事業承継M&Aには、各領域にまたがる高い専門性だけでなく、事業への深い理解が求められます。
山田コンサルティンググループは調剤薬局M&Aのプロフェショナルとして、
円滑な事業承継の実現をサポートいたします。
年度末によく行われる棚卸ですが、「薬局を譲渡する」視点でみると、棚卸の質は譲渡額に大きく影響するということをご存知でしょうか?
会計税務上、棚卸は当たり前、かつ正確にできていなければならないものです。
ところが、実はできていない薬局が非常に多く、そのために、譲渡額が数百万円単位で変更になるケースが多く確認されています。
ここでは、譲渡する上での意義のある棚卸方法とよくある誤った棚卸方法をご紹介します。
薬局を譲渡する際、医薬品をはじめとする「在庫」は価格に大きく影響します。
一般的な薬局の在庫金額は1店舗当たり300~2,000万円ほどあり、譲渡金額の10~30%ほどを占める大きな資産です。
この在庫金額を確定させるのがまさに棚卸であり、M&Aにおける価格決定に重大な影響を及ぼします。
棚卸は譲渡する直前の調査(デューデリジェンス)でも行うわけですから、そこに至るまでの日常の棚卸にそこまでナーバスにならなくてもいいのでは?と感じる方もいるでしょう。
実は、調剤薬局のM&Aにおいては、常日頃の棚卸に向き合う姿勢こそがM&Aの成否を分けるほどの影響を持つことも少なくありません。
ポイントは、当初価格と最終価格のギャップです。
例えば、交渉当初、譲渡価格が2億円と言われ、それに合意していたとします。
ところが、土壇場になって「調査の結果、最終価格は1億9000万円になりました」などと言われたら、どのように感じるでしょうか?
手取りが大幅に減るので、当然、がっかりするでしょう。また、相手に疑問や怒りも覚える方もいるかもしれません。
しかし、この減額が棚卸の不備によるものだった場合、買手に非はありません。責任は売手にあります。
もともとそれだけの企業価値だった事実を一方的に見誤っていた、ということです。
同じ1億9000万円という結果だったとしても、最初から1億9000万円として合意していたほうがお互いの印象もよく、気持ちよく終われたはずなのに、途中で金額の変更があるとお互いの心象はかなり悪くなります。
どの業種のM&Aにおいても、このような「相手への信頼度」が極めて重要です。
M&Aの交渉ではこれ以外に様々な論点が出てきますが、一つの小さな不信から決定的な不信につながり、破談になることは少なくありません。
そのため、なぜ棚卸の不備による価格への影響が発生するのか、理解しておく必要があります。
では、棚卸の不備はどのような経緯から起きているのでしょうか。
答えはシンプルで、実際に存在する在庫を正確に把握していなかったことによるものがほとんどであり、つまりは、「しっかり棚卸をしていない」ということです。
これまで現場で遭遇してきた、問題がある棚卸の事例を紹介します。
半分数えて、倍にすればOK?
