コラム
更新日:2026/01/23
テーマ: 02.M&A
M&Aにかかる費用を解説。相場・計算式・会計処理まで

M&Aには様々な費用が発生します。
今回は特に買手にかかる費用について詳しく記載します。
また、M&Aの対価の次に大きな費用となりうる仲介会社やアドバイザー費用についても解説し、
アドバイザーを利用するメリットやデメリットも紹介します。
目次
【買手】M&Aで発生する主要な4つの費用項目
M&Aにおいて買い手が負担するコストは多岐にわたり、案件の規模や複雑性によって変動します。予算計画を正確に立てるためには、主要な費用項目を把握しておくことが不可欠です。
主な費用は以下の通りです。
- ●対象企業のリスクや価値を調査するデューデリジェンス費用
- ●契約書作成や登記に関わる法務費用
- ●買収資金の調達に必要なファイナンス費用
- ●専門家の支援に対する仲介手数料・アドバイザー報酬
それぞれの費用の詳細と目安について解説します。
デューデリジェンス費用
デューデリジェンス費用は、買収対象企業の財務、法務、ビジネス面などを詳細に調査するために発生します。公認会計士や弁護士、コンサルタントなどの専門家に依頼するため、調査範囲や対象企業の規模に応じて金額は大きく変動します。
一般的に、ビジネスモデルが複雑な場合や海外企業が対象の場合、調査工数が増加し費用も高額になる傾向があります。買収後のリスクを低減するための投資として捉え、必要な範囲を見極めることが重要です。
法務および契約関連費用
法務関連費用には、法務デューデリジェンスに加え、最終契約書のドラフティングや不動産登記等の手続き費用が含まれます。M&Aの契約は将来の紛争を防ぐために高度な専門性が求められます。
特に、買収後の統合プロセス(PMI)において、取引先との契約見直しや許認可の承継手続きが必要となるケースも多く、これらにかかる弁護士費用や司法書士費用も予算に組み込んでおく必要があります。
資金調達に伴うファイナンス費用
買収資金を外部から調達する場合に発生するコストです。金融機関からの借入における利息はもちろん、多額の資金をシンジケートローン等で調達する際には、アレンジャーへの手数料が発生します。
また、上場企業が増資によって資金を調達する場合は、証券会社への引受手数料や、投資家向けの説明資料作成にかかるコンサルティング費用も必要となります。資金調達手法によってコスト構造が異なるため、早期のシミュレーションが求められます。
仲介手数料・アドバイザー報酬
仲介手数料とは、M&A仲介会社が提供するサービスの対価として支払う費用です。その費用の多くは成約時の成功報酬となりますが、初期調査報酬や月次コンサルティング報酬が発生する場合もあります。契約内容と対応範囲を理解しアドバイザーを選択することが重要となります。
仲介会社は、アドバイスの提供やスムーズな交渉のための支援、売手とのマッチングなど、多岐にわたるサービスを提供します。
アドバイザー報酬とは、FA(ファイナンシャルアドバイザー)へ支払う費用です。特に中堅中小企業より大きな規模のM&Aでは、買手と売手のそれぞれに別の会社がFAを利用することが多いです。FAは買手と売手のどちらかの利益を優先しながら案件の成約を目指します。
専門知識や経験、ネットワークを活用することで、買収の成功確率を高めることができます。事前に仲介会社との契約内容を確認し、コストとサービスのバランスを考慮することが重要です。
成功報酬の計算例
M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー(FA)に支払う報酬です。着手金、中間金、成功報酬などで構成され、特に成功報酬は取引金額に応じた「レーマン方式」で算出されることが一般的です。
■レーマン方式による成功報酬の計算例
取引金額が5億円までの部分・・・5%
取引金額が5億円を超え10億円までの部分・・・4%
取引金額が10億円を超え50億円までの部分・・・3%
取引金額が50億円を超え100億円までの部分・・・2%
取引金額が100億円を超える部分・・・1%
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<計算例:取引金額が12億円の場合>
①5億円(~5億円部分)× 5% = 2,500万円
②5億円(5億円~10億円部分)× 4% = 2,000万円
③2億円(10億円~12億円部分)× 3% = 600万円
上記①~③の合計5,100万円(=2,500万円+2,000万円+600万円)
