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更新日:2024/09/11 公開日:2024/09/02
テーマ: 03.海外ビジネス
新時代のタイ企業再編への道筋 第2回
複数拠点を整理する、 「地域統括会社」という選択肢
前回はタイにおける日系企業進出の推移を、背景にある「BOI恩典」とともに見てきました。しかし恩典(インセンティブ)にあずかろうと、現地で複数の事業会社を立ち上げるケースが続出。それによって、ある問題が生じてしまったのです。今回はその点を解説していきます。
(記事一覧)
第1回 日系企業のタイ進出を支える「BOI恩典」の恩恵と弊害
第2回 複数拠点を整理する、「地域統括会社」という選択肢【本記事】
第3回 グループ再編の鍵、「企業統合」と「吸収合併」
前回説明したように、タイに進出した日系企業は、現地で複数の事業会社を立ち上げることが少なくありませんでした。その結果、大きく二つの事態が起こりました。
一つは、総務や経理、人事などの管理部門がグループ企業内で重複してしまい、グループ全体で見たとき二重、三重のコスト・人員がかさむ“ムダ”の多発。必要人員が増えれば、それだけ現地グループ企業の日本人管理職の確保や選抜の難易度も増していきます。近年は、海外赴任を嫌がる社員も増えてきているといわれており、海外赴任希望者を見つけるのも容易なことではありません。
もう一つが、横の連携の希薄化。同じグループに所属する事業会社同士とはいえ、縦割りの事業部門制などの弊害から、営業や調達・管理部門など、横の連携がほとんど図れなくなってしまったのです。「船頭多くして船山にのぼる」というように、指示する立場にいる人間が多くなるほど、統制はとりづらくなるものです。しかも、日本から遠く離れたタイの事業会社ともなれば、日本にある親本社が統制を利かせるのにも限界があるでしょう。支援体制が手薄になるということも起こりがちです。
このような状況を改善するための方法の一つが、グループの再編です。主な手法には、グループ企業の統合と地域統括会社の設置があります。
前者については次回で詳しく説明するので、今回はグループ再編を検討する際、しっかり検証すべき事項と地域統括会社設置の種類や、メリット・デメリットについて解説します。
再編成功への第一歩は、目的の明確化
グループ再編を行う際、はじめにやるべきは、再編の目的を明確にすることです。「何を当たり前のことを」と思うかもしれません。しかし、ここを疎かにしてしまったがために、再編後も思ったような効果が得られなかったというケースは多いのです。
再編を行うには、目的に合った最適なスキームを構築する必要がありますが、入り口である目的が曖昧なままでは“最適”なスキームなど選びようがありません。結果、享受できるはずのメリットを大きく棄損するといった事態に陥るのです。
再編目的の主なものとしては、コスト削減や地域での統括機能の強化があるでしょう。コスト削減を実現する方法としては、「不採算事業からの撤退」「類似事業の統合」「連携強化でシナジーが期待できる事業の統合」「シェアードサービスによる重複業務の一本化」などがあります。どのような手段を採用すべきなのか、具体策まで検討しておくことが大切です。
統括機能強化も同様に、ガバナンス強化が目的なのか、余剰資金の有効活用を実現したいのかといったことまで検討しましょう。参考までに、タイのほか3カ国において地域統括機能を設置した企業がどのような目的を持っていたのかJETROによる調査をご紹介します(図2-1)。
また、タイでは最低株主数が2名となっていますが、2008年までは7名だったため、現在も株主が多い会社が散見されます。そのため、グループ再編を機に株主数を整理するという目的を掲げる会社もあります。
目的がはっきりしたら、次は最適な再編スキームの構築です。まずは、「再編後の会社をどこに設置するか」を検討します。タイ国内でいいのか、それとも近隣諸国、例えばシンガポールのほうがメリットを見込めるのか……。
タイよりもシンガポールのほうが人件費は高くつきますし、駐在員のVISA取得のハードルも高くなっているなど、国によって外資系企業を対象にしたインセンティブも、人件費の相場も異なるからです。
タイに会社を置く場合は、資本構成も検討すべきでしょう。これは受けられる恩典との関係もあるため、BOI恩典や歳入局恩典、商務省許認可など、それぞれ取得条件の異なる各種恩典のどれを狙うのかと合わせて検討する必要があります(図2-2)。
例えば、IBC(国際ビジネスセンター)の制度を活用してBOI恩典を受けるには、従業員10人以上、払込資本金1,000万バーツ以上という条件をクリアしていなければなりません。歳入局恩典を受ける場合だと、さらにタイ国内で支出経費が6,000万バーツ以上という条件も加わるため、1~2社統括するだけではペイするのが難しいといえます。
また、地域統括機能を持たせることが目的の場合、外資ではなくタイ内資企業のほうが、さまざまな制約を受けることなく大きなメリットを享受できるケースもあります。外資企業にこだわりすぎる必要もないでしょう。
組織再編の自社内バックアップ体制についても確認しておきましょう。日本の親会社からサポートが得られるのか? 事業部門が分かれている場合、「A事業部はしっかりとしたサポート体制が整っているのに、B事業部はそうでもない」など、濃淡があることは珍しくありません。
しかし再編を行う場合、このギャップが再編実現を妨げる壁となることが少なくないため、しっかり確認しておきましょう。
親会社主導で再編スキームを構築しても、現地スタッフにそれを実行できるだけの対応能力がなければトラブルが発生することは目に見えています。現地スタッフの能力に合わせて、組織再編の実行を阻害しうる現地特有の事象や事情がないかも確認しておくべきです。
地域統括会社を用いた3種類のグループ再編
ここからは、地域統括会社を用いたグループ再編について解説します。統括会社の代表的な設置形態には、(1)中間持株会社型、(2)地域管理会社型、(3)中核事業会社型の3種類があります(図2-3)。
(1)は持株会社を設置して統括機能を持たせることになるため、意思決定の実態と整合性がとりやすく統括機能を発揮しやすいメリットがあります。
(2)は地域子会社と資本関係を持たない管理会社を設置する形態で、間接部門の業務を集約させて業務効率化やコスト削減を実現するシェアードサービスに向いているといえます。
ただ、(1)も(2)もあらたに法人を立ち上げることになるため、設置・運営コストがかさみます。
(3)は既存の現地子会社をその地域の中核企業と位置づけ、他の地域企業の管理業務支援を担う形になります。新たに海外拠点を設置するコストや資本金負担、時間などを節約できるというメリットがあります。
半面、事業を行いながら管理業務支援も担うため、地域統括機能としての負担が増すことになり、かつ業績管理も複雑になるというデメリットもあります。
いずれの形態も一長一短があるので、自社の設置目的や投資余力などを総合的に踏まえた上で、もっとも適切なものを選ぶとよいでしょう。
しかし、現地特有の事象・事情など細やかなところまで目配せしながら再編という一大ミッションを実現するのは容易なことではありません。タイにおけるグループ再編に不慣れな人材ばかりでは、どこに落とし穴が潜んでいるかもわからないでしょう。そもそも、タイにおける再編事業をいくども経験している人材が社内にいるほうが稀有なことと思います。
そのため、専門的な知識と豊富な経験を有する第三者を確保してアドバイスをもらえる体制があるかどうかも、再編を成功させるうえで重要なファクターになってきます。
次回はグループ再編のための「グループ企業の統合」について解説していきます。
執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)
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