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2023/02/24

テーマ: 03.海外

バンコク首都圏の住宅市場、
人気の郊外低層住宅と中国人が買いあさるコンドミニアム

目次

タイ住宅市場の概要

BMR住宅市場の概要

BMRのコンドミニアム市場

コンドミニアム市場の動向は、2022年の第2四半期からは内需・外需ともに改善に向かった。内需の要因は、新型コロナウイルス規制の緩和や住宅購入に対する政府のインセンティブ施策(LTV要件の緩和や譲渡権・抵当権設定手数料の引き下げ)などである。一方、外需の要因は、2022年5月1日に開始されたタイへの渡航制限の緩和などである。

タイへの外国人の入国が始まったとはいえ、外国人のBMRのコンドミニアム需要は通常の水準にまでは戻っていない。これには、中国政府のゼロコロナ政策によって、最大の外国人購入者である中国人のタイ渡航が困難になっていることが大きく影響している。
デベロッパーは、今後外国人購入者の入国が増え、2023年にはコンドミニアム需要は完全にもとの水準にまで戻るだろうとみている。

中国人は、外国人の中で最大のタイのコンドミニアム購入者であり、2022年上半期も金額・数量ベースともに市場で圧倒的なシェアを占めている。

中国人がタイのコンドミニアムを購入する理由:
中国の不動産価格が高騰しているのに比べ、タイでは不動産価格が割安であること
多くの中国企業が自国外への事業移転・追加施設の設立を行っていること
上質なライフスタイルを送ることができ、生活費や学費が割安で、医療の質が高いタイが、手頃な滞在先として注目されていること

BMRの低層住宅市場

低層住宅市場は、コロナ禍による在宅勤務への移行などの消費者行動の変化がもたらす実需にけん引されている。例えば、以前よりも、広さや機能性を備えた住宅などが求められるようになっている。これを受けてデベロッパーは、多くの新しい低層住宅プロジェクトを主に郊外で開始している。郊外は都心よりも地価が安いということに加えて、鉄道インフラの整備が進んでBMR全域から都心へのアクセスが改善しつつあるという利点がある。
これにより、郊外での低層住宅プロジェクト、特に低中層戸建住宅やタウンハウスの供給が増加しているため、高止まりする家計負債比率やインフレ率の上昇により、市場が供給過剰に陥る可能性がある。
一方、建設コストや地価の上昇により、最近開始されたプロジェクトおよび今後開始が予定されているプロジェクトの販売価格が上昇しており、特に開発に広い土地を要する戸建住宅は販売価格の上昇が著しい。

大手住宅デベロッパーの動向

タイにおける大手住宅デベロッパー

大手デベロッパーの主な動き
新たに発売されるものは、若い世代をターゲットに、手頃な販売価格を設定した住宅プロジェクトが中心となっている。
デベロッパーは、特に低層住宅プロジェクトの場合、リスクの軽減、資本基盤の強化、競争力の強化を目的として、合弁会社を設立する傾向がある。
デベロッパーは、顧客のニーズに合った住宅プロジェクトを提供するようになっている。
太陽光パネル一体型屋根やEV充電器を備えた住宅を発売するデベロッパーが多い。
Sansiri、SC Asset、Origin、Sanaの4社は、暗号通貨を住宅販売の決済手段として受け入れている。
Originは、ペット飼育世帯の増加に伴いペット可コンドミニアムを発売している。またコンドミニアム投資を希望する顧客向けの不動産投資プログラムも提供している。

住宅市場の主な動向

現在の住宅市場の動向ひいては今後の機会や課題に影響を与える可能性のある要因としては以下のようなものがある。

住宅市場の機会・課題に関わる主な要因

大量輸送システム

政府の強力な支援を受けてバンコクでは鉄道システムの拡張が進行中で、今年もいくつかの路線が建設されており、将来的には更に拡張される予定である。
新交通システムの整備は、各地域の不動産市場の成長を促進することが予想される。また、デベロッパーにとっては、新交通システム周辺の土地の購入やコンドミニアム・低層住宅の開発といった投資機会をもたらすことが期待される。

消費者の住宅購買行動は、新しいライフスタイル、デジタル技術、特定ニーズに対応する住宅、環境に配慮した住宅の登場などの要因に影響を受けている。

バンコク都市計画

多くの規制が現状に合わなくなっているため、 現在の市場の需要に対応するよう、住宅開発の方向性を定める新バンコク都市計画が現在検討されている。
新計画により、住宅地の拡大(特に郊外地区)、一部地域での容積率(FAR)の引き上げ、主要な大量輸送機関駅周辺の住宅開発を支える道路網の拡張など、より多くの住宅開発機会が提供されることが期待されている。この新バンコク都市計画の土地利用図が完成するのは、2024年の予定である。