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依頼する会社によって最低報酬額や料率テーブルが異なるため、契約前に総額の試算を行うことが推奨されます。
【売手】M&Aで負担すべき費用と税金
売り手企業においても、M&Aを円滑に進めるためには一定の費用が発生します。また、取引手法によって課税関係が異なるため、手取り額を正確に把握するには税金の知識も欠かせません。
主な費用項目は以下の通りです。
- ●仲介会社やFAへのアドバイザー報酬
- ●契約書確認などの法務費用
- ●株式譲渡や事業譲渡に伴う税金
アドバイザー報酬と法務費用
売り手も買い手と同様に、M&A仲介会社やアドバイザーへの手数料が発生します。特に売り手側のデューデリジェンスを実施する場合や、QA対応の支援を受ける場合は、その費用がアドバイザー報酬に含まれるか別途必要かを確認する必要があります。
法務費用については、秘密保持契約書や基本合意書、最終譲渡契約書のリーガルチェック費用が主となります。トラブル防止のため、自社側でも弁護士による確認を行うことが一般的です。
譲渡スキームによる税金の違い
M&Aの手法によって、課税される税金の種類や納税者が異なります。
・株式譲渡の場合
株主が個人の場合、譲渡益に対して20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)が課税されます。株主が法人の場合は、法人税等の対象となります。
・事業譲渡の場合
譲渡主体は法人となるため、譲渡益に対して法人税等が課されます。また、譲渡資産に消費税の課税対象資産が含まれる場合、買い手から消費税を受け取り納税する必要があります。手取り額を最大化するためには、スキームごとの税務シミュレーションが不可欠です。
具体的な税務相談や計算についてや税理士、公認会計士へ依頼しましょう。
M&Aコストを適正化する3つの手法
M&Aには多額の費用がかかりますが、工夫次第でコストを適正範囲に抑えることが可能です。ただし、必要な調査を省略することはリスク増大につながるため、バランスの取れた削減策が求められます。
効果的な3つの手法を紹介します。
- ●社内の専門人材を活用する内部リソースの活用
- ●事前に報酬体系を明確にする固定費用の交渉
- ●リスクの高い案件を早期に見極める対象企業の適正な評価
社内リソースの有効活用
外部専門家への依存度を下げることで、費用を抑制できます。財務や法務の知見を持つ社員がいる場合、初期的な資料収集や簡易的な分析を社内で実施することで、外部専門家の稼働時間を減らすことが可能です。
ただし、社内リソースのみで判断することには限界があり、客観性が損なわれるリスクもあります。重要な判断局面では専門家のレビューを受けるなど、役割分担を明確にすることが肝要です。
専門家費用・報酬体系の交渉
弁護士や会計士、コンサルタントとの契約において、報酬体系を事前に協議することも有効です。タイムチャージ方式ではなく、業務範囲を明確にした上で固定報酬(キャップ制)を設定することで、予算超過のリスクを防げます。
また、複数の仲介会社やアドバイザーから見積もりを取得し、サービス内容と費用のバランスを比較検討することで、適正な価格で契約できる可能性が高まります。
リスク評価による無駄なコストの削減
検討初期の段階で対象企業のスクリーニングを厳格に行うことが、結果的にコスト削減につながります。予備的調査で重大なリスクが疑われる案件を早期に見送れば、本格的なデューデリジェンスや契約交渉にかかる費用を発生させずに済みます。
適正な企業評価を行う能力を高めることで、成約確度の高い案件にリソースと予算を集中させることができ、M&A活動全体の投資対効果が向上します。
M&A費用の会計処理と税務上の留意点
M&Aに関連して支出した費用は、その性質によって会計処理が異なります。原則として「資産計上」か「発生時費用処理」かに分類され、企業の財務諸表に与える影響が変わってきます。
主要な論点は以下の通りです。
- ●株式取得の付随費用としての資産計上
- ●調査段階や検討中止時の経費処理
- ●買収差額としてののれんの処理
- ●税制優遇による負担軽減
詳しくは税理士、公認会計士に相談してください。
資産計上が原則となる取得関連費用
株式譲渡によって子会社化する場合、デューデリジェンス費用や仲介手数料などの「株式取得に直接要した費用」は、原則として取得原価に含まれ、資産計上されます。これらは損益計算書上の費用(経費)にはならず、株式売却時や評価損計上時まで費用化されません。
