お問い合わせ

海外ビジネス情報

2020/11/26

テーマ: 03.海外

日系企業がベトナムでM&Aを行う際の留意点

POINT
日系企業の進出が盛んなベトナムですが、市場参入に際して既存のベトナム企業の株式を取得するケースが増えています。アジアでのM&Aは難しいとされる中、ベトナムにおいて留意すべき点はどこなのか、ポイントをまとめてご紹介します。

1.M&Aに関する動向

近年ベトナム市場へ参入するために、既存のベトナム企業の株式を取得する日系企業が増えています。日系企業がベトナム企業へ出資する場合、約7割のケースがマイナー出資からであり、最初からマジョリティーを取りに行くケースは、約3割にとどまっています。当初マイナー出資を行い、徐々に買い増すケースも見られます。例えば、大正製薬はベトナム南部の製薬大手ハウザン製薬に32%出資していましたが、その後34.3%まで買い増す計画を発表しています。

日系企業以外のベトナム投資の動向を見ると、シンガポール系の投資ファンドからの出資と財閥系を中心としたタイからの出資が多くみられます。特にタイからの出資は、タイ・ビバレッジからベトナムビール製造最大手のサイゴンビールへの出資のほか、家電量販店などの好調なベトナムの内需消費市場を狙った出資が目立ちます。一方で、タイの投資ファンド、トンポー・タイランド・ファンドは、デジタル機器販売店テーゾイ・ジードン、家電量販店ディエン・マイ・サイン、小型スーパーマーケットバック・ホア・サインの3業態を展開しているテーゾイ・ジードン投資(MWG)の持分を2018年に売却をしています。このように、株価の上昇に伴ってファンドがイグジットするケースもみられるようになりました。
また、ベトナムの大きな特徴の一つとして国営企業の多さが挙げられます。国営企業の民営化・株式会社化*1により、多くの元国営企業の株式が民間へ放出されています。また、業種にもよりますが、経済規模に比して現地企業数が無数に存在するという特徴も有しています。これはもともと物流が整備されていなかったことなどに起因する場合が多く、例えば、製薬会社では1省市に1企業(1メーカー)存在し、医薬品を行っている企業だけでも
100社を超えます。

*1 .本レポート中段「. TOPIC.1 国営企業への投資・買収」を参照。

2.出資やM&Aを実施する上での留意点

買収を行う前のデュー・デリジェンスにおいて、法務、財務・税務面などで問題が見つかることが多くあります。例えば、法務面では、株主が適切に登記されていない(頻繁に株主変更がなされたため、登記が途中までしか行われていない)などが見られます。この場合、日系企業が買収後に投資局に対して登記変更の手続きを行ったとしても認められないため、買収前に最新の株主名簿に従って登記を直してもらうことになります。このように、買収前に売主側に是正を求める必要がある事項が多数出てくることも多く、デュー・デリジェンスによる問題把握がより重要です。そもそも、ベトナム企業側がデュー・デリジェンスとは何かを理解していないことも多く、デュー・デリジェンスをいざ開始しようとすると、途端に案件がストップしてしまうケースも存在します。

ベトナム企業にとっては、昨今は売手市場であり、極めてタイトなスケジュールでの払込みが求められるケースや、デュー・デリジェンス前でのデポジットを求めるケースも見られ、強気のスタンスで臨んできます。それは株式の希望売却額にも現れており、株価収益率(P/E)から考えると非常に割高であるケースが散見されます。市場成長性や事業計画を背景に決断を急かすブローカーも数多くいます。また、ベトナム企業同士でのM&Aの場合、デュー・デリジェンスなどはほとんど行われずに日系企業からすると信じられないようなタイムラインで手続きを終えているような事例も見受けられます。こうした当たり前のプロセスや論理が通じにくい取引環境において、慣れない外資企業が入り込んで買収を行うのは大変難しいものです。

 

買収後を想定した場合の事業面の留意点としては、顧客との関係性のチェックも重要です。ベトナムでは社長自らが営業を行うことが多くあります。買収後、社長を交代させた結果、顧客も離れていくケースが多くあり、既存顧客がどの程度買収後も継続顧客として確保できるのかの見極めもポイントとなります。

