海外ビジネス情報
2022/11/08
テーマ: 03.海外
温室効果ガス排出量削減に向け、モーダルシフトに取り組むタイの動向
目次
モーダルシフトとは?

モーダルシフトの定義
モーダルシフトとは、輸送手段の切り替えや転換のことである。
特に利便性の向上、コスト・時間の節約、温室効果ガスの排出削減につながるような輸送手段への移行を指す。例えば、自家用車から公共交通機関へ、または道路輸送から鉄道・海上輸送への移行である。

タイにおける輸送手段の概要
貨物輸送

輸送手段別貨物量
2018年のタイの国内・国際貨物輸送量は、2016年比で、ともに増加した。しかし、2019年と2020年には、世界経済の減速と新型コロナウイルスの世界的大流行により、前年比で減少した。
タイの貨物輸送量を輸送手段別にみると、道路輸送が占める割合が56%と最も多い。一方、鉄道と航空が利用される割合は少ない。
国内貨物輸送を輸送手段別にみると、道路輸送がほぼ80%を占めている。要因としては、道路はインフラが充実していること、迅速に輸送できること、利便性が高いことに加えて、鉄道などその他の輸送手段があまり発達していないということがあげられる。
国内貨物輸送の2010年と2020年を比較すると、以下の3つの重要な変化が起こっていることがわかる。
‐インフラ整備が進み、沿岸部の貨物が増加した
‐道路貨物が微減した(要因:顧客の他の輸送手段へのシフト)
‐鉄道貨物が減少した(要因:サービス品質の低下)

旅客輸送

国内輸送手段別旅客数
タイ国内旅客輸送は、2015年から2018年にかけて前年比で毎年微増だったが、2019年は道路輸送の減少により低下した。
タイ国内旅客輸送は、道路が60%を占めている。タイでは道路が最も充実した交通インフラであり、他の公共交通機関よりも道路を利用して移動する方が便利である。
鉄道は、旅客輸送の中で25%を占め、2番目に多く利用される交通手段である。インフラの整備に伴って2015年以降旅客数は増加している。
主要輸送手段別インフラ
道路:
2022年現在のタイの道路網は、702,965kmに及び、最も充実した交通インフラだと考えられている。
各地域の主要な道路インフラは、内務省地方自治振興局が所管し、その割合は総延長距離の約85%を占める。
鉄道:
2020年現在のタイの鉄道網は、総延長距離4,997kmである。
単線が最も大きい割合を占め(総延長距離の80%)、次いで複線、トリプルトラック(単線×3)となっている。
バンコク首都圏では、都市間鉄道が最大の割合(96%)を占め、残りは電車が占める。
港湾:
2020年現在のタイの港湾数は、1,199である。約99%は国内港と河川港、残りの1%が国際港である。
海上輸送の中心は国際港である。主な国際港としてはバンコク港、レムチャバン港、マプタプット港がある。
空港:
2021年現在のタイの空港数は、国内線向けが27カ所、国際線向けが11カ所の合計38カ所である。
旅客数、貨物量ともに最大を誇るのはスワンナプーム空港である。
タイにおけるモーダルシフトの主な要因
タイには、モーダルシフトを推進する多数の要因やメリットがある。しかし、政府がモーダルシフトを推進する最大の理由は、運輸セクターからの温室効果ガス排出量を削減することである。
運輸統計によると、タイでは貨物・旅客ともに道路が主要な輸送手段であり、このことが運輸セクターの排出量の多さにつながっている。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の2020年のタイに関する報告書(2020)によると、2016年のエネルギー分野における排出貢献量のうち、運輸セクターの貢献度は27%(68.3 MtCO2eq)と2番目に多く*、運輸セクターの中では道路輸送が排出の主要因であった。
モーダルシフトの推進により、道路輸送量を減らすことで、排出量の削減をもたらすことが期待できる。

タイ政府が参加している気候変動の国際協定・枠組み
地球温暖化や気候変動の影響が懸念される中、多くの国際機関が環境問題に対して意欲的な取り組みを実施している。環境問題を引き起こしている要因は主に人間の活動であることから、そうした人間の活動を防止、削減、制限するために、各国間で複数の協定や枠組みが導入されている。
タイとしても環境問題に対応するため、さまざまな協定や枠組みに参加している。

運輸セクターの温室効果ガス排出削減に向けた政府の計画
タイは、他の国々とともに気候変動に関する複数の国際協定・枠組みに参加しており、それらの目標達成に向けて、主なガイドラインとして掲げる気候変動マスタープラン2015-2050をはじめとするさまざまな取り組みを開始している。
排出量削減目標達成の効果が高いとみられることから、特に国が注力しているセクターが4つある。関係政府機関の主導で、それら4つのセクターに対するNDCアクションプラン2021-2030が実施されている。

モーダルシフト

モーダルシフトに関わる主な組織・事業者

モーダルシフトに関わる法規制
タイのモーダルシフトの流れを受けて、タイ人以外が株式の半分以上を保有する外国企業が特定の事業活動を行う場合、外国人事業法B.E.2542(1999年)の規定に基づく制限があり、定められた手続きに厳密に従う必要がある。
外国人の禁止職業に関する労働省の通達B.E. 2563(2020) は、外国人労働者がタイで特定の職業に就くことを禁じている。
ただし例外的に、タイで外国企業が事業を行ったり、外国人労働者が職業に就いたりすることが認められるケースもある。

外国人事業者が公共交通機関のインフラ整備事業に従事するにはいくつかの制約がある。
建設業の場合、特定の建設プロジェクトは、提案書を提出する前に財務省の会計検査院に登録することが義務付けられている。しかし関連規定によれば、外国企業はこの登録ができない。
関連するコンサルティングサービスの場合、提案書を提出する前に財務省のコンサルタント・データベース・センターへの登録が必要だが、登録できるのはタイ国籍企業のみである。

タイにおけるモーダルシフトの課題
タイはアクションプランに従ってモーダルシフトを推進しているものの、さまざまな課題があるため、鉄道や海上を中心とする輸送手段への移行は計画以上に時間を要することが予想される。

タイにおけるモーダルシフト関連のビジネスチャンス
タイ政府はモーダルシフトを推進しており、国内外の関連事業者がタイでのモーダルシフトを成功に導く重要な役割を担う余地は大いにある。

まとめ
タイでは、 交通渋滞、コスト、温室効果ガス排出などに関わる問題がモーダルシフトの主な推進要因となっている。
排出量削減に関する国際協定・枠組みに参加し、排出量の削減目標を掲げるタイ政府は、運輸セクターにおいて主に道路輸送から温室効果ガスが排出されていることを認識している。このため、道路から鉄道や海上へのモーダルシフトによって輸送セクターの排出量を削減することで、目標の達成につなげたいと考えている。
様々な交通インフラプロジェクトに関わるタイ政府機関がNDCアクションプランを実施しており、タイ国内外の主要な関連事業者にとってプロジェクトへの参加機会は豊富にある。
事業者は外国企業として登録することで参加機会を得ることができるものの、外国企業に対しては依然として障害や制約がある。このためプロジェクトの参加には、円滑に業務が進められるよう、専門コンサルティング会社と密接に連携する外国人の制限を受けないよう、タイ資本の企業として事業協力ができる信頼のおけるタイ人パートナーを探すといったアプローチが重要になるだろう。
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執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)
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