取引に影響が生じる場合があります。このような事態も想定して、契約書の文言は作成しておく必要があるといえます。

また、OFACが2019年5月にFramework for OFAC Compliance Commitmentsを公表し、企業がOFAC遵守のためにどのようなコンプライアンス体制を構築していくべきかについてのフレームワークを示しているため、これを参考に社内のOFAC遵守体制を検討していくことも有益です。

今後の留意点

米国は、軍政の動向を注視しながらミャンマーに対して経済制裁を課するかどうかの判断をしていくことになるものと思われます。また、状況次第では、今後、米国を含む各国において輸出規制措置の強化などの規制強化が検討されていく可能性も考えられます。
そのようグローバルでの規制環境の変化が、日本企業のミャンマーでの企業活動に具体的にどのような影響を与え、これを解決するために具体的にどのような方策を採る必要があるかについては、各国における規制の動向に精通した法律の専門家による検討を経た上で冷静に判断していく必要があるものと考えます。

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山田コンサルティンググループ株式会社

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(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)

TMI総合法律事務所 ヤンゴンオフィス

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