次に、出資時の手続*3に関してもいくつか留意点があります。現地企業を買収する場合、外貨では買収することができず、ベトナムに外貨とベトナムドンの非居住者口座を開設したうえで、ドン建てで買収することとなります。ベトナムにはハノイとホーチミンの証券
取引所に双方合計で約700社が上場しており、加えて店頭公開企業(UPCOM)もあります。これらの上場企業やUPCOM企業に出資をする場合、カストディライセンスを持つ金融機関を通じた出資が必要です。日系メガバンクがハノイとホーチミンに支店を設けていますが、カストディライセンスは有しておらず、日系以外の外資やベトナムローカルのカストディライセンスを持つ金融機関を通じた出資をしなくてはなりません。カストディ口座の開設や手続きには2週間から1カ月程度の期間を要するため、早めにベトナム企業が上場やUPCOM企業かのチェックを行い、該当する場合は早めにカストディ口座の開設などの準備が必要となります。
*3.本レポート下段「TOPIC.2 譲渡対価の決済」を参照。

3.外資による出資規制緩和

政府は、2015年9月に議定60/2015/ND-CPを施行し、軍備や物流(航空、港湾、船舶などを含む)、人材派遣、銀行などの条件付き分野投資を除き、各社の判断で外資出資比率の上限を従来の49%から100%まで引き上げることが可能となりました。しかし、規制緩和から3年が経過した現在も、実際に外資出資比率の上限を撤廃した上場企業は一部の企業に限られており、外資上限を撤廃した企業は25社と全体のわずか3.4%にとどまっています。この中には、サイゴン証券や乳業最大手ビナミルク、食品会社PANグループ、ハウザン製薬、ビンミン・プラスチックなどの大手企業が含まれていますが、外資出資比率が実際に49%以上の企業は、現時点で8社のみです。

外資出資上限の撤廃が進んでいない要因として、以下のものがあげられます。

① ベトナムの上場企業は複数事業を行っており、その中に条件付き投資分野の事業が含まれていることが多くあり、ベトナム企業がその条件付き投資分野の事業ライセンスを削除しない限り、外資としてマジョリティーを取ることができません

② 外資出資上限を引き上げる場合には、会社定款の変更が義務付けられており、株主総会で出席者の75%の承認を得た上で変更を行う必要があるなど手続きが煩雑です。また、優良企業であれば、基本的に定款で定められた上限まで外資の資本が入っており、外資出資比率の引き上げに向けた定款変更のために開いた株主総会でベトナムの投資家から抵抗を受けるケースもあります

現在、証券法の改正が議論されており、外国企業による投資の上限も論点となっています。今回の改正では、条件付き投資分野についても、国際条約や他の法令で具体的に出資上限が規定されているものを除き、外資が100%出資することが可能になるとみられています。

TOPIC1 国営企業への投資・買収

2016年1月の第12回党大会以降、政府は国営企業の再編加速の方針と施策を相次いで打ち出し、多数の国営企業の具体的な再編ロードマップや、株式化済みの企業における政府資本売却計画を示しました。タイの飲料最大手タイ・ビバレッジが国営ビール大手サイゴンビール・アルコール飲料総公社の株式54%を48億米ドルで取得した事例や、シガポールの自動車販売会社ジャーディン・サイクル・アンド・キャリッジが乳製品製造大手ビナミルクの株式8%を9億米ドル超で取得した事例など、相次ぐ大型案件が注目を集めています。
1990年代初頭におよそ12,000社あったとされる国営企業は、2018年には500社程度*2に減少し、将来的に約100社にまで減少するとの政府関係者の見通しも報じられています。

2019年8月15日付首相決定26/2019/QD-TTgでは、国営企業の株式売却に関する計画が公表されました。当該計画によれば、リストアップされた93社の各国営企業につき、政府の出資比率を何%まで引き下げるのか、具体的に示しています。政府出資比率を65%以上とする企業は、ベトナム農業農村開発銀行[AGRIBANK](Agribank)、ベトナム石炭鉱産ループ[VINACOMIN](Vinacomin)、北部食糧総公社(Vinafood 1)、トゥア・ティエン・フエ鉱産(Thua Thien Hue Mineral Corporationの4社となり、政府出資比率を50~65%未満とする企業は62社で、モビフォン(MobiFone)、ベトナム郵便通信グループ(VNPT)、トナムコーヒー総公社(Vinacafe)、ベトナムセメント産業総公社(VICEM)、ハノイ輸送総公社(Transerco)などがあります。政府出資比率50%未満とする企業は27社で、ベトナム住宅都市開発グループ(HUD)、ベトナム製紙総公社(Vinapaco)、第1発電総公社(EVN Genco 1)などが含まれます。