建設資材・土地価格

ロシアのウクライナ侵攻の影響により、燃料価格やインフレ率が上昇している。今後もタイの建設資材価格、特に鉄鋼製品への影響が続くものと思われる。

一方、住宅開発用地は、将来の大量輸送路線に近い土地や低層住宅用地を中心に競争が激化しており、地価が上昇しているのが現状である。
これらにより、住宅建設コストが大幅に上昇しており、今後、新築住宅の価格は上昇することが予想される。

土地・建物税

新たな土地建物税の徴収率は、2020~2021年には10%だったが2022年4月には100%となった。この新税は今後様々な面で住宅市場に影響を与える可能性が高い。
税金を避ける目的で、土地の売却やその土地でのプロジェクト開発を希望する地主(不動産開発業者は除く)が増加し、住宅数も増えることが予想される。
一方、コンドミニアムのデベロッパーは在庫を抱えることになり、コスト負担が増えることが予想される。

金利

米国の利上げによるバーツ安に対応するため、タイ中央銀行は2023年末まで(2%まで)政策金利の利上げを継続するだろうとみられている。これによる住宅市場の購買力の低下および住宅価格や建設コストの上昇が予想される。

消費者の住宅購買行動は、新しいライフスタイル、デジタル技術、特定ニーズに対応する住宅、環境に配慮した住宅の登場などの要因に影響を受けている。

住宅購買行動に影響を与える主な要因

ニューノーマル(新常態)のライフスタイル

コロナ禍によってニューノーマルとなったライフスタイルによって、消費者の住宅購買行動も変化している。

在宅勤務
オフィスワーカーの在宅勤務への移行に伴って、顧客の嗜好が変化し、広くて機能性の高い低層住宅の人気が高まっている。

休日は自宅で
移動の制約から、自宅で過ごす人が増えている。そのため今後の住宅開発には、低層住宅・コンドミニアムともに、家で快適に過ごせるような住宅設計や設備が欠かせない。

デジタル技術

顧客、特に若い世代はデジタル技術を様々な用途に拡大することに前向きであることから、住宅市場の大手デベロッパーは、生活の利便性や安全性の向上や感覚的操作のための技術を住宅プロジェクトに導入し始めている。
例:
スマートホーム、ホームオートメーション
オートパーキングシステム
住居内の家電などを「スマート」操作できるアプリ
その他関連技術

タイでは、特に若い世代の間でデジタル資産の人気が高いことを受けて、住宅販売代金の決済手段としてデジタル資産を受け入れる動きが、デベロッパーの間で広がっている。

特定ニーズに対応する住宅

特定ニーズに対応する住宅の増加
以下のような特定のニーズを持つ顧客ニーズに対応する住宅プロジェクトが増えていく見込み。
ペット可コンドミニアム
医療・介護サービス付き住宅
投資用不動産(IP)プログラム付きコンドミニアム*

※消費者の住宅購買行動は、新しいライフスタイル、デジタル技術、特定ニーズに対応する住宅、環境に配慮した住宅の登場などの要因に影響を受けている。

環境に配慮した住宅

タイでは、政府が環境政策を推進しており、人々の環境意識も高まっている。これにより、環境に配慮した住宅や省エネ型の住宅の市場が成長・拡大している。
現在、以下のような設備を備えた住宅プロジェクトが開始されている。
・EV充電器
・太陽光パネル一体型屋根トップ
・廃棄物管理システム


出所:各不動産会社、各種報道

現在、タイでは、LTV(担保価値に対するローン額の比率)の上限を100%に引き上げるなどの住宅ローン規制の緩和、不動産譲渡や住宅ローンの手数料の引き下げ、長期滞在ビザに関する新しいルール、外国人のタイでの物件購入機会を拡大するための規制緩和など、住宅販売を促進するための様々な施策が実施されている。

住宅市場支援のための政策や規制

LTV規制の緩和について

タイ中央銀行(BOT)は2021年10月に住宅ローン融資のLTVを緩和し、住宅購入者が2022年末まで、住宅価格の100%まで融資を受けられるようにした。

不動産譲渡・住宅ローン手数料の引き下げ

政府は2021年2月に、譲渡手数料と住宅ローン手数料を引き下げ、その期間を2022年末まで延長するとした。対象は新築・中古を問わず、最高価格が300万バーツ以下の戸建・コンドミニアム・土地である。ただし適用されるのは、タイ国籍者のみである。