在庫が多い薬局ではカウントするのにも時間がかかるため、従業員も不満がたまるでしょう。
従業員の態度を見かねたオーナーは、調剤棚の数を目安に半分までカウントした時点で棚卸をやめてしまいました。
そして、なんと集計して出た数字を倍にして棚卸の帳簿に書き記しておいたのです。
そうなると、従業員も味をしめ、次第に習慣化されしまった、とのことでした。
類似した行為が、オーナーの目の届かないところで行われている可能性は十分に考えられます。
理論値を転記しただけ
近年、在庫システムやレセコンの発達に伴い、在庫の理論値を求めることができる薬局が増加しました。
それに甘んじて実在庫は数えず、理論在庫を実在庫として報告する薬局は少なくありません。
当然、理論値で数える回数が多ければ多いほど誤差が広がっていき、あとに痛い目をみます。
理論値は、ある時点の在庫数を基準に入庫数と出庫数を足し引きし、現時点での在庫数を割り出す形で算出されます。
データ化されない在庫の動きなどがある場合、把握しきれず、結果、数値に誤差がでます。
区画を間違えてカウント
最近よく見る棚卸にかかわるミスで、間違えることは少ないのですが、間違えると数字に大きな影響を与えます。
在庫を複数の区画にわけ、各区画の数を足し合わせて理論値で修正する方法です。
棚卸を複数日に分けることができ、残業しなくてもよいというメリットがあるので多くの薬局で取り入れられています。
ただし、この方法の欠点は、カウントする人の意思疎通がなされないとダブルカウントや数え漏れをしてしまうところにあります。
このような棚卸の結果、なぜ譲渡価格のギャップが起きるのでしょうか。
この「M&Aにおける価格決定の流れ」を見てわかるように、ポイントは1次価格提示と最終価格提示があることです。
はじめに1回目の価格提示が「1次価格提示」で行われますが、ここでは初期的な情報に基づいて調査された価格が提示され、その価格や条件を受け、買手が選定されます。
そして次の調査を経て最終的な価格が「最終価格」として算出されるのですが、その調査は一般的に「デューデリジェンス」と呼ばれ、非常に詳細な部分まで確認する調査となります。
ここでは、主に初期的な情報が実態と乖離がないかの確認が行われ、初期的な情報がいい加減に作成されていたら、当然に実態との乖離が生まれ、その結果は価格に反映されます。
つまり、「棚卸」はM&Aにおいて、日常業務における利用目的とは別の重要な意味があるということです。
最後にこれまでの話のまとめとして、M&Aにおいて意義のあるおすすめの棚卸方法をご紹介します。
肝になるポイントは「正確に数え」、「証拠を残す」ことに尽きます。
ポイント1:履歴を残す
「誰」が「どこ」を「いつ」、「どのように」数えたかを記録しておくことをおすすめします。
医薬品リストを印刷しそこにメモをとったものをパソコンに入力する手法が一般的ですが、そのようなメモにこれらの記録しておくと有効です。
最近では電子端末を用い、紙にはメモをとらず直接入力するケースがありますが、その場合はデータを残しておきましょう。
M&Aでは、少なくとも過去3年分の情報を確認することが多くあるので、保存期間は最低でも3年をおすすめします。
ポイント2:複数名で数える
薬の監査と同じで、ダブルチェックを可能な限り行いましょう。
人手も時間もかかりますが、正確性はかなり増します。
ポイント3:責任を与える
棚卸だけのための責任者をその場で決める方法もおすすめです。
責任が出てくる分、ミスをなくそうとする気持ちが働きます。
また、記録を残すことで自分の痕跡が残るので、自然と責任感が出るので記録をとることは特におすすめです。
ポイント4:できれば1回で全部数える
時間の効率化のため、日をまたいで分割して数えることもあると思いますが、実は誤差が出る可能性が高くなります。
特に一包化などの準備をする薬局は要注意です。
可能な限り1回で数えることをおすすめします。
棚卸に適正な頻度というものはありません。
調剤薬局では、半年に一回のパターンが多く見受けられますが、ポイントさえ押さえられていれば年一回の実施でも問題ありません。
実際のところ、完璧な棚卸ができている薬局はほとんどない、というのが実情ではあります。
通常業務の中で大きな問題に発展することは少ないかもしれませんが、近い将来、譲渡を考えている方は見直しが必要です。
棚卸は譲渡価格に直結する業務、ということをくれぐれも念頭に置かなければなりません。
調剤薬局のM&Aでは、売手の棚卸が管理されているだけで好感を持たれることも多く、信頼関係を築くことができます。
このページに記載する棚卸方法は、確実に譲渡額や譲渡条件を変えられるものではなく、実行する場合は自己責任として取り扱いください。
つきましては、弊社は棚卸に関するいかなる事象も責任を負いかねます。
あくまで、一例としてご認識ください。
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