事業承継の基礎知識 3. 社長が取り組む相続対策

社長に相続が発生した場合、相続財産は自社株式だけではなく、会社への貸付金や、事業にかかわる不動産なども該当します。可能な限り正確に現状を把握し、相続対策は「税金」「遺産分割」「納税資金」の視点を持って実行の妥当性を確認しましょう。 相続税を少なくしようとして高額な不動産を買い込んだとしても、それが遺産分割や納税資金という視点に立った時、有効に働かないこともあります。同様に、自社株式の承継などもかかわっている相続の場合、遺産分割と納税は大きな課題です。 後継者である相続人が相続税評価額の大きな自社株式を相続すると、相続財産全体に占める各人が取得する相続財産の割合がどうしても偏ります。後継者である子ども一人が多額の財産を相続してしまえば、ほかの相続人たちが納得できず、争いに発展することもあるでしょう。一方で、換金できない自社株式を相続した後継者は、納税に苦しむことになります。 対策としては、生命保険契約や死亡退職金の活用が考えられます。「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、あらかじめ指定された後継者が固有の財産として現金を受け取ることができるため、「税金」「遺産分割」「納税資金」のどの視点からでも有効な手法です。また、遺留分の問題については「民法の遺留分に関する特例」が整備されているので、選択肢の一つとして内容を把握しておくべきでしょう。

3-6. 「遺留分の特例」を活用した事業承継

 

①経営者の相続における遺留分の問題

複数いる相続人のうちの1人が後継者で、自社株式が現経営者の資産の多くを占めるような場合、贈与や相続で後継者が自社株式を集中的に取得すると、他の相続人から「遺留分」の減殺請求をされる可能性がある。
兄弟姉妹以外の相続人には最低限の相続分として遺留分が認められている。

例えば、子が2人いて、後継者である子1人にすべての財産を相続させると、他の子の遺留分を侵害することになり、財産を相続できなかった子は後継者に対して遺留分の減殺請求をすることができる。
生前に財産を贈与したとしても、それが他の相続人に不利益となることがわかったうえで行われた贈与だった場合、その贈与財産も含めて遺留分の計算が行われる。

つまり、後継者が自社株式の贈与を受けて会社を引き継ぎ、経営努力によって会社を発展させればさせるほど、自社株式の評価額が上がり、現経営者の相続のときに相続財産に占める自社株式の比率が増えて、他の相続人の遺留分を侵害する可能性が高まることになる。

②中小企業経営承継円滑化法の「民法の遺留分に関する特例」の概要

中小企業経営承継円滑化法においては、遺留分が円滑な事業承継を妨げることがないよう、「民法の遺留分に関する特例」が規定された。中小企業の後継者が自社株式の議決権の過半数を先代経営者から民法の遺留分の制約を受けずに承継できるように、一定の要件を満たす場合には遺留分算定の基礎となる財産に算入する自社株式の範囲や価額について特例を認めた。

1つは、自社株式を遺留分の対象から外す「除外合意」、もう1つは、相続時の自社株式の評価額を贈与時点のものに固定する「固定合意」である。

③民法の遺留分に関する特例「除外合意」の概要

「除外合意」とは、先代経営者の生前に、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分が認められる人(遺留分権利者)全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで、先代経営者から後継者へ生前贈与された自社株式その他一定の財産について、遺留分算定の基礎となる財産から除外できる制度をいう。

除外合意を利用すれば、自社株式は遺留分算定の基礎となる財産の対象から外れ、それ以外の相続財産を相続人で分割すればよいことになる。
これにより、事業継続に不可欠な自社株式等に係る遺留分減殺請求を受けることを未然に防止することができ、自社株式が分散してしまうことを回避することができる。

④民法の遺留分に関する特例「固定合意」の概要

先代経営者から後継者に自社株式の贈与をした後、後継者の貢献により株式価値が上昇した場合、遺留分の算定に際しては相続開始時点の上昇後の評価でされてしまうため、後継者の会社経営の意欲を低下させてしまう可能性がある。

「固定合意」は、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることで、遺留分の算定に際して、生前贈与株式の価額を当該合意時の評価額で予め固定できる制度である。
この「固定合意」を利用すれば、相続時に自社株式が値上がりしていても、値上がり分の相続税は考慮しなくていいことになる。

⑤民法の遺留分に関する特例の適用を受けるための手続

特例を利用するには、現経営者の生前に遺留分を持つ人全員が合意することが必要であり、そのためには、自社株式以外の資産を相続させるといった遺産分割案を提示するなどして、納得してもらうことが必要となる。
合意が得られたら、その内容を書面にする。

後継者は、その合意から1ヶ月以内に、合意の内容の合法性につき、経済産業大臣に確認の申請を受ける。
さらに、その確認後1ヵ月以内に家庭裁判所に許可の申立てを行い、この家庭裁判所の許可を受けて、はじめて「除外合意」または「固定合意」の効力を認められることになる。

 
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