海外ビジネス情報
2022/11/08
テーマ: 03.海外
タイの産業用・医療用大麻の規制に関する最新情報 2022年9月版
世界の大麻市場は、今後数年間にわたって大きく成長することが見込まれている。大麻の誤用についてはいまだに多くの議論があるものの、様々な効果が証明されていることから、全体としては大麻合法化の気運が高まっている。
タイでは、2019年から医療目的での大麻使用が認められ、2021年からは、商業目的でのヘンプやCBDの加工が認められている。
タイのヘンプ産業は、規制や管理が緩和され、民間の投資に開放されているため、大きな投資機会がある。外国人投資家は、条件付きで参入することができる。条件をクリアするためには、現地のパートナーが必要となる。
目次
世界の大麻市場動向
近年世界では大麻の合法化が進んでいる。現在多くの国で医療目的での大麻の使用が認められており、中には娯楽目的での使用を認める国もある。
世界の大麻市場は、今後数年間にわたって著しい成長を続けることが予想される。主な成長要因は、大麻の合法化の流れや研究開発投資の増加である。また、娯楽用大麻の使用も成長に寄与すると思われるが、こちらについては厳しい規制に加えて、健康への悪影響や管理方法の効率性に関する様々な議論があるため、 一部の国に限られている。
大麻市場の概要

世界の50カ国以上が何らかの形で医療用大麻を合法化しているほか、カナダ、南アフリカ、ウルグアイ、メキシコなど成人の娯楽用大麻を合法化している国もある。
2018年にカナダが娯楽用大麻を合法化し、米国でも徐々に娯楽用大麻の合法化が進んでいる。こうした状況を受け2018年以降、北米が世界の大麻市場の90%以上のシェアを占めている。その他の市場としては、欧州諸国やオーストラリアなどがある。
アジア太平洋市場の成長要因は、東南アジアにおける医療用大麻の研究が活発になっていることにある。
タイは2017年にASEAN諸国で初めて大麻を合法化した。ただし、使用は研究目的に、栽培は政府機関に限定されていた。2019年には、医療目的での大麻の使用が認められるようになった。その後、麻薬取締法が改正され、ビジネスチャンスにつながるヘンプの使用がより広く認められるようになった。
マレーシア、シンガポール、フィリピンなど他のASEAN諸国においても医療用大麻の合法化に向けた動きがある。
医療用大麻
医療用大麻市場は、大麻の合法化、研究開発の活発化、慢性疾患の増加などの要因により、今後数年間で成長が加速することが見込まれる。
世界保健機関(WHO)は、向精神作用成分のテトラヒドロカンナビノール(THC)の含有率の低いCBD(カンナビジオール)を、国際条約で定められている最も危険な薬物分類から削除する勧告を出した。これが大麻の合法化の促進やCBDを主成分とする医薬品の需要増につながると考えられる。

産業用ヘンプ
世界ヘンプ市場は、CBD需要の高まりやヘンプの用途の幅広さを主な要因として、今後数年間、力強く成長することが予測されている。
製品別にみると今後もパーソナルケア、化粧品、食品・飲料が、世界ヘンプ市場の主流であり続けるものと思われる。ただし、どのヘンプ製品の需要が高いのかについては地域によって異なる。

タイにおける大麻市場
医療用大麻
2020年のタイの医療用大麻の市場規模は約15億バーツで、世界市場に占める割合はわずかに1%未満とまだ非常に小さい。タイではまだ、患者を対象とする臨床研究・試験の初期段階にあるためである。
国内での医療用大麻の需要は、患者数の増加や製品の普及に伴って、高まることが予想される。しかし、規制が厳しく、民間企業に完全に開放されているわけではないため、製造コストが高くつき、供給不足に陥る可能性がある。
タイにおける医療用大麻の市場動向

2020年には、12万人近くの患者が大麻医薬品による治療を受けた。医療用大麻は、主に3つの疾患(がん、てんかん、多発性硬化症)の治療に使用されている。
カセ―トサート大学によると、2020年のタイの医療用大麻の市場規模は約15億バーツ(約4,900万ドル)だった。2021~2025年の年平均成長率は約30%、2025年の市場規模は57~80億バーツに達すると見込まれる。
2019年に医療目的での大麻の使用が認められるようになってから、処方を登録する病院やクリニックが増えている。これにより、大麻の医薬品による治療を受ける患者も増えている。
医療用大麻の生産は限られた機関にのみ認められている。民間企業による栽培や抽出への直接投資は、2024年まで禁止されている。このことが、医療用大麻の供給不足を招く可能性がある。
市場の成長を阻害する主な要因としては、規制が厳しいことや規制に関する先行きが不透明であることなどがあげられる。また、法律で厳しく管理され大麻の取り扱いが複雑であることやタイ国内の種子の品質がよくないことが、医療用大麻の価格に影響する恐れがある。
タイでは、医療用大麻の品質、有効性、安全性を確保することを目的として、川上から川下にいたるまでのサプライチェーン内のすべてに透明性やトレーサビリティーが求められる。そのため、政府系機関や認可を受けている研究・医療機関だけがサプライチェーン内の活動を行うことが認められている。
現在サプライチェーン内の活動に従事する組織の数が増えているが、その中で、タイ政府製薬公社(GPO)とアバイブベジャール病院は、医療用大麻の加工の大部分を担っている。一方、タイ伝統医学治療を行う公立病院は、大麻の医薬品の供給・流通の大部分を担っている。