譲渡手数料:2%(通常手数料)から0.01%へ
住宅ローン手数料:1%(通常手数料)から0.01%へ

長期滞在者(LTR)ビザ

2022年9月に長期滞在ビザに関する新しいルールを導入した。これにより、居住、労働、投資などの目的でタイを訪れる投資家、人材、リモートワーカー、退職者などを増やすことを目指している。

メリット
・10年更新、再入国も可能(有効期間5年、延長可能期間5年)
・LTRビザ保有者の配偶者と子供は同じビザが取得可能(1家族4名まで)
・90日ごとの報告義務を1年に延長
・更新可能なデジタル労働許可証:有効期限5年
・対象産業で働く高度専門職の個人所得税:17%に減税
・タイ国際空港でファーストトラックを利用可能

タイにおける外国人土地所有に関する関連規制

低層住宅・土地 :
タイ政府は、2022年9月から外国人がタイ国内の居住用不動産を完全に所有できるようにする以下の新たな政策を発表した(が、後に閣議で否決された)。

条件:
・1ライ(約1,600m2)までの土地の所有が可能
・投資額4,000万バーツ以上、3年以上(旧法では5年以上)

コンドミニアム:
外国人が所有できるコンドミニアムは、プロジェクト総面積の最大49%までとされている。

 


出所:タイ投資委員会(BOI)
(1) 土地法改正法(No.8)B.E.2542 (1999)
(2) コンドミニアム法, (No. 4), B. E. 2551 (2008)

まとめ

2022年上半期のバンコク首都圏(BMR)の住宅市場は、封鎖措置が緩和された後の景気動向や住宅開発業者の景況感の回復を反映し、明るい兆しを見せた。
投資家や国外からの需要が中心で景気の影響を強く受けやすいコンドミニアム市場は、低層住宅市場よりも厳しい状況に陥った。しかしデベロッパーは、今後2年間で、コンドミニアムの顧客が完全に市場に戻ってくるだろうと予測している。
低層住宅市場は、新型コロナウイルス感染拡大以降、顧客のライフスタイルの変化がもたらす実需に支えられている。これを受けて、デベロッパーが多くの新規低層住宅プロジェクトを立ち上げているが、これが市場の供給過剰をもたらすのではないかと懸念されている。
BMR住宅市場は、メガインフラ開発、外国投資の拡大、BMRの都市化拡大などにより、今後も堅調な成長が続くものと見込まれる。ただし、市場成長を後押しする要因が存在する一方でリスク要因も存在する。
従ってデベロッパーは、関連規制の変更に対応しながら投資や計画に関する決定を行うなど、 新規プロジェクトには慎重に取り組む必要がある。

主な機会

大量輸送機関(BTS/MRT)の新路線、病院、学校、大学、デパート、空港の周辺地域での住宅プロジェクト
郊外での住宅プロジェクト
若い世代が購入しやすい価格の中低層住宅
タイに居住または投資を希望する外国人向けの住宅プロジェクト
デジタル技術を活用した持続可能なライフスタイルを支援する住宅プロジェクト
以下の設備・機能・サービスなどを備えた住宅への投資拡大

・EV充電器
・太陽光パネル一体型屋根トップ
・ペット可
・介護サービス
・投資不動産 (IP)プログラム

課題

経済状況および買い手(国内の購入者、投資家、外国の購入者)の購買力の動向の今後の見通しが不透明であること
一部地域の低層住宅やコンドミニアムで供給過剰に陥る可能性があること
建設コストの増加
土地建物税および金利の上昇
政府の政策・規制の変更
住宅購買行動の変化

主な検討事項

新型コロナウイルス パンデミック
ウイルスの突然変異による感染の拡大や感染対策の再強化などによって、物件の販売が困難になる可能性がある。また、こうした状況が国内消費と外国人訪問者数にも影響を及ぼす可能性がある。

市場の需要
今後の投資を成功させるためには、住宅プロジェクト実施にあたり、顧客の需要や嗜好に影響を与える可能性のある要因や動向を把握する必要がある。

外国人投資家規制
外国人投資家が住宅プロジェクトに投資する場合、タイ人パートナーとの合弁会社を設立する必要がある。

レポートのPDFをご希望される方は、下記よりダウンロードください。

執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)

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