こうした背景のもと、日本企業からの出資が期待されています。他方、実際に投資を行にあたっては、ベトナム国営企業、元国営企業に適用される法令、固有の手続き、それを取り巻く状況を適切に理解して臨むことが重要です。

*2.ベトナム政府の国営企業の定義は「政府が100%所有する企業」であり、政府が直接的・間接的に支配所有を行う企業は依然として3,000社程度あると言われています。

<国営企業、及び元国営企業への投資に対する留意点>
株式化の手続きの大まかな流れは以下の通りですが、国営企業への投資を進める上で特徴的なものとして、企業価値算定機関による価値評価という手続きがあります。この価値評価の根拠が不明確であり、合理的な範囲を超えて高い価値が付けられるということがしばしば問題となります。

株式化の手続の概要
1. 株式化及び株式処分を承認する旨の首相決定
2. 所管官庁による「株式化委員会(Steering Committee)」の設置
3. 企業価値算定機関による価値評価
4. 首相又は所管官庁の代表等による株式化計画の内容決定
5. 戦略的投資家の募集及び決定
6. 一般投資家向けの公開入札(「IPO」と呼称される)、戦略的投資家への株式売却(戦略的投資家が選定された場合)
7. 第1回株主総会開催(定款の承認)、株式会社としての事業登録、資産の引き渡し(この7.をもって「株式化」が完了したとされる)
8. VSD(ベトナム証券保管振替)への登録完了、Upcom市場への上場申請
9. ハノイ証券取引所、ないしホーチミン証券取引所への株式上場

また、元国営企業(株式化手続完了後、政府出資比率が過半以上を占める企業)の株式取得に関しては、2018年3月8日公布の政令32号で最低譲渡価格についてのルールが定められています。これは、「株式評価機関の株式評価額」と「売却公表日の直近30日の平均株価」の高い方を「最低価格」とし、市場売却の場合、当日の証券取引所の取引可能価格帯の範囲内かつ、「最低価格」以上で行われる必要があります。現行の法令下における評価方法はベトナム政府側に極めて有利なものになっていること、評価機関はベトナム政府によって選任され、ベトナム政府に有利な評価結果が出やすいことなどから、上記の「最低価格」が市場取引価格帯の範囲に収まることは稀といえます。また、公開入札が行われる場合の具体的な手続は、ケースバイケースであるものの、投資家がデュー・デリジェンスを十分に行うための時間や情報開示がなされないことや、株式譲渡契約書や株主間契約書等の条件交渉が十分にできないことが懸念されています。公開入札が行われるとしても、実際には、水面下で相対交渉を進め、ある程度の情報開示や契約書の条件交渉を行うことができる可能性はありますが、これらの点は、ベトナム国営企業への投資を検討する日本企業にとっては大きな障壁になります。

TOPIC2 譲渡対価の決済

譲渡対価の決済時に、以下の点に留意する必要があります。資金フローを間違えると、株主(出資者)情報を変更できない、譲渡代金を送金できないといったトラブルにもなりかねません。

まず原則として、居住者・非居住者を問わず全ての取引について、支払、価格の合意等は外貨で行うことができないとされています。したがって、株式譲渡における売買価格等の決済条件をベトナムドンで合意し、契約書上もベトナムドンにて表記する必要があります。次に、規制上、決済口座が定められています。外資によるマイノリティ投資の場合は買主が開設した間接投資資本口座(Indirect InvestmentCapital Account、通称IICA)、マジョリティー投資の場合は対象会社名義の直接投資資本口座(Direct Investment Capital Account、通称DICA)を通して売買代金を決済する必要があります。

また、ベトナム国内の外資企業を買収する場合、外資企業同士の売買であっても対象企業の保有する直接投資資本口座経由で譲渡代金を決済することになります。当局からベトナム国内の銀行口座への送金書類や残高証明書を求められるため、一度ベトナム国内へ送金することが求められます。
トラブルを避けるためにも、早めに決済銀行及び当事者間で資金決済フローを確認しておくことが肝要です。

<お問合せ先>
山田コンサルティンググループ(株) 海外事業本部
YAMADA Consulting &Spire Vietnam Co., Ltd.
asean-support@yamada-cg.co.jp

【メールマガジンご登録のご案内】

a419e6a0960f0a07cb640db2b55c90d6