ただし、連結財務諸表上では、取得関連費用は発生した事業年度の費用として処理される基準となっているため、単体決算と連結決算で処理が異なる点に留意が必要です。
発生時に費用処理可能な項目
M&Aの意思決定を行う前の情報収集費用や、市場調査費用などは、発生時の経費として処理できる場合があります。また、最終的に成約に至らなかった案件(ブレイク案件)に関連して支出した費用も、一般的には経費処理が可能です。
どの段階からが「取得に直接要した費用」とみなされるかの判断は、税務調査でも論点になりやすいため、顧問税理士と相談の上、慎重に区分する必要があります。
のれんの計上と償却ルール
事業譲渡や合併において、買収対価が対象企業の純資産時価を上回る場合、その差額は「のれん」として資産計上されます。日本の会計基準では、のれんは20年以内の合理的な期間で定額償却され、毎期の費用となります。
一方、株式譲渡の場合は、連結決算においてはのれんが発生しますが、単体決算では子会社株式として計上されるため、のれんの償却費は発生しません。この会計処理の違いは、買収後の利益計画に大きく影響します。
税制優遇措置の活用
近年、事業承継や生産性向上を目的としたM&Aを促進するため、国による税制優遇措置が設けられています。例えば、「中小企業事業再編投資損失準備金」制度では、株式取得価額の一定割合(最大70%)を準備金として積み立て、損金算入することが可能です。
また、不動産取得税の軽減措置などが適用できるケースもあります。これらの制度を活用することで、M&Aに伴うキャッシュアウトの実質的な負担を軽減できるため、適用要件を事前に確認、税理士公認会計士に相談することが重要です。
M&Aの費用対効果を高める成功事例3選
M&Aには多額の費用がかかりますが、それを上回るリターンを得ることで企業の成長は加速します。ここでは、積極的な投資(費用)によって大きな成果を上げた日本企業の事例を3つ紹介します。
【リクルート】1,300億円の投資でグローバル成長を実現
リクルートは2012年、米国の求人検索サイト「Indeed」を約1,300億円で買収しました。当時、この買収額は高額であるとの見方もありましたが、結果的にリクルートのグローバル展開を決定づける重要な投資となりました。
買収後、リクルートのHRテクノロジー事業は急成長し、2019年には売上高3,269億円を記録するまでに拡大しています。初期費用としての投資額は巨額でしたが、長期的な視点での費用対効果が極めて高かった事例と言えます。
【ソフトバンク】1兆円超の巨額買収でシェア拡大
ソフトバンクグループは、2006年に英ボーダフォンの日本法人を約1兆7,500億円で買収しました。当時、携帯電話事業でのシェア拡大を目指していた同社にとって、既存のインフラと顧客基盤を一挙に獲得するための決断でした。
巨額の買収費用と有利子負債を抱えることになりましたが、その後のiPhone導入や積極的な販売戦略により業績をV字回復させました。時間を金で買うM&Aによって、短期間での市場地位確立に成功した事例です。
【楽天】連続的な買収による経済圏の確立
楽天は創業以来、積極的なM&A戦略で事業ポートフォリオを拡大してきました。2003年には、宿泊予約サイトのマイトリップ・ネットを323億円、DLJディレクトSFG証券を約300億円で買収し、現在の「楽天トラベル」や「楽天証券」の基盤を築きました。
それぞれの買収費用は数百億円規模ですが、EC、金融、旅行といったサービスをID連携させる「楽天経済圏」の構築に貢献しています。個別のM&A費用を、グループ全体の顧客生涯価値(LTV)向上という形で回収・最大化している好例です。
まとめ
M&Aには、デューデリジェンス費用、法務費用、アドバイザー報酬など、多岐にわたる費用が発生します。買い手と売り手で負担する項目が異なり、会計・税務処理も複雑です。
- ●費用の把握:DD、法務、FA報酬などの予算化
- ●コスト管理:内部リソース活用や固定費交渉
- ●会計税務:資産計上と経費区分の適正処理
これらを正しく理解し、計画的に進めることで、M&Aの成功確率は高まります。また、各種税制優遇の活用や、専門家との適切な連携も、費用対効果を最大化するための重要なポイントです。
監修者情報
山田コンサルティンググループ株式会社
コーポレートアドバイザリー事業本部
企画室
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