産業用ヘンプ
世界的動向とは異なり、タイのヘンプ市場は、規制緩和や政府の積極的な支援により、医療用大麻よりも大きく成長すると考えられる。
タイのヘンプ市場規模は、2025年に約158億バーツに拡大すると予測される。メーカーの迅速な対応とヘンプの健康効果に対する消費者の関心の高さから、ヘンプ由来製品市場では食品・飲料が主流となるものと見込まれる。
タイにおける産業用ヘンプの市場動向

Krungsri Research社の予測によると、タイのヘンプ市場は、2021年から2025年にかけて年平均成長率が126%と極めて大きな成長を遂げ、2025年には約158億バーツになる。
2025年には食品・飲料が、タイの産業用ヘンプ製品市場の80%以上のシェアを占めると予想される。
2021年の初めに商業目的での使用が認められたヘンプは、投資家の圧倒的な関心を集めており、そのことが市場の需要に影響を与えている。
高付加価値で多様な用途があり、成長の可能性があることから、様々な業界の投資家がヘンプ事業に関わる機会を狙っている。CBDエキスを配合した新製品の開発計画を発表した大手飲料メーカーをはじめ、食品・化粧品・栄養補助食品などの新たなビジネスチャンスを求めるメーカーが続出している。
需要面では、消費者の健康志向の高まりに加えてヘンプに含まれる豊富な栄養成分に対する認知度が上がっていることが、市場の成長を促進すると考えられる。
2021年の年末から2022年の年始にかけて、複数のヘンプ製品が発売されたが、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、購買力が制限され、投資、製品の発売、新製品のマーケティングに遅れが生じた。
ヘンプ産業のサプライチェーン
工業用・商業用のヘンプ生産が認められ、民間企業がヘンプ産業のサプライチェーン全体に関与することも認められている。
タイのヘンプ産業は発展の初期段階にある。研究開発は、種子の開発から新製品の開発までサプライチェーン全体にとって重要である。市場の安定、十分な供給量の確保、関連技術の獲得などを目的に、サプライチェーン内の企業間パートナーシップが広範に行われており、今後増加することが見込まれる。

ヘンプの特性や効果は、事業の多様化を図りたいと考える多くの投資家の注目を集めている。2021年の初めから、多数の大企業がヘンプを使った新製品を開発する意向を表明している

大麻製品
大麻の葉、茎、根がタイの麻薬リストから正式に削除されて以来、多くのレストランやカフェが大麻を使った料理をメニューに加えている。
製造業では、製品開発プロセスが増えたこと、規制が策定されたこと、FDAへの製品登録の必要があることなどから、製品の発売が遅れている。2022年の初めにはいくつかの食品や化粧品が発売されている。
ヘンプ産業への投資機会
ヘンプの持つ様々な特性・効果や幅広い用途は、食品・飲料、栄養補助食品、医薬品、化粧品、繊維製品、建設資材の製造、様々な産業に大きな事業機会をもたらしている。
ヘンプの種子(シード)やCBDエキスは、付加価値の高い数多くの最終製品に応用できるため需要が高い一方、ヘンプの繊維やハードの加工は、他の素材と比較して競争力が低いために市場が小さく、事業の取り組みもまだ限定的である。

タイ政府は、国内のヘンプ産業のサプライチェーン全体の推進に積極的に取り組んでおり、商業生産を可能にするための法改正、農家への栽培奨励、国内企業を保護するための輸入禁止措置を行っている。
タイのヘンプ産業の競争力向上につながる要因としては、税制上の優遇措置、地理的な優位性、生産コストの低さなどがある。

CBDやヘンプシードエキスなど高付加価値の川中製品は、資本、技術、専門知識を必要とするため、外国投資によるビジネスの可能性が高いと考えられる。
CBDやヘンプの抽出物に対する食品・化粧品業界からの需要は高いが、供給が追い付いていない。このことは、外国人投資家にとって大きな機会となる。
外国人投資家は、条件付きでヘンプ産業に参入することができるが、そのためには、現地のパートナーが必要となる。

主な課題
世界市場において、大麻に関する規制はまだ不確実性が高く、国や地域によって大きく異なる。このことが、大麻事業に投資する上での重要な課題となっている。

まとめ
世界の大麻市場は、今後数年間で大きな成長が見込まれている。大麻の誤用についてはいまだに多くの議論があるものの、様々な効果が証明されていることから、全体としては大麻合法化の気運が高まっている。
タイでは、2019年以降医療目的での大麻使用が、2021年以降商業目的でのヘンプやCBDの加工が認められている。
これにより研究開発、栽培、抽出・加工、関連の周辺ビジネスなどを含むタイの大麻のサプライチェーンは、大きな事業機会を生み出している。
医療用大麻については政府の規制によって厳しく管理されているものの、産業用ヘンプに対しては、規制や管理が緩和され、民間の投資に開放されている。
ヘンプは高付加価値で成長の可能性があることから、様々な業界の投資家が事業機会を狙っている。
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執